第35話 続く戦い
深い意識の底から覚醒した時、カイはまず自分の体に異常が無いことを確かめる。
幸い、全身を覆う鎧のおかげでダメージは皆無である。
瓦礫と一緒に転がっていた自分の槍を拾い上げ、カイは改めて周囲を確認した。
「ここはどこだ……?」
大きな廊下に目の前は瓦礫で埋まり、通れる状態ではない、ロイ達の気配は無く、完全に孤立してしまったようだ。
後ろの廊下には瓦礫が少なく、通ることはできそうである。
カイは止む終えず足を運ぶと不思議と機甲兵とは出会わなかった。
耳を済ませれば、相変わらず外で戦っているであろう軍と巨神の喧騒が聞こえてくる。
落ちた以上、カイは下の階層にいるはずである、ともかく上を目指せばロイ達に会えるだろうと考え、階段を探すが鍵が掛かっていて開かない扉をドリルで貫きながら歩いていると、ある扉を壊した時にまた広い部屋に出た。
ただ、その部屋にはいくつものマネキンが立っており、何をする部屋なのかは分からなかった。
等間隔に並べられたマネキン達はざっと二、三〇〇体はいそうだ。
いくらいようと所詮は人形であるため、温かさは感じられない、だからこそ、カイはその人間の匂い、気配に気付いた。
華麗なバックステップ、と同時にさきほどまでカイがいた空間を一筋の閃きが襲い、マネキン達が切り裂かれる。
マネキンを薙ぎ倒し現れたのは漆黒のコスチュームに身を包んだ仮面の男だった。
その仮面を黒一色に塗り固められている。
だが、その姿以上にカイは彼の得物に注目した。
マネキンを切り裂いたのはギロチンの刃だった。
とは言っても、公開処刑で使われる落下式の物ではなく振り子式の、船のイカリのような形のギロチンである。
その巨大な刃が長さニメートルほどの鉄の棒の先端に取り付けられている。
「神に逆らいし者に死を!」
そう言いながら男はギロチンを振るう。
男の武器は見た目以上に速く、大振りな一撃は最初だけで、後は巧みな手捌きと高速の連撃でカイを追い詰めて行く。
はずれた攻撃はマネキン達を片っ端から切断し、辺りにその残骸が転がり、カイは足を取られ、バランスを崩した。
男はそれを見逃さず、カイを四回も切りつけた。
カイの鎧が身を守ってくれたが男の攻撃はカイの鎧に切れ込みを入れていく。
「なかなかの腕だな、だが……」
カイは肩から垂れ下がる布を使い、男からは自分の腕の動きが見えにくくなるように仕向け、裂帛の気合と共に踏み込み、槍を突き出した。
同時に男のギロチンも突き出され、互いの得物が交差した。
同じ頃、リアは一人で暗いがやたらと広く、戦車も楽に通れそうな廊下を歩きながらハンマーを引きずり文句を言っていた。
「もー、お兄ちゃんもチーちゃんもライライもカイちゃんもどっか行っちゃうし、ここはどこだかわからないし……一体どうしたら、んっ?」
とある門の前でリアは止った。
さきほどの巨神の部屋と同じ大きさの門、また中には巨神がいるのだろうかと考え、さすがに自分一人では対処できるわけがないとリアは通り過ぎようと思ったが、門に書いてある文字を、不運にも読んでしまった。
「でんじゃー? 危険? 関係者以外立ち入り禁止? 開けるな?」
リアの総身を何とも言えない魔力が襲ったのはその時だった。
門に書いてある単語の一つ一つが少女の童心をくすぐる、入るなと言われれば入りたくなるのが子供というものである。
そして今、この少女、リア・ストラームを静止できる保護者達は全員不在であった。
あまりにも魅力的すぎる言葉の響きに、リアは気付けばハンマーを振りかぶり、門に向かって振り下ろしていた。
またも同じ頃、幸いにもロイとライナ、そしてコートの中のチビ神兵は同じ場所に落ちたらしく、チビ神兵を手に持つライナと並んでロイは上を目指していた。
当初のコースとははずれてしまったが、チビ神兵の言う通りに進めばライナの目的の場所に行けるはずだった。
「そういえばよう大佐、一番反応が強い場所ってのには何が待っているんだ?」
「そりゃここの動力炉でしょう、そこをオジサン達で壊せばこの要塞の動きはストップ、首都への侵攻は不可能ってわけさ」
「でもこれって作戦内容と違うんじゃねえの?」
「だいじょーぶ、成果さえ出せば評価は後かついて来るし、要塞内部に入って中からも攻めるっていうのは作戦通りだよ」
「ならいんだけどよ」
ロイも楽天家だがライナはさらにその上を行く、ロイは仮にも国軍の大佐であるライナの言動に怠慢な返事を返し、チェーンソーを肩に引っ掛け延々と歩き続けた。
目がさめてから既に一〇分は歩き、丁度ロイがまた戦いたくなってくると、都合のいい具合にさきほどと同程度の門を発見、またもチビ神兵は『巨神 巨神』と言った。
「ここか……それじゃ、またやりますか」
ライナはチビ神兵をまたコートの中にしまい込んで大剣をおもむろに抜いて門を斬り飛ばし部屋に入る。
ロイも、ライナのコートは四次元にでも繋がっているのかと思いながら続く。
当然に、チビ神兵をコートに入れてもコートが少しも膨らまないからである。
「へえ、こいつはやり放題じゃねえか」
そこは巨神の整備室らしかった。
先ほどの巨神と戦った部屋を遥かに越える広さで壁には何体もの巨神が並んでいる。
人間型、動物型、車両型、特殊型、あらゆる種類の巨神の周りには整備に使うと思われる道具や設備が整っている。
だが、二人の来訪と同時に計一〇機もいる巨神全ての目が光り、エンジンを動かしだした。
「二体一〇か……どうする大佐?」
「オジサン達なら楽勝じゃない?」
「オーケー」
二人は互いにニヤリと笑い、ロイは昨夜改造した超大型チェーンソーのモーターを起動させた。
鎖刃の回転音と巨神の駆動音が室内を満たした瞬間であった。
「……私の勝ちだな」
ドリルの血を振り払い、カイが一息つく。
胸を貫かれた男は低く唸って仰向けに倒れ、ガラン、と音を立ててギロチンが床に転がる。
だがカイは勝利の余韻に浸る事も無く、何故この要塞に人間がいるのかと考えた。
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