魔王の少女と闇の勇者

鏡銀鉢

第1話 いくよバカ弟子!

「さぁて、いくよバカ弟子!」

「はい師匠!」


 地下に設けられた、直径二〇〇メートルの巨大ドーム型空間。

 そこで僕は右手をかざすと、対峙する師匠めがけて下級火炎呪文(フレイム)を放った。

 師匠と言っても、見た目は僕よりふたつみっつ年上の女の子なんだけどね。


 スイカ大の火球は、真っ赤な尾を引きながら師匠を狙っている。


 けれど師匠は、僕の火球をデコピン一発でかき消した。


 師匠が胸の前まで右手を上げて、白くて細い人差し指で火球をピンと弾く姿には、驚きを通り越して空しさを感じる。


 僕の火球は虚空に雲散霧消。師匠の長い赤髪もセクシーな衣装にも焦げ跡ひとつ残せない。


 師匠は、古き良き魔女の証である黒い三角帽のつばをくいっと持ちあげる。


「先月よりはミジンコ一匹分くらいは成長したんじゃないか?」


 師匠は背筋を伸ばして笑い……悪鬼のように両目を吊り上げた。


「たるんでる!」


 師匠は飛ぶようにして跳躍。師匠のハチ切れんばかりの爆乳が大きく揺れた。師匠の衣装は露出が多い上にタイトだから、少し以上に目のやり場に困ってしまう。


 でも師匠はそんな僕の気も知らないで、頭上から僕に中級闇呪文を降らせてきた。


「シャドウ・レイン!」


 ドスの利いた、殺意のこもった声音。本当に師匠は、殺意が服を着て歩いているような人だ。


 師匠の周囲に生み出された闇の黒球の群れは、僕を中心とした床一面にバラまかれる。

 回避は間に合わない。足止めのために、僕は中級光呪文で時間を稼ぐ。


「レイ・レイン!」


 今度は、僕の周囲に光の白球の群れが生み出され、一斉に頭上へと打ち上がる。

 闇と光が対消滅するあいだに、効果範囲外から逃げる算段だ。


 でも、僕の呪文は一秒ともたずに食べられた。

 僕の光呪文ときたら、コーヒーと混ざり合う牛乳どころか、バケツいっぱいの墨汁をぶちまけられた紙きれのような脆弱さだった。


「いやぁあああああ! 死ぬぅうう! 死んじゃうぅう!」


 闇の黒球が雨あられと降り注ぐなか、僕は涙を流しながら死に物狂いで転げまわった。

 黒球があたった石畳みの床は、片っ端から砂状に変化する。


 師匠曰く、この世の物質はすべて小さな粒でできていて、その粒同士は電子っていう光の力でくっついているらしい。


 闇属性の魔法は光を消してしまうから、あらゆるものを切断したり、砂のように細かくできるらしい。


「え?」


 地面を転がりながら無数の黒球をかわしていると、特大の黒球が僕の視界を覆う。その黒球が顔面に直撃して、僕は死を覚悟した。


 でも僕の意識は途切れないし、痛くもない。

 それどころか、なんだかすごくきもちぃ。


 黒球はとってもやわらかくて、僕の顔は型を取られるようにしてソレに沈みこんだ。

 ていうか、師匠のおっぱいだった。


 黒い衣装越しに僕の息を封じるおっぱいは僕を離さない。いや、師匠の両腕が僕の頭を抱え込んでいた。


「こんのバカ弟子がぁ! 光呪文なんて使ってアタシの玉の肌に日焼けでもできたらどうする気だぁ!」


 ヘッドロックで僕の頭をしめあげながら、師匠の怒りボルテージはみるみる上がってくる。


 酷い。普段は『あんたのカス呪文なんて直撃したって産毛一本傷つきゃしないよ』とか言っているのに。(ていうか首から下は産毛一本生えていないじゃないですか)

