メイド・イン・ドラッグ ~ 男の娘探偵ミエルの潜入大作戦!
ととむん・まむぬーん
第1話 紅茶のおいしいメイドカフェ
「今のところ、もう一回だ!」
東新宿警察署の一室で大画面モニターを前に何度も繰り返し動画を再生しているのは
先日管轄内で起きた人身事故、その被害者は即死状態だったのだが、加害者車両から証拠として押収したドライブレコーダーの記録を確認していたところ相庵警部はその内容に解せない何かを感じたのだった。
「待て、もう一回。今よりも前のところまで戻してくれ」
上司の命令に従って小川はトグルを回しては何度も同じ箇所の再生を試みる。しかし相庵警部はそれでもまだ納得することはなかった。
画面には車に飛び込んで来た被害者男性の顔のアップが映し出されている。フロントガラスを通したその顔は無表情ながらも大きく見開かれた目、しかしその瞳は虚ろで焦点が合っていなかった。
「主任、やっぱこれって当たり屋じゃないんですか?」
「お前はそう思うのか?」
「ええ、飛び込んではみたものの打ちどころが悪くて、とか」
「俺はそうは思わない。そもそも当たり屋ってのは当たってからが勝負だ。だからこんな命がけなことたぁしないはずだ」
二人は再び冒頭からの再生を試みる。今度は幾分スローに、そして要所要所で動きを止めながら。
「ここ、ここだ!」
男が舗道に出ると女性は形ばかりの会釈をしてすぐに扉を閉めてしまった。残された男はふらふらとこちらに向かって歩いて来る。これまで遠目に見えていたその姿が車が進むにつれて徐々に大きくなっていく。
男の顔がこちらを見つめる。しかし車は何事もないように速度を落とすことなく走り続ける。そこからほんの二、三秒、男の身体が宙に舞ったと同時にフロントガラスを直撃する。衝撃音と運転手の声、タイヤはすぐさま急ブレーキの悲鳴を上げた。
前方に投げ出された男は運悪く街路灯の鉄柱に打ち付けられ、背骨は不本意な方向に曲がったまま頭からアスファルトに叩きつけられた。車のドアが閉まる音に続いて動かなくなった男に駆け寄る運転手の姿、映像はここで終了していた。
そこからまたもやコマ送りで進める。何コマ目か進めたところで手を止めた警部が小川に尋ねる。
「あの女はメイドか? ありゃメイド喫茶ってヤツか?」
「そうですね、あれは最近評判のカフェです。メイドさんが紅茶を出してくれるんです」
「なんだ、お前、知ってるのか。で、行ったことあるのか?」
「いえいえ、かなり人気の店なのでなかなか予約が取れないんです。中心街から離れたあんな場所で人気なもんだから自分も気になってるんです。紅茶を楽しむってコンセプトだそうですが、最近はハーブティーが人気らしいです」
ハーブティー、その言葉に
すぐに時刻を確認する。時計の針は午後四時を指していた。
「小川、その店の営業時間を調べてくれ」
「公式サイトでは夜十一時までになってます」
「そうか、なら今からでも十分間に合うな」
相庵警部はおもむろに立ち上がると、きょとんとしている小川にすぐに準備しろと命じる。
「これから聞き込みに行くぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます