第104話 それは久しぶりに見た影だった。
「え?」
声の高さ的に女性であることは分かるが、ゆうきの知り合いにこんな声の持ち主はいない為、そんな声が出てしまった。
「やっぱり...やっぱり貴方なのね!」
そう言いながら黒い誰かは歪な歩き方でゆうきに近寄ってくる。
「ひっ!」
無意識に吸い込んだ息が音となって出ていく。黒い何かがなぜかたじろいだように見えたので、その機を逃さず荷物を置いてゆうきは走って逃げる。
「まって...逃げないでよ」
そんな声が背後から聞こえるが振り返らずにそのまま足の回転を速める。
「はっ...はっ..」
碌に体力管理ができず、すぐに息が上がりは始める。だけど足は止めずに走り続ける。止まってしまったらもう動けない気がしたから。
走りながらゆうきはスマホに手を伸ばす。震える指を何とか制しながら誰かに電話を掛ける。誰でもいいから助けて!その一心でゆうきはスマホを耳にかざす。
「誰か...出てよぉ」
そんな願いも虚しくなり続けるコール音。どのくらいその音が流れたかわからないがようやく電話が繋がった。
<...もしもし。ん?走ってるのか?>
出てくれたのはさっきスーパーであった六条だった。
「た、助けて!」
<どうした!?何があった!>
「さっきから変な人に追われてるの!」
<大体わかった。そいつはまだ追ってきているのか?>
「わかんない...後ろ見たくないよぉ....」
<大丈夫、お前は後ろを見なくていい。ビデオ通話に切り替えてもらえるか?>
六条に言われた通りにゆうきは通話をビデオに切り替える。
しばらくしてスマホの画面にはきっと車の中であろう六条さんと、走っているおかげでブレまくりのボクの顔が映し出される。
「見える?」
<ああばっちり見えるぞ。いいかゆうき。そのままゆっくりスマホを体の外に向けてみろ>
「う、うん」
言われた通りにインカメラをボクの体から外して映す。
「見えてる?」
<しっかり見えてるから大丈夫。今ので大体場所は把握したから今すぐ迎えに行くから、このまままっすぐ進め!いいか?>
「う、うん」
<それから通話は繋げたままで>
六条はそういうと車のエンジンを動かしゆうきの元に向かう。
そのエンジン音はゆうきの方にも聞こえていた。その安堵感からゆうきの力は徐々に抜けて足の回転は遅くなり、段々と走りではなく歩きになってしまった。
例え夏の日が長いとはいえもう辺りは真っ暗。道を照らす明りは街灯だけになっていた。
ややあって、正面からまた別の明りがこちらに向かってくる。
その明かりの正体は車でゆうきの近くで止まった。
さっきのこともあって警戒をしていたゆうきだが運転席から降りてきたのが見知った顔で胸をなでおろす。
「ゆうき無事か!」
「とりあえず大丈夫です...」
糸が切れて座り込んでしまったゆうきに膝をついて手を伸ばす六条。ゆうきはその手を掴んでゆっくりと立ち上がる。
その時六条はゆうきを抱き寄せる。道に止めた車のヘッドライトに人影が見えたからだ。
そしてその影は徐々に人の形に成っていく。
「いきなり逃げるなんてひどいじゃない」
「ひっ」
黒ずくめの誰かに対して六条は果敢に尋ねる。
「あなたは誰だ」
それに黒ずくめの誰かは冷たく答える。
「別にあんたに教える必要はない。ゆうきがわかればそれで」
そう言って黒ずくめはゆうきに視線を落とす
「知ってるのか?」
念のためゆうきに確認するもゆうきは首を大きく横に振った。
「この子は知らない様だが?」
黒ずくめは少しの沈黙の後にそのフードに手をかける。
「確かにこんな夜にフードなんて被っていたらわからないものね。私が間違っていたわ」
そう言って黒ずくめはフードを脱ぐ。
フードを取った黒ずくめを見るとゆうきはその顔に釘付けにされた。
「母....さん?」
そう言われた黒ずくめの女性は微笑んだ。
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