 師匠はヘッドロックをかける理由なんてなんでもいいんだ。僕が悪いことをしてもしなくても、師匠は僕に関節技をかけたくなるとテキトーな理由をでっちあげる困った人だ。


 昨日なんて『あんたいま心のなかでアタシの悪口言っただろ』とか口にしてジャーマンスープレックスと上四方固めをかけてきた。


「しかもなんだいまの呪文は! 魔力の練りが甘い! 呪文の発動も遅い! レイヴ、あんたあたしに師事して何年経つと思っているんだ!」


 師匠はヘッドロックをアナコンダヴァイス、アナコンダマックス、さらに崩袈裟固、横四方固、縦四方固めと手を変え品を変え僕の自由を奪う。


 師匠はくどくどとお説教をしてくれる。けど、技が全部おっぱいを相手の顔に押し付けるモノだから、僕の意識は酸素と一緒に欠乏していった。


 あぁ師匠。不出来な弟子でごめんなさい……


「寝るな!」


 首からベキリと音がして、僕の意識は帰ってきた。

 あぁ、生きているってすばらしい。


 僕は呼吸を、生命活動をできる喜びを世界に感謝した。師匠はそんな僕の首根っこをつかむと、ズタ袋のようにずるずると僕をひきずった。


「よし、風呂にいくぞレイヴ。背中を流せ」

「えぐッ!?」


 鮮血に染まる未来を宣告されて、僕の心臓は震度六だった。


   ◆


 脱衣所まで引っ張りこまれた僕の心臓は、震度七だった。


 師匠は黒い三角帽を脱いで棚に置くと、悩ましげに髪をなであげる。腰まで伸びた髪は燃えるように赤くて、艶々とした質感が一目でわかるくらい綺麗だ。


 腕を覆うアームカバーを脱ぐと、白くてきめ細かい肌が姿をあらわす。生脚ならともかく、師匠の生腕ってどうしてこんなにセクシーなんだろう?


 陶磁器をおもわせる、芸術品めいた腕と手が豊かな腰にのびた。留め具をはずされたスカートは、師匠の大きなヒップラインをこえて、すとん、と床に落ちて輪になった。

 同時に姿を現すのは、刺激的な紫のヒモパンだった。


 股間部分にきわどい深めのカットが入ったハイレグ型で、足の付け根が丸見えだ。


「はわわわわぁ」


 僕が両手を頬に当てて困っていると、師匠は眉根に明確な縦ジワを刻みはじめる。


「ああん? 何やってんだあんた。ほら、さっさと背中のヒモほどけッ」

「ハ、ハイ! いっ!?」


 両手を上げ、師匠がくるりと踵を返すと、僕の顔は表面温度が二度も三度もあがってしまう。


 師匠のお尻は、ヒモパンで隠している面積よりも、そうでない面積のほうが圧倒的に広い。紫色の布地が、白くて壮大な尻たぶのお肉に食い込んで、大き過ぎる曲線を乱すといういけないイタズラをしているではないか。


 僕は恥ずかしくて、必死に上を向きながら、手さぐりで師匠の背中に手を伸ばした。

 師匠の衣装は背中のヒモを縛って着るタイプだ。


 僕は結び目をほどくと、靴ひものように全体をゆるめていった。


 そうしてヒモを抜きとると、師匠の衣装は床に落ちた。


 同時に、両手を上げている師匠のワキ腹から、解放された肌色の曲線が溢れだす。

 それは師匠のおっぱいの、その……いわゆる横乳って言われる部分だった。


 背中側からおっぱいを確認できるというファンタジーを受け止めきれず、僕の目は硬く開いたまま動かなかった。


 心臓の震度は、もう八に届きそうです。


「どうしたレイヴ。早くパンツのヒモをほどいてくれ」


 一瞬、僕の心臓は止まった。本当に止まった。


「は、はい……」


 弱々しく返事をして、僕は師匠の、紫色のヒモパンに手を伸ばした。


 ヒモパンは、名前の通り左右のヒモを結ぶことで着用できる下着だ。


 左右のチョウチョ結びからそれぞれ垂れさがるヒモは、師匠のヒップを封印から解放する禁断のアーティファクトだ。


 触れることさえためらわれるそのヒモに手を伸ばせば、汗が指先を伝う。触れた瞬間、汗が滴り落ちた。


 僕の両手は左右のヒモをつかむと、ゆっくりと引っ張っていく。


 チョウチョの羽がじょじょに、じょじょに小さくなっていく。羽根の大きさとは反比例するように、僕の心音と体温はぐんぐん上がっていく。


 なにか、ものすごく悪いことを、破廉恥なことをしているような罪悪感が僕の胸を締めつけて離さない。


 毎日の、というか、朝晩のこれが辛くて仕方ない。


 チョウチョの羽根が完全になくなる。あと一ミリでもヒモを引けば、取り返しのつかないことになる。そんな予感に僕の手は凍りついてしまうも、緊張で逆に震えてしまう。

 その震えが、禁断の扉を破った。


「あっ……」


 驚いて僕が手を離すとヒモパンは床に落ちて、師匠のお尻は本来のヒップラインを取り戻した。


 下着が食いこんでいたお尻は、内側からの圧力が解放されたことで震えながらピンと張って、白い肌には下着の跡は残っていなかった。


 そのハリと弾力は見事としか言いようがない。


 ふわぁ、ふわわぁー、ふわぁー……すごい……


「よしレイヴ、お前も脱げ」


 師匠が反転。僕の視界に、師匠の威風堂々たる爆乳が飛びこんできた。


「しっ、ししょうぉおおおおおおおおおおおおおお!」

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