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 …………。


 何かをしないといけない。与えられた運命をそのまま受け入れるなんて嫌だ。今こそ雀の涙ほどしかない僕の勇気を振り絞って、未来を切り開くんだ。


「でも……」


 それが出来たらどれだけ楽なことか。


 想うだけなら誰にでも出来るし、簡単だ。それを実行に移すのが困難で険しくて茨の道なんだ。


 そもそも僕には勇気の欠片さえないのかもしれない。だって勇気があればもう少しマシな状況になっていたはずだし、こんなウジウジ考えることだってなかったはずだ。


 こうして追い詰められて、いざ何かをしなきゃって頭では分かっているのに何も出来ない。決断することが出来ない。ホントに僕はヘタレだ……。


 ご先祖様は勇気で魔王を倒し、世界を平和に導いた。それなのに僕には肝心のその勇気がない。勇者の末裔なんて何かの間違いなんじゃないかとさえ思う。


 明日、旅に出たとしても僕に何が出来るっていうんだ……? 何も出来ないどころか、一緒に旅をしてくれるという傭兵たちの足手まといにしかならないに違いないよ、きっと。


「……ぁ……」


 気付くと僕の瞳から涙がこぼれ落ちていた。唇が小刻みに震えていた。全然止まらない。


 それどころか次第にそれらは大きくなっていって、ついにはしゃくり上げてくる。



 嫌……だよ……旅になんて……出たくないよ……っ……。



 なんで……こんな運命……神様は……僕に……。


「アレス! 起きておるかーっ?」


 その時、家の外から村長様の叫び声が響いた。


 齢八十を超えるというのに芯があって力強い声。それは数年前からずっと同じで、衰えを全く感じさせない。実は勇者の血筋なのは村長様なんじゃないかというくらいに活き活きとしている。


 僕は手の甲で慌てて涙を拭い、無理矢理に笑顔を作ってドアを開ける。


「こ、こんにちは……村長様……。てはは……ど、どうしたのですか?」


「おぉ、アレスよ。これから私の家に来なさい。お前とともに旅をする傭兵たちが先ほど村に到着して、私の家におるのだ。顔合わせをしよう。さぁ、早く!」


「あっ、ちょっ!? 村長様ぁっ!」


 僕は強引に腕を引っ張られ、そのまま村長様の家へ連れ出されることになってしまった。


 踏ん張って抵抗してみても靴底は滑り続け、土埃を上げるばかり。ホントこれだけの腕力があるなら、村長様が僕の代わりに魔王討伐の旅に出てほしい。きっと僕なんかより世の中の役に立つと思う。


 何の能力もない僕なんかより……よっぽど……。



 →20へ

https://kakuyomu.jp/works/16816700429434671245/episodes/16816700429435210669

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