第19話 ボス戦2
「よし、まず一本!」
「ロイ、いつも言っているだろう、あまり無理をするな!」
無茶ばかりするロイを諌めるカイだが、当の本人は悪びれる様子も無く、巨神の腕を捌き続ける。
「別にいいじゃねえか、そのおかげで一本解体できたんだし」
「それはそうだが……大佐殿、弾はまだありますか?」
ロイと一緒に主力を担うカイの問いに、ライナは苦笑する。
「もう無くなるけど大丈夫、いざとなったら拳で戦うから」
「なっ!? 巨神相手に拳で、大佐殿はそこまでの力を……」
「あのなぁカイ、いつも言おうと思っていたけどそうやって大佐に騙されるのやめたほうがいいぞ、第一巨神を素手で倒せるわけが無いだろ」
鼻で笑うロイを尻目にライナはショットガンをコートの中に収めると皮手袋をはめた手を握り……
「破ッ!」
近づく巨腕に渾身の一撃を浴びせ撃退した。
側面からではあったが、ライナの拳を叩き込まれた鉄骨のような腕はひしゃげてしまい戦いに不便さを感じさせた。
「さすが大佐殿だ、やはり我々とは違うな……」
感心するカイだが、ロイとリアは部屋を跳び回りながら拳を痛そうに振るライナを見逃さなかった。
とは言っても、本当に拳で巨神の腕を怯ませた実力は認めるべきだろう。
「はいトドメ」
拳の痛みがひくと同時に再びコートからショットガンを取り出したライナが先ほどの腕の根元目掛けて引き金を引くと、七本の腕を間をすり抜け、弾丸は腕の根元に見事命中した。
途端に、その腕は根元から天井を離れ、床に叩き付けられた。
実はライナは今までその腕の根元を集中的に撃っており、拳の衝撃でさらに脆くなったうえに今の一撃でとうとう自重を支えきれなくなったのである。
「さーて、これで残るは六本、この状況でロイ君はどうするかなっと」
ロイ達には聞こえぬよう、小さな声を漏らしてライナは頬を緩めた。
「やっと二本かよ、得物がこれじゃなきゃこんなに苦労しないのによう」
普段、ロイが使っているのは対巨神用の特大チェーンソー、それを両腕で振り回せば巨神とも互角以上に渡り合える。
だが今回は研究所という施設内での戦闘のため、ロイはあえて中型のチェーンソー二つという装備を選んだのだ。
まさかそれがこんなところで裏目に出るとは予想外の出来事である。
現に機甲兵との戦闘とは比べ物にならぬ圧力と衝撃は両手のチェーンソーに多大な負担をかけている。
これでは慎重に使わないと分解してしまう可能性がある。
とにもかくにも、なんとかこの状況を打開する方法を見つける必要がある、とロイが歯噛みした瞬間、ロイの目に、リアの背後へと向かう巨腕が飛び込んできた。
「リア!」
ロイの声にリアが振り向く、ロイは一気に跳躍、ライナも弾丸の残り少ないショットガンを乱射しサポートするが、銃弾程度の運動エネルギーではさほど巨腕の軌道は変えられない。
ロイの足では間に合わない、カイも向かおうとするが三本の腕に阻まれ叶わない。
やむ終えずロイはせめてリアへの直撃を避けるために腕自体に攻撃、リアも体を捻ることでなんとか直撃だけは防ぐが、巨神の鋭い刃の先端は確実にリアの両腿(りょうもも)を切り裂いた。
「ッッ……!」
その場に倒れるリアをすかさず抱き抱えてロイは逃げ回る。
「ごめんねお兄ちゃん、あたし足手まといで……」
「気にするな、それより足は動くのか?」
心配そうなロイに、リアは被りを振ってうつむいた。
「感覚はあるから神経は切れてないと思うけど、腿の筋肉が切れているからしばらくは無理だと思う」
「そうか、なら安心だ、ちっくしょ、このポンコツども、絶対ブッ壊す、いやブッ解体してやる、つってもこのままじゃ埒(らち)があかねえ、どうすりゃいい……」
ロイが悩んでいると、機械だから狙われなかったのだろう、床で飛び跳ねるチビ神兵を見つけた。
「ちっ、大福野郎は気楽でいいなあ」
だが、リアの感想は違った。チビ神兵の飛び跳ねている場所、部屋の隅に設置された大きめの機械には多くのレバーやスイッチが取り付けられ、計器の数も多い、分かり易く言えば、大変重要そうな機械に見える。
「もしかして」
「んっ、何か思いついたのか?」
リアは確信めいた表情で頷く。
「うん、ほら、この腕達は独立しないで研究所と一体化しているでしょ? ていうことは電力は内臓しないで研究所から直接供給していると思うんだよね」
「それで、どうなるんだ?」
「ここって発電室でしょ、だったらここのシステムをいじれば研究所の電力を一時的に落とせるんじゃないかな?」
「やれるか?」
その言葉に、リアは強い声で、ハッキリと述べた。
「やる!」
「オーケー」
ロイは壁を蹴り、高く飛び上がるとチビ神兵の立っている機器までたどり着き、リアを下ろした。
「ロイ、何をする気だ」
「ここの電力を一時的に落とすんだよ、悪いけど大佐と二人で頑張ってくれ」
「承知した!」
カイは今まで以上に全身の筋肉を奮い立たせ、近づく腕を片っ端から弾き落していき、その姿に感心しながらライナも痛みを無視して、巨神の腕を突きと蹴りで撃退していく。
「さーて、これからが本番だ、保ってくれよ俺のチェーンソー」
機器をいじるリアを背後に控えさえ、彼女を守るようにロイは両手のチェーンソーを唸らせる。
『■■■■■■■■■――■■■■■――■■■■■■』
残る六本の内、実に半分の三本がロイ一人に降りかかる。
戦えるかどうかは別にして、巨神の人工知能はロイとリアの二人を認識している。
ならばそれは妥当な数だが、実際にはロイ一人でその攻撃に耐えなければならない。
「俺をナメんじゃねえぞ!」
三つの巨腕から繰り出される連撃、それを両手の得物でことごとく弾きながらロイは吼えた。
ロイの目的はリアを守ること、数トンの体質量攻撃の連続に、だがロイは臆することなく立ち向かう、その場からは一歩も動かず、毅然と鉄の腕達を睨み、己に向けられる全ての攻撃を乾坤一擲(けんこんいってき)の覚悟で叩き伏せる。
中型のチェーンソーが壊れた瞬間にロイの肉体は巨神の鉄爪に貫かれるだろう。
一一、一二、一三、三本の腕はなおも攻撃の手を緩めようとはしない。
そうこうしているうちに既に二〇回目の攻撃を弾き返し、二一撃目が接近する。
「ド畜生が、ふざけんじゃねえ!」
二つのチェーンソーを同じ入射角で同時に当て、見事に四枚の刃を切り裂いた。
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