義人の召喚獣・女子学園国家で日本TUEE
鏡銀鉢
第1話 女子しかない学園に入学した男子
「おっ! 男ぉおおおおお!?」
アカデミーの受付係が絶叫。
それでもその男、鷺澤(さぎさわ)義人(よしと)は平和な顔で、風呂敷(ふろしき)から取り出した書簡から何枚かの羊皮紙と和紙を取り出した。
「ああはい俺男ですけど、じゃあこれ入学書類なんでよろしく」
金髪青目で色白の、明らかに白色人種の女性は顔をひきつらせたまま、手渡された書類が偽造でないか何度も見直しながら業務を進める。
その間に、黒髪黒目で黄色い肌の珍妙な格好の青年は子供のようにはしゃぎながら周囲を見渡している。
「天井たっけー、廊下ひれー、女の子もみんな綺麗だしいいとこだねぇ(日本と違って幻想種いないけどな)」
青年の服はひとことでいえばダブついている。
服の袖も、ズボンも、過剰なほどに太く、服にあしらった装飾が本人の動きに合わせてヒラヒラと動くなら分かるが、服そのものがバサバサと動いている。
髪も、男性にしては不自然なほど長いソレを頭の後ろで一本に束ねている。
だがポニーテールとは違い、止め部分が植物の茎のように長い。
和装とチョンマゲを知らない受付嬢には、義人の格好はそんな風にしか見えなかった。
義人の格好は青い袴に水色の小袖、その上から紺色の胴服という羽織のような物を着て腰にはしっかり太刀と脇差を挿している。
業務を進めながらも頭にあるのはどうしてこの国に男が、まして入学許可証を持ってくるのか?
それだけである。
ここは女学院ではないが、男が来る筈がない、来れる筈が無いのだ。
「しょ、書類を受理しました、では教室へどうぞ」
「おう悪いね、えーっとそれじゃあ俺の教室はどこかなーっと、西洋の寺子屋広すぎだっての、まるで城だぜ」
言いながら立ち去る青年の背中に受付嬢は『ここはお城ですが何か?』と目で訴える。
その通り、ここはまぎれもなく、この独立学園国家サモナーアカデミーの城にして最高教育機関の校舎である。
人成らざる幻想種と契約し、その超常の力を借り受ける召喚術を使う召喚術師は世界最強の存在にして最も栄誉ある存在。
ヨーロッパに多大な影響力を持ち、世界最大の召喚術大国アヴァリス国土内に設立されたこの召喚術師養成機関、サモナーアカデミーは術師教育の為だけに特化した環境で、どこの国の法律も受け付けない学園都市ならぬ学園国家である。
ここの校則とは法律であり学園長は王様、国民は一人残らず学生か学園関係者、街に立ち並ぶ店も全て学生相手の商売しかない。
そこに入学するという事は彼もまた召喚術師という事だが、彼を見るドレス姿の少女達は漏れなく驚き後ろへ下がる。
「どこもかしこも舶来もんだらけでまるでおとぎの国だな、でもこの絨毯ってなんでこんな上等な布床に敷いてんだ?
なぁ、これ本当に土足で踏んでいいのか?」
近くの女子生徒に声をかけると、周りの生徒がその女子から離れ、声をかけられた本人に至っては悲鳴を上げて逃げてしまった。
「嫌われたもんだねぇ、おっ、この彫像イイ女」
校舎内の幅一〇メートル近い広い廊下の両サイドには格調高い絵画や彫刻、観葉植物が飾られ、窓枠やドアやドアノブ一つ一つに至るまで職人の手による細かな細工が施されている。
なんとお洒落で煌びやかな空間かと義人は浮かれて教室へ向かうが、周囲からは嫌悪や好奇の目が向けられる。
言ってしまえば、召喚術は女性にしか使えない。
一部の例外はあるが、人間よりも遥かに高位の存在である幻想種が人間に従う事など無く、召喚術とは生贄をソフトにしたに過ぎない。
すなわち、乙女の霊力を供物に捧げ、その恩恵として超常の力を一時的に借りられるという仕組みだ。
生贄は女と相場が決まっているのは単純な好み、つまり男の霊力は美味しく無いらしい。
当然召喚術師は女性だけであり、アカデミーは生徒も教師も自動的に女子限定の教育機関となった。
召喚術師を取り締まる警備関係も全員女性で、女性ばかりのため敷地内の店は全て女性向けのため店員も女性で、ここまでくるともう暗黙の了解としてアカデミーは女性だけの国となった。
特別女性でなくてはならない事務員や清掃員まで女性で固められ、数百年の歴史においてアカデミーは常に女性人口一〇〇パーセント、男女比〇対一〇を守って来たのだから、そこに男がいればこれは当然の反応かもしれない。
まして、和装の黄色人種の来訪など、青天の霹靂(へきれき)である。
廊下の異様なざわめきに気付いた教室へ義人が足を踏み入れ、クラス中の生徒達が驚愕に顔を固めた。
どうして男が、それも見るからにアジア人の。
身なりから察するにどこぞの貴族や王族が視察に来たというわけでは無さそうだ。
それに男子禁制という暗黙の了解があるこの国に視察は女性の貴族や王族が来るのが一般的だ。
男性が足を踏み込んだ事など今までの歴史で果たして何度あったことか。
なのに
「ここが今日から俺が通う学校か、それじゃみんな一年間よろしく!」
今この男はなんと言ったか。
クラス中はおろか、廊下の生徒に至るまで頭上に疑問符を浮かべ、もう一度脳内でリピートする。
この男は言った。
『俺が通う学校』
と。
『えぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!???』
クラスが爆発した瞬間だった。
入学式が終わり、自己紹介タイムに移るとやはりというべきか、義人だけは教卓の前に立ち、彼の素性を説明するが……
女性教員の顔がひきつり、握り拳を作りながら義人の紹介をする。
「えー……というわけで、日本からの特別留学生の……」
「鷺澤義人だ、よろしくな美人さん達」
びしっと親指を立ててウィンクをするジャップ野郎に、クラス中の生徒が納得いかないようすで、義人に視線を集めるが、義人はにやけながら、
「そんなに見つめるなよ、視線が痛いだろ?」
たまらず、一人の女子が叫ぶ。
「先生! 何故この国に男がいるんですか!?」
「そうです! この学園は女の園のはずです!」
「そもそも男が召喚術学校にいるはずがありません!」
一人目を皮切りに次々上がる不平に教師の女性も、淑女にあるまじき怒声を飛ばす。
「先生だって知りませんよ! 日本から留学生が来るって聞いてたけど召喚術学校なんだから女子だと思うじゃないですか!?
なのに国の人も『まさか男がくるとは思わなかった』しか言わないのよ!」
「じゃあ何で日本、アジアから留学生が来るんですか!?」
「東洋人となんて勉強したくありません!」
「そうですよ、トルコとか地中海続きのエジプトならまだ我慢もしますけど、よりにもよって日本なんて極東の島国じゃないですか!」
「黙りなさい!」
教師の一喝で、教室は一時治まるものの、
「捕鯨の許可とか貿易とか燃料や食糧補給の中継地点としての利用とかの条件に鎖国中の日本が留学生受付を求めて来たんだからしょうがないでしょ!
貴方達も淑女ならもう決まった事に文句言うんじゃありません!」
淑女ならキレるな!
とクラス全員が思うが、それほどにアジア男子がこの教室にいる事は衝撃的なのだ。
クラス中から文句が上がる中、当人である義人は相変わらず顔が緩みっぱなしだが、その顔の真意を見抜ける者はただの一人もいなかった。
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