第9話 加速する誤解
あんのゲスメンがぁあああああああああああああああああああああああ!
俺は脳内で、エリックを肥溜に蹴り落とした。それも両足をきちんとそろえたドロップキックで。
言ったよ!
確かに俺は男の買い物って!
でもあのデカイ箱いっぱいのエロ本て、何十冊買った計算だゴルァ!
ていうかなんでエルに言っているんだよ!?
エリックの殺意が、念じるだけで殺せる領域へと成長した。
純真無垢の権化であるエルは、ますます顔を紅潮させながら、俺の顔いろをうかがってくる。
「それで、ね、レオン……レオンも男の子だから、そそ、そういうのに興味を持つのは自然なことだと思うんだけど……」
うわぁ、めっちゃ誤解しているぅ……
「そんなに、見たかったの?」
エルはわずかに肩を震わせ、息を荒くして、いまにも倒れそうだった。
「いや、ね。わたしもダメとは言わないけど、でも隊長が部下に隠れてこそこそ、そういう本を買うのって、隊長の威厳とか対面とか、やっぱり避けたほうがいいかなって……」
気づかってくれてありがとう。
でもいまはその気づかいが辛いです。
エルは、自分の豊かな胸に手を置いてから、真摯な眼差しで俺を見つめる。
「だからねレオン、どうしても我慢できないなら」
意を決したように、エルは口を開いた。
「わたしの、見る?」
膨らむ妄想が血管をブチ破り、鼻の奥に血の匂いが広がった。
軍服を大きく押し上げるエルの爆乳を見下ろしてから、慌てて視線を持ちあげる。
「レオンがそういうの我慢できないなら、わたしは、いいよ。子供のころは、いっしょにお風呂、入ったし」
エルは瞳を濡らし、声には艶が出ていた。
エルが一歩歩み寄ると、俺は二歩あとずさった。
ヤヴァイ。
これはヤバイぞ。
エルは可愛い。すごく可愛い。ただでさえ可愛いのに、男の情慾を不必要にかきたてるプロポーションをしている。
そのエルに誘われて、断る男はいないだろう。
でも、けど、だがしかし、間違ったきづかいでエルを傷ものにするわけにはいかない。
いや、見るだけなんだけど、例え見るだけでも、男の目に晒されればエルの何かが減って汚れ傷付く気がするのだ。
俺は窓際に向かって、三歩、四歩とあとずさる。
その俺を追いかけるように、エルは四歩、五歩と迫ってきて、ついには目と鼻の先まで顔を近づけてくる。
「無理しないでレオン。レオンも、今年で十六歳だもん。元服だって済ませて、もう大人だし、結婚してもおかしくないぐらいの年だもん。レオンの慰めになるなら、わたしはいいんだよ?」
けなげすぎんだろうが!
なにその理論!
幼馴染が悶々しているから自分の肌を犠牲にするって!
俺以外に男の幼馴染はいないけど、もしもこれ他にも男がいたら絶対にエル襲われちゃうだろ!
醜い欲望が下腹部でとぐろをまいて、うずをまく。
ああ。このままエルの勘違いに漬けこんでしまいたい。
そんな欲望と俺が戦っていると、エルはそれを発見してしまった。
「あれ?」
エルの視線の先、そこには、仕事机の陰に隠れた箱があった。
おっふ!
エルは動いた。
まるで猫のような俊敏さで箱に飛びかかると、エルは大きな胸に抱え、人質のようにしてあとずさった。
「あああああああああああああああ! エルちょっとその箱は駄目だ!」
「こ、これがレオンの……お願いレオン、これを燃やしてッ。隊長がいかがわしい本で、その……だなんて、全体の士気にも関わるよ!」
「違うんだエル! それはエルが思っているようなものじゃないんだ! だからそれを返してくれ!」
エルはショックを受けた顔になり、瞳から真珠のような涙の粒を流した。
「うぅ、そんなにも必死になるなんて。わた、わたしのカラダじゃ満足できないのかなぁ」
「だから違うって!」
俺はエルからレプリカソードを取り返そうと、箱をつかんで引っ張った。
だがエルも、負けじと箱を引っ張った。
俺らは箱を取り合い、奪い合う。
エルはおとなしくて従順な子だが、時々ものすごい強情さを発揮する。
「どしたのレオン?」
「何の騒ぎ?」
俺が悲鳴をあげたせいか、鍵の開いたドアから幼馴染のジュリアとアリッサが顔を出す。
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