百獣皇帝 獣人学園バトル
鏡銀鉢
第1話 トラとライオンはどっちが強いの?
トラとライオンはどっちが強いんだろう。
男の子なら、誰でも一度は考える疑問だと思う。この疑問に時代は関係ない。
古代ローマのコロッセオにはじまり、サーカスを経て、現代でもなおCPシミュレーションで、両者は戦わされている。
今年で十六歳になる俺が、どうして今さらこんなことを思い出しているのかと言うと、答えは単純だ。いま、俺の目の前にその両者がいるのだ。
鋭い眼光に、血に飢えた赤い舌。トラとライオンは、俺に剥きだしの殺意で牙を鳴らし、喉を唸らせる。金色の毛並みから香り立つ敵意は、熱を帯びて俺の肌を焼いた。とある理由で直立二足方向をするトラとライオンからは、野生の力強さと人間の悪意を感じる。
明らかな無理ゲーを前に、俺は慌てることなく息をついた。
ところで話は戻るが、どうしてトラとライオンを比較するのか、と女子に聞かれたら、多くの男子は『最強の猛獣を決めたいから』と答えるだろう。
だからこそ、俺はこの疑問にひとつの問を投げかけたい。
――トラやライオンよりも、クマのほうが強いんじゃないのか?
トラとライオンはどっちが強いんだろう。
男の子なら、誰でも一度は考える疑問だと思う。
どうやら、この疑問に時代は関係ないらしい。
古代ではローマのコロッセオで、
中世では貴族たちの娯楽で、
近代ではサーカスで、
そして現代では専門家たちによるコンピュータシミュレーションで、トラとライオンは戦わされている。
動物好きである俺の調べだと、どの時代でも勝敗はトラが勝ったりライオンが勝ったりだ。専門家の意見では、タテガミで首が守られているライオンが優勢とのことらしい。
今年で十六歳になる俺が、どうして今さらこんなことを思い出しているのかと言うと、答えは単純だ。
いま、俺の目の前にその両方がいるのだ。
中学を卒業し、この帝和学園への入学式を終えた俺は、学園の庭でトラとライオン、ふたりの獣王と対峙している。
鋭い眼光に、血に飢えた赤い舌。トラとライオンは、俺に剥きだしの殺意で牙を鳴らし、喉を唸らせる。
金色の毛並みから香り立つ敵意は、熱を帯びて俺の肌を焼いた。
百獣の王たちは、たくましい後ろ脚で立ちあがって俺を見下ろし、太い腕の先で爪を光らせる。
ミノタウロスが牛の獣人なら、こいつらはトラの獣人とライオンの獣人だろう。
直立二足歩行をするトラとライオンからは、野生の力強さと人間の悪意を感じる。
明らかな無理ゲーを前に、俺は慌てることなく息をついた。
ところで話は戻るが、どうしてトラとライオンを比較するのか、と女子に聞かれたら、多くの男子は、
『最強の猛獣を決めたいから』
と答えるだろう。
だからこそ、俺はこの疑問にひとつの問を投げかけたい。
――トラやライオンよりも、クマのほうが強いんじゃないのか?
西暦二〇五〇年。二十一世紀前半が終わる年の夏。
俺、北海雪人(きたみゆきと)十五歳は終業式を終え、中学校の教室で先生の話を聞き流していた。
北海道と言えど、七月の終わりごろはさすがに暑い。
雪人は窓際の席だから風が入ってくるだけマシ、とは廊下側の席に座る奴の冷やかしだ。
じゃあ俺と席を替われ。そして直射日光で日焼けしろ。
俺から言わせてもらえれば、夏場は窓際こそ辛い。
俺たちに進路資料と模試の結果を配った先生は、俺たちの進路について熱く語っている。
残念なことに、中学三年の夏になっても志望校が決まっていないお気楽な生徒もいる。
もっとも、俺もそのひとりなのだけれど。
一応、家から近くて俺の頭でも入れる、この条件に合う高校をふたつ知っている。
このままなにごともなければ、俺はその二校を受験するだろう。
でも、その先のことは何も考えていない。
将来の夢や志望大学に合わせて高校選びをするよう熱弁している先生からすれば『進路を決めた』とは言えないだろう。
でも仕方がない。
それが俺ら、夢を持たない『くうき世代』と呼ばれる若者だ。
生まれたときから、俺らは情報の海で育ったから知っている。
凡人に輝かしい未来はない。
どの業界でも成功するのは才能のある奴だ。努力する凡人に待っているのは挫折だけ。美談に酔う教育者は一部の成功した努力家をクローズアップするけれど、努力で夢が叶うなら日本中の男子がスポーツ選手と漫画家になっている。高校球児が涙を流すこともない。
結果。
特別な才能や一流大学に入れる頭もない俺の人生は決まっている。入りたくもない高校大学会社に行って、ダラダラ四〇年近くリーマンやって、意味もなく八〇歳まで生きる。
だから夢を持たない。やりたいことがあってもやろうとしない。
俺って何のために生まれてきたんだろう。
俺って何のために生きるんだろう。
俺って何なんだろう。
自分はこの世界の空気のような存在だと知っていて、受け入れて、自ら空気になりたいと思う俺ら『くうき世代』は、多かれ少なかれこんな哲学的なことを考えている。というのはカッコつけすぎだろうか?
以前、倫理の授業で担当教師が言っていた。
『人は自身の存在意義を求め、承認欲求を満たすために生きる』と。また、
『人は子供の頃は自分を物語の主人公だと思い、挫折することで現実と向き合う』とも。
告白すると、俺には病気の妹がいる。手術費用は一億円。
ここで俺が妹を救うために一億円稼いだり、医者になったりすればドラマになるんだろうが、俺にそんな優れた脳味噌なんて望むべくもない。俺は主人公じゃなくて脇役だ。
承認欲求は、他人から認められたいという欲求らしい。まぁ、妹は俺になついているけど、認められる、とは程遠い。家族愛で承認欲求が満たされるなら苦労はない。
わかりやすく説明すると俺が欲しいのは、
『お兄ちゃん大好き』ではなく『お兄ちゃん凄い、尊敬しちゃう、大好き』だ。
俺が視線を落とすと、先生が配った模試の結果が目に入る。うちの区にある中学校の三年生、二〇一二人中、俺の成績は一〇〇三位だった。
本当はグシャリと、模試の結果が印刷された用紙を握りつぶしたかった。でも教室で注目を浴びる度胸がない俺は、ちょっとシワがつく程度に握ると、鼻から大きく息を抜いた。
ジリジリと照りつける太陽がうざい。
セミの鳴き声がわずらわしい。
進路資料の用紙が無駄に白いのがナマイキだ。
進路資料を眺めていると、俺の人生ってどうなるんだろうと考える。
『くうき世代』の例に漏れず、こんな気持ちだからだろう。俺はほとんどヤケクソで、ありえない選択をした。
投げやりな視線を、一枚の資料にとめる。
【帝和グループ 獣化手術 適性検査募集要項】
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