シオン②


 短い癖のある黒髪と対照的な恐ろしく白い肌の彼女は感情のまったく読めない視線をボクに向けていた。なんだか気まずくて目を逸らしてしまい、結果として全身を眺めるような形になってしまった。胸とかお尻とか、やたら自己主張の激しい身体にぴったりとフィットした革鎧——のような黒い服には、身体のあちこちにナイフホルダーとポーチがついていた。斥候レンジャー? いや、暗殺者アサシンかな。


 ボクが差し出された手を握り返すと、彼女はとんでもない力でボクを引っぱって立ち上がらせた。


「無事? 無事だよね。うん、無事でよかった」

「質問しながら自己完結しちゃってますね」


 質問の意味とは一体……。

 それにしても、


「どうしてボクの名前を?」

「私はカルディア。閣下——キミのお父さんの依頼で迎えにきたんだよ」


 質問に対する答えとしてはちょっとズレてる返事が来た。

 つまりボクの名前を聞いてた、ってことかな。


「父上の?」

「そう。これからキミを閣下のところまで連れて行く」

「え? 父上のところ、ってウチは無事なんですか?」

「大丈夫。キミの故郷の町にはゾンビは入ってきていないよ」


 ボクの家があるのは曲がりなりにも大都市だ。堅牢な壁に囲まれているし、衛兵の数も多い。ゾンビの侵入を防いでいるというのも頷ける話だ。


「けど、どうやって帰るんですか?」

勿論もちろん来た道を戻ってだよ」

「は?」


 いやいやゾンビだらけでしょ。何を言ってるんだろうか……この、カルディアさんは。


「確認ですけど、カルディアさんはここまでどうやって来たんです?」

「ゾンビを斬り倒してだよ」

「はい?」

「ゾンビを斬り倒してだよ」


 一言一句違わず復唱された。マジですか。


「片っ端から斬り倒したんですか?」

「そうだね。片っ端から斬り倒したよ」

「え、えぇ……」


 またまた御冗談を、と思ったけど、カルディアさんは真顔。

 冗談を言っているつもりはないらしい。


「大丈夫だよ。私が絶対、キミを守護まもるよ」


 そう呟いてカルディアさんは真顔でポンポンと僕の頭を撫でた。

 

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