第2話 放課後は別の顔
「
放課後の教室でクラスメイトのヨシオが誘いに来た。
「女子が一人足りなくてさ」
「女子って……ボク、男なんだけど」
「聞いてくれよ、こっちは男子四人揃えたのにさ、肝心の女子が今になって一人ドタキャンなんてあり得ないよな、マジで」
「ねえヨシオ、ボクの話聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる。だからさ、また頼むよ。加奈もメイクならまかせてって張り切ってるし」
「そんなぁ、顔だけメイクしたって……」
「大丈夫、大丈夫、コスも加奈が用意するって言ってるし」
彼の名は
「それじゃ大悟チン、これに着替えてきて」
カラオケボックスに到着するとヨシオの彼女である加奈が期待に目を輝かせながら紙袋を渡す。大悟はそれを受け取るとそっと中を覗いてみた。
「こ、これって、メイド服? 加奈、こんなもん、どこから持ってきたんだよ」
困惑する大悟を前にして彼女はドヤ顔で答えた。
「へっへ――、演劇部からちょっとね」
「おっ、さすが。やっぱ加奈は顔が広いわ」
「ヨシオほどじゃないけどね」
これからメイド服を着せられる大悟のことなどさておいて、やたらと盛り上がるヨシオと加奈の二人だった。
ひとりトイレに籠って用意されたコスチュームに着替えた大悟は洗面台の鏡を見ながら襟元とリボンタイを整える。顔こそすっぴんのままだったが、しかしその姿は妙に板についていた。
「やっぱカワイイ!」
キャッキャ言いながら加奈はあっという間に大悟にメイクを施した。
「おお、ウィッグがあればバッチリなんだけど、でも大悟の髪は柔らかいしマッシュルームだしこれはこれでイイんじゃね?」
黙っていればまさに女子、そんな大悟に見とれるヨシオはしっかりと加奈に釘を刺されていたが、彼のみならずフロントに立つ受付の青年や入店して来たばかりの他の客からも熱い視線を浴びる大悟だった。
するとそのとき、大悟のスマホが着信のバイブレーションに震えた。何事かとこちらを気にする二人に「待て」のジェスチャーをするとすぐに電話に出る。耳元からは有無を言わせぬ貫禄がある女性の声が聞こえてきた。
「ミエルちゃん、もう学校は終わってる頃よね。急で申し訳ないけれどすぐに事務所に来て頂戴」
大悟はヨシオと加奈の様子を伺う。そしてスマホを指さしてから拝むような仕草をしながら電話の向こうにいる相手に応えた。
「わかりました。すぐに行きます」
これまでもこうした突然のバイトでドタキャンの常習犯でもある大悟を前にして二人はすっかりあきらめ顔になっていた。
スマホを切った大悟は二人に駆け寄ると何度も頭を下げる。
「ごめん、急に仕事が入ったんだ」
「なんだよ、またかよ。てか、オマエってどんなバイトやってんだよ。いつも呼び出しが急だしさ、まさかヤバい仕事じゃねぇだろうな」
「そ、それは……ほら、ボクはひとり暮らしだし、だから稼がなきゃなんだよ」
「ったくしょうがねぇなぁ、大悟、これは貸しひとつだからな」
「わ、わかったよ、そのうち返すよ。それで加奈、このメイド服なんだけど」
「そんなの明日でいいし。その代わりそのままバイトに行ってぇ、写真撮ってアップするし。それで貸しはチャラってことで、ね、いいっしょ、ヨシオ」
「お――、さっすが加奈、イイネ、だぜ。てか、大悟のメイド姿なんて即拡散だろ」
「そ、それって罰ゲームみたいじゃないか、拡散なんて大ピンチだよ」
「まあまあ、とにかく写真、楽しみにしてるぜ」
「了解したよ。それじゃ二人とも、ほんとにごめん」
そう言って大悟はメイド姿のまま荷物を抱えて店を出るとすぐにタクシーを捕まえてその場を後にした。
そんな彼だが実はもうひとつ、三つ目の顔があった。それは
そこで大悟は変装と潜入を得意とする調査員を務めていた。もちろんその変装のほとんどは彼の見た目を生かしての女装、そう、彼は本職の
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