第21話 橙色の光
夕暮れ、二人は宿に戻り明日以降の予定を話し合っていた。
東方面に向かいエネルポートを目指すというイグの意見にリュオも賛成した。
イグは顎に手を当て部屋の中を行ったり来たりと歩いている。この街から次の街にどんな品を運ぶか考えているのだ。
ベッドに座っているリュオはそんなイグを眺めなているから目が右へ左へと泳いでいる
イグの足が止まり、リュオの目も止まる。
「そうだ!そろそろ晩飯だ。今日はレッカ亭で食事をしようと思う。それでいいか?」
それを聞いてリュオは苦笑する。
「ふふっ、バーバラさんと約束したんでしょ」
「ああ、……えっ、……あっ、聞こえていたのか?」
今更気付きイグは驚いた。考えてみれば当然の話しで、店の中の声なんて外にいたリュオに聞こえない訳がないのだ。
「うん」
「そうか、……そうだよな」
「アタシ、留守番してる」
リュオは困り顔で答える。
バーバラとは仲良くなれないと感じた。会って傷付くことを言われるくらいなら、自分から距離を取った方がよいとリュオは考えた。
「なら金を渡しおくから宿で飯を食え」
イグは何かを気にしたり察している様子もなくあっけらかんとしている。
「……うん」
リュオは寂しそうに返事をした。
暫く黙った後、さっきと同じように考え事をしているイグに向かってリュオは口を開く。
「やっぱり、……行く」
「えっ?ああ、わかった。ならそろそろ行くか」
考えても分からないといった感じで「はぁー」とため息を吐いた後、イグは諦めの表情を作る。
リュオは服を買ってもらってからも色々悩んでいた。
特に気になったのは二人の関係だ。バーバラは誰かと結婚が決まっているようだったが、二人の話しぶりはまるで昔の恋人。
大人の男女が付き合えば何をするのかくらいリュオは知っている。もしイグとバーバラがそういう関係だったらと思うと胸が張り裂けそうになりズキズキと痛んだ。
だからイグとバーバラを二人きりにさせる訳にはいかないと思い、自分も付いて行くことにした。バーバラに嫌なことを言われる覚悟をして。
リュオは今日買った服を棚から取り出す。
それを見ていたイグがぼやく。
「中古の服だから一度洗った方がいいぞ」
「アタシ、そんなの気にしないもん。むこう向いてて」
「えっ、ああ、すまん」
服を脱ごうとするリュオに慌ててイグは背を向けた。
バーバラの服装がとてもお洒落だったから、リュオも少しでもお洒落をしたかった。
イグの背後から衣擦れの音が聞こえる。
「いいよ」
その声でイグは振り返る。
そこには着替え終わったリュオがいた。
空は茜色に染まり窓から夕日が差す。橙色の光が彼女を照らしている。部屋の中は夕日の陰で暗いのに、そこだけが明るく浮かび上がっているようだった。
リュオの服はピンクがかったベージュ色のワンピース、胸元は少しだけ開いているがしっかりと襟が縫われていて焦げ茶色の大きなリボンも付いている。肩や腰が細い華奢なリュオに良く似合っていた。
それからリュオは帽子を被る。青い花の刺繍がアクセントになっていて、それがリュオの青い瞳と良く合っている。
「どう……、かな?」
「……ああ、うん。驚いたよ。良く似合うな」
イグは可憐な美少女に真剣な顔で釘付けになっている。リュオは皮肉を言われるんじゃないと思ってたから、思い掛けないイグの反応に返す言葉が見つからなかった。
「行こっか?」
「あ、ああ、そうだな」
リュオがはにかんで微笑みながらイグに向かって手を掲げると彼はその手を掴み苦笑する。
二人は手を繋ぎ並んで宿を出た。
そしてレッカ亭を目指し歩き出す。
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