第32話 突撃
将軍達の指示で兵士達に緊張が走る。
兵から兵へ、敵接近の情報が飛び交い、そしてソレは地平線の彼方から全貌を現した。
大地を揺らし、砂嵐を巻き上げなら激進する巨大な影、それは、兵達が見てきたいかなる物をも上回る、規格外の規模だった。
あまりの大きさに、丘の下に待機する兵士はその正確な姿は掴(つか)めないが、丘の上からソレを見分できた兵士は誰もがその威容に圧倒され、背中に寒気を覚えた。
将軍の一人が、驚嘆のあまり、思わず口を開いた。
「なんだ……あれは…………」
移動要塞、と呼ぶのが正しいのだろうが、はたして本当にそれが正しいのかと問われれば誰もが戸惑う。
動く要塞などではない、それは……動く町だった。
直方体の要塞本体の高さは約六〇メートル、その上にはいくつものビルが立ち並び、それ以外にも大小さまざまな施設がその存在感を示していた。
黒色とも灰色ともつかぬ、あまりに無機質な、巨大な鉄の棺桶のようであり、地獄の都市のようなその風貌には、誰もが畏怖し、圧倒された。
そしてその要塞を運ぶのは家よりも高いキャタピラだった。
高さ一〇メートル、長さ一〇〇メートルほどのキャタピラが縦横にいくつも並び、上の要塞都市を運んでいた。
だが、そんな異常を見せられて怯むほどロイ達は臆病ではない、ロイとリアは嬉しそうに笑い、カイは鋭い眼光で要塞を見据え、ライナは全身に殺気を充溢させて天高く叫んだ。
「第一陣突撃! 第二陣は正面から、第三陣は第一陣の先頭が敵要塞に到着と同時に出撃しろ!」
普段の軽さなど微塵も感じさせない指示に、部下達は恐怖を拭い去るように力強く叫び地を駆けた。
マーベル准将率いる他の部隊も既に敵に突撃を開始している。
敵要塞までの距離は五〇〇メートル、丘の上からは既に弾丸の雨を浴びせている。
すると、生意気な人間共の存在に対して要塞は動いた。
要塞の本体と上部の建物のあらゆる部位が今、開放された。
飛び出したのは最大規模の戦艦の主砲すら及ばぬ、成人男子数人が入れるほどの口径を持った無数の砲門だった。
射撃部隊の集中砲火をキャタピラ部に、戦車隊の砲撃を砲身に受けながらも、要塞は大砲の角度を調整し、そして先頭の歩兵部隊が要塞との距離をニ〇〇メートルにまで詰めたところで全ての口が咆哮した。
瞬間、丘の一部が砕け散った。
まるで地響きのようなうねりを上げ、何百、何千という砲弾に自然の高台は抉れ、崩れ形を変えていく。
将軍達は射撃部隊を移動させながらも撃たせ続け、戦車隊も下がりながら狙いを要塞の砲身に合わせたまま砲弾を放ち続けた。
要塞自体もこちらに近づいているため、軍隊と要塞の距離はすぐに詰まった。
要塞に辿り着いた兵士から順に要塞へ飛びつき、それに合わせて射撃部隊と戦車部隊は味方に当たらぬよう、要塞上部の施設へ照準を変えて砲撃の手を緩めない。
当初の予定では一度砲撃を中止するはずだったが、敵の想像以上の火力に焦りを感じているのだ。
長期戦に持ち込むのは得策ではない、ここは一刻も早く勝負をつける必要があった。
現に崩れ続ける丘から何割かの部隊を下ろしたが、高所ではなく、平地から上に向かって撃っているため、重力の影響で威力が落ちている。
だが、将軍達が焦燥感に狩られ歯噛みをしたと同時に全ての兵士を地獄の底へ叩き込む出来事が起こった。
『まさか!?』
全ての将軍達が目を見張り、その光景を目の当たりにした。
超ド級要塞が突如進行を停止したかと思うと、上部のビル群から飛び降りる巨大な影の軍勢、それは紛れもなく……
「巨神が出たぞぉー!」
悲鳴にも似た声があちこちで上がった。
一騎当千の戦力を備えた巨神が何十、何百と溢れ出すように要塞から地上へ降り立ち、自分達の足元にも及ばぬ雑魚達を蹴散らして行く。
巨神の軍勢に統一性は無かった。
人間型、動物型、車両型、特殊型、それぞれの武装も多岐にわたり、全身に銃器を装備するモノや大剣、斧、鉈を手にするモノ、その両方を搭載したモノ、ただ、もっとも注目すべきは、巨神達のボディである。
驚いたことに、巨神はただの一体も錆びてはいなかった。
まるで戦争が終わった後も整備され続けていたように、その体は輝いていた。
今までの巨神よりも俊敏に動き、弾薬を使用する巨神は他の追随を許さぬ戦闘力を発揮する。
「了解しました」
無線を胸ポケットにしまい、ライナは叫ぶ。
「全軍突撃! 他の部隊が巨神を引きつけている隙に敵中突破! 巨神に構わず要塞へ攻め込むぞ!」
『オオオオオオッッ!!』
ライナの指示に呼応して一〇〇人の歩兵が突撃開始、その先頭はライナ、その後ろにロイ、リア、カイの三人が横に並んでいる。
数千の歩兵と数百の巨神が入り乱れる激戦区を突っ切り、ライナ中隊は敵要塞を目指す。
巨神達の攻撃をかいくぐり、一〇〇人と四人は駆け抜ける。
要塞との距離を五、六メートル辺りまで縮めるとライナ達は前列から順に跳び上がった。
狙いは戦車隊の砲撃で要塞の壁に空いた風穴、そこから要塞の中へと流れ込んだ。
丘の上の将軍達もそれを見つけると全部隊の砲撃対象を上部の施設から巨神へ移動させ、近接兵達が要塞へ侵入できるように配慮した。
要塞の内部は見たこともないほど近代的な内装だった。
錆びている部位を見つけることは叶わず、パイプやコードに覆われていない壁が廊下の奥まで続いている。
ただし、全面金属の空間の持つ無機質さと冷たさは変わることは無かった。
「よし、お前達はジャン・リードル少佐の指揮に従え、私は解体屋と共に別行動を取る、隊は最大でも一〇以上には分けるな、そして必ず生き残れ、以上だ!」
いきなり中隊長が隊から離れ、余所者と行動をするという事態に、だが部下達は誰一人として不平を言わずに従った。
それほどライナのことを信頼しているのだろう。
ジャン少佐と呼ばれた兵士は皆を引き連れ、廊下の奥へと走り去った。
「大佐殿、彼らを放っておいて良いのですか?」
「別に大丈夫だよ、それじゃ、オジサン達も行こうか」
いつのまにやら普段の緩さを取り戻したライナはコートの中から二丁のスラッグガンを取り出し、自分の部下達とは違う方向へ歩き出すが、廊下の先の曲がり角からは何体もの機甲兵が姿を表した。
前回、立ち入り禁止エリアの基地で戦った相手とやや違うものの、全体としての容姿はほぼ同じである。
「どうやら俺達は熱烈な歓迎を受けているらしいな」
「それってつまりぃー、壊し放題?」
「行くぜリア!」
「フルボッコー!」
弾ける様な笑顔でチェーンソーと巨大ハンマーを持った兄妹は全力疾走した。
「お前達、これは遊びではないぞ」
ドリル片手にカイも駆け出し、三人の姿を背後から見ていたライナは楽しそうに笑った。
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