第2話 叫び

 ······俺はガキの頃から要領が良かった。今自分がどんな状況に置かれているか。何が出来るか。どうしたら効率良く成果が上がるか。


 掃き溜めみたいな家庭に生まれた俺は、似たような環境で育った連中に自分の居場所を求めた。


 だがそれは一時的な依存だ。俺は集団行動

を学ぶ為にだけにそこに居続けた。そうでなければ、誰が望んでクズ共と同じ時間を過ごす物かよ。


 血と暴力の荒れた日常の中、俺は自分の転職を見つけた。それは殺し屋家業だ。依頼人の指定する人間を殺し、その働きに見合った報酬を受け取る。


 依頼人と暗殺対象者を見定める眼力。不測の事態に対応する機転。そして何よりも重要な暗殺術。


 その全ての能力が俺には備わっていた。俺は正確に。そして確実に依頼された仕事をこなして行った。


 常連の依頼人に専属にならないかと誘われたが断った。同業者から組織化しないかと言われたがこれも同様に断った。


 俺の能力は単独行動だからこそ発揮されるのだ。誰かに飼われるのも。他人に足を引っ張られるのも御免だ。


 ······その俺が人生で一度だけしくじった。正に痛恨時だ。その失敗で俺は命を落とした。


 あれはベットに眠る暗殺対象者を狙った時だった。政治中枢に居座る老いぼれをナイフ一突きで仕留めた迄は良かった。


 だが、背後から現れた老いぼれの妻に鈍器の様なもので後頭部を強打され俺は意識を失った。


 その傷が原因で俺はそのまま死んだ。一流を自負していたこの俺が! 反吐が出るような惨めな最期だ。


 そう。俺は嵌められたのだ。老いぼれの暗殺依頼をしたのは、何と老いぼれの妻だった。妻は部屋に潜み、俺が部屋に忍び寄るのを準備万端で待っていた。


 ······怒りに気が狂いそうになる。だが、それを含めて俺自身のヘマだ。それは認めよう。


 ふふふ。だが、捨てる神あれば拾う神ありだ。今俺はある女の胎盤の中で新たな命として成長している。


 神だが仏だか知らんが奴等の知らせによると、俺はこれから赤子として生まれても今の人格と能力を継承出来るらしい。


 本来なら記憶と能力は消去され、全く新しい人格として生まれるとの話だ。何故俺が優遇されるのか知らんが、俺には物怪の幸いだ。


 いや。僥倖と言っていい。俺はもう一度殺し屋としての人生を生きる。そして俺を嵌めやがったあの女に復讐してやる!!


 ······さあ。あと少しだ。もう間もなく俺は新たな命としてこの世に生まれる。早く。早く俺を生み出せ。


 ······何? 今何て言った? 俺は母親に日常的に虐待されて二歳で餓死するだと? お、おい。冗談だろう?


 二歳で死んだら、継承する俺の能力と人格が何の役にも立たないだろうが! ふざけるな!!


 せめて。せめて六歳まで生きさせろ! そうすれば。俺なら十二分に自力で生きていける!!


 ······何だと? 俺の母親になる女が何だって?


 ······かつて俺が殺した夫婦の娘だと? 馬鹿も休み休みに言えよ。何故そんな事をする? 何故二歳で死ぬと分かっていて生まれ変わらせる!?


 止めろ。止めてくれ! 餓死すると分かっていて生まれたい奴なんている筈が無いだろう! やめろぉっ!!


 

 ······どれ位時間が経過したのだろうか。俺の周囲はもう暗闇では無かった。狭い個室のベットに俺は寝かされている。


 ······何かが聞こえる。これは何だ? まるで何かを祝っているような感覚だ。一体何を祝うと言うのだ。


 ······聴覚が少しずつ冴えて行く。この音は。この声は。


 ······俺の泣き声だ。


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