最も狂おしきもの
イキリ虻
最も狂おしきもの
ああ、そこの君、今暇かい?おお、そうか。じゃあ、ちょっとお願いがあるんだが。ああ、お願いと言っても大したことではない。ただ、話を聞いて欲しいんだ。…そう嫌な顔をしないでくれ。うん、ここはちょうどよく喫茶店だ。聞いてくれるならケーキでもなんでも奢ろう。好きにしてくれ給え。幸い、金には困っていないのでね。
いきなり話しかけてこんな年齢も分からない…いや、私は17歳だ。うん。このような喋り方をしてはいるが17歳だ。ああ、済まない。本題と逸れてしまったね。こんなよく分からない人間の話を聞かされて非常に気の毒だが、私は何かを思いついたら直ぐに人に話してしまいたい、そんな性分でね。前置きが長くなってしまって済まない。そろそろ話をしようか。
早速だが、君はこの世で最も狂っている行いはなんだと思う?わかっているかも知れないが、君の答えなんてどうでもいいんだ。あくまでこれから始まる話の導入の形式としての質問だからね。君がどう答えようと、私の話の展開は変わらない。私はね、この世で趣味で小説を書くということほど酔狂なことは無いと思うんだ。意味がわからない、という顔をしているね。待ち給え。今説明するから。趣味で小説を書く、と言うほど目的のはっきりしない行為はないと、私は思うね。そして、目的のはっきりしない行為を何度も試行錯誤してまでする。こんなの狂ってるとしか言いようがないじゃないか。小説とは作者の人格の発現だ。こんなものを書いて、一体なんの意味がある?言ってしまえば、公の往来で真っ裸になるようなものだ。本当に小説を書くのがうまい人でないと、小説に可愛らしく服を着せてやることなんて出来やしないさ。だからこそ、私は人の小説を否定する人が嫌いでね。ここで言う否定というのは批判とは違うよ?とにかく、その人が書いた小説が気に食わない、ならば否定して書くのを止めさせよう、という行為を私は否定と呼んでいるんだ。おや、もしかして、君もそういうものを書いたことがあるくちかい?そりゃあ話しやすいね。君は、物語をどう組みたてていた?…ふんふん。なるほど。頭に浮かんだものを…ね。そういう人間は、思考を挟まずに文章を書く。私も小説を書いているが、あれは実になんの思考も挟まずにできるものだね。キャラクターの設定を作り、世界観の中に入れてしまいさえすれば、勝手に動いてくれる。なんとも楽なものだ。ああ、結構結構。こういう小説のできかたこそが、小説は人格の発言である、と私が言う理由だ。もう分かったね?小説を書くということが、いかに酔狂か。
ありがとう。私は実に満足だ。ついでにこのことを…それこそ小説か何かにして残してくれると満足度は高まるだろうね。じゃ、またどっかで。
最も狂おしきもの イキリ虻 @YHz_Ikiri
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