第70話 忘れ物

『ボクの方から発言ができなかった理由は大きく分けて二つあります。一つはボクが事態の把握ができていなかったこと。もう一つが...』


恥ずかしさが少しだけ残っていたので言うのを一瞬躊躇ってしまったが、これ以上誤解を招きたくないので恥を忍んでボクは言った。


『家にスマホを忘れていったからですっ!』


【コメント】

 :え?

 :マ?

 :今時スマホ忘れる高校生いる?w

 :それならしゃーないわ笑笑

 :ほんと?

 :一つめは納得だけど...ゆいちゃんスマホ忘れたの??


『同じことを高校の同級生に言われました...忘れたのは本当のことで、下校するときに気が付きました』


 :学校に着いたらロッカーみたいのに入れないの?

 :登校中に気が付くのは分かるけど、下校の時まで気が付かないことある?

 :草


『あまり詳しくは言えないけど、ボクの学校は授業中に鳴らさなかったり、使わなかったらいいっていう感じの学校なので』


 :なるほど

 :いいな~

 :俺の学校預けなきゃいかんのよな

 :嘘だろ

 :本当に巻き込まれただけ?

 :そこよそこ

 :演出みたいな反応してたじゃん


『予定には全く書いてなくて、いつもみたいなドッキリじゃないかなって思ったからああいう行動を取ったんです』


 :まあ、ひとまずは分かった

 :公式から文書出てきて、ゆいちゃんの口から説明があってなお騒ぎ立てる連中はただのアンチ

 :ここまで言って否定的なコメがあったらアンチでいいよ


『みんなありがとうございます。それじゃあ、今日はこの辺りで終わりにさせていただきます。見てくださった皆様ありがとうございました。』


------この放送は終了しました------


予想以上に暖かいコメントがたくさん来たことに泣きそうになるけど、何とか堪えてボクは配信を切った。


今までにない緊張で強張らせていた体がほぐれていく。


「ふぅ...」


いつの間にか喉が渇いていたのでデスクに置いてある水を口に含んだ時に電話が鳴る。


「ん"!?」


急に着信音が鳴ったことに驚き咽てしまった。


ゆうき :〈も、もしもし〉


草 薙 :〈あ、さっきはお疲れ様です〉


ゆうき :〈あ、ええっと....〉


草 薙 :〈本来であればこちら側に確認を取ってからああいう事はやってほしいんですけどねぇ〉


ゆうき :〈それは、本当にごめんなさい...〉


分かっていたけど、セカプロの方に許可を取らずにやるのはまずかった様子


草 薙 :〈今回は悪い方向に転がらないので、大丈夫なんですが...次から連絡くださいよ?フォローできなくなります〉


ゆうき :〈き、肝に銘じます〉


草 薙 :〈と、言っても今回は私たちの方がフォローされたんですが...さっきの配信で大半の人は落ち着くと思いますが、やはり一部アンチが沸くことは覚悟していてください〉


ゆうき ;〈わかりました〉


草 薙 :〈明日から普通に配信して大丈夫ですよ。それじゃあ私はこれで〉


ゆうき :〈はい、お疲れ様です〉


そこで電話は終わる。ボクが覚悟していたようなお咎めは無くてホッとしたのもつかぬ間に今度は父さんからメールが来た。


◇◇


 今回の件は完全にこっちのミスが招いた事態だ。すまない。二度とこういうことが起きないように対策は強化しておくから安心してくれ。


P.S.

スマホは忘れないようにしてくれよ?


◇◇


「むぅ...結構気にしてるんだぞ~!」


現役高校生が、しかもVtuberというネット上での存在が、そのつながりを持つものでもあるスマホを忘れるのはいささかどうかと自分でも思っていのだ。気をつけないと...


この騒動はこのまま収まっていくだろう。肩の荷が軽くなったことを感じながらボクは眠りにつくのだった。



余談だが、それからというものゆうきは外出する際には必ず確認するようにしたとか...それを知るのは本人のみである。

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