第504話(閑話):猫の日




「猫の日?」

 異界から来ログインしたらいきなりユズコに抱えられた。

 そしてそのまま拉致されて、クランハウスから『commerce(コマース)』まで連れて来られた。

 正確には、俺を抱えたユズコが「獣化、白虎」と唱えて空中回転し、俺は白虎に変身したユズコの背中へ乗っていた。


 クランハウスから従魔全員を引き連れて走ったユズコは、街の入口で獣化を解いた時に凄い満足そうな顔をしていた。

 所謂いわゆるドヤ顔ってヤツだな。

 そして街に入った途端にまた俺を抱き上げ、宣言したのだ。

「今日は猫の日なので、俺の日だ!」と。

 そして、冒頭の俺の呟きである。



「お前は虎だろ?」

 白虎だからな。

「虎はネコ科だから、猫だ」

 あぁ、うん、まあな。

 でも俺の中の猫と言えば、もっと小さくて可愛いものだ。

 そう例えば……。


「ネル」

 ケット・シーのネルはショートブーツを履いてはいるが、見た目はハチワレ猫だ。

<何にゃ?>

 ユズコに子供のように縦抱っこされている俺の胸元へ、ネルがピョンっと飛び乗って来た。

 さすがの脚力だな。


「俺の知ってる猫は、こういう姿を言う」

 胴体を持ったせいでプラーンと伸びたネルは、軟体っぽくてまさしく猫だ。

 猫は液体ではないかとよく言われているが、俺もそう思う。

「まぁ、それでも良いぞ!」

 良いのか。



 ネルを普通に猫抱きした俺を、ユズコが抱えて歩く。

 注目を集めているのは気のせいでは無い。

 なぜなら、ハーメルンの笛吹きヨロシク後ろには従魔がゾロゾロと付いて歩いているからな。

 いつもなら文句を言って下りるのだが、猫の日なので大人しくしておく。

 虎は猫だと言い張るし、まぁ、1年に1日くらいなら良いだろう。


「いらっしゃいませ」

 着いた先は、綺羅の店だった。

「あ!こんにちは」

 俺達に気付き挨拶をした直後に裏に走って行った綺羅は、モコモコのパーカーらしき物を抱えて戻って来た。

 いや、お前、それ裏に置いてあったわけじゃなくて、インベントリに入ってたよな?

 綺羅は、こういう無駄な演出が好きだ。


「ご注文の」

 綺羅が手に持っていたパーカーを広げる。

「白虎です!」

 確かに、獣化したユズコの毛並みにそっくりな全身パーカーと言うか、ツナギだった。

 俺サイズの。




「猫の日ですから!」

「ほら、猫だろ?」

 二人の圧が凄い。

「いやいや、お前等俺の年齢を考えろよ?もうすぐでアラサーだぞ」

 アラサーとは、アラウンドサーティーの略で、前後2歳らしい。

 28〜32歳。


 今27歳の俺は、ギリギリ外れるらしい。

 同い年の同僚女性に「俺、アラサーだから」と言ったら、全力で否定されたので、大人しく従っている。

 年齢の事で女性に逆らってはいけない。

 まぁ、それは今はどうでも良いか。


 しばらく睨み合いを続けた俺とユズコと綺羅だったが、先に折れたのは俺だった。

「猫の日だけだからな」

 綺羅からツナギを受け取り、着替える。

 また無駄に着心地が良いのがムカつくな、これ。

「いやっほぉう!獣化、白虎!」

 また獣化したユズコは、嬉しそうに俺を背中に乗せた。



 俺はこの時、大切な事を忘れていた。

 現実リアル幻想世界ファンタジーワールドの時間の流れが違う事を。


 俺は日付が変わるまで、幻想世界ファンタジーワールドで何日も白虎ツナギを着て過ごす事になった。




───────────────

ガルム達従魔は、先にユズコに説得されております(笑)

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