第31話 復讐
指定された港の倉庫に来て、雅彦達を出迎えたのは一人の少女だった。
年は十代半ば、短めのポニーテールが非常に可愛い、ティーシャツ短パン姿で両手には眞子と同じタイプのボクシンググローブがはめられている。
「えーっと、あんた達がまちゃと航ちんだよね?」
雅彦が「まちゃ?」
航時が「航ちん?」
「ボクは日迎(ひむかい)那智(なち)、ぴっちぴちの十六歳だよ、えーっと、そっちのちっこいのは?」
亜美に疑問符を浮かべる那智に、長大なケースを持った亜美がケースをアスファルトに立てて言う。
「わたしは倉島(くらしま)亜美(あみ)、航ちゃんの付き人だけど、今回は麗華ちゃんを返してもらいにきたよ」
「そっかー、じゃあまちゃ以外の相手は二人だね、っと、そういえばまちゃがここにいるって事は眞子ちゃん倒したって事だよね、まさか殺しちゃってないよね?」
「安心しろ、誰も殺しちゃいない、名字が同じみたいだが眞子の親戚か?」
雅彦の問いに那智は頷く。
「うん、ボクと眞子ちゃんは従姉妹だよ、じゃあ従姉妹の雪辱を晴らすためにもがんばっちゃおうかな」
言って、那智は両手の拳を打ち鳴らした。
「まちゃは行っていいよ、残りの二人は……」
倉庫の奥から別の二人の男が走ってきて、那智の横に並ぶ、一人はトンファー、一人は薙刀を持っている。
「ボク達が相手だよ」
幼い笑顔で言われて、
「雅彦、行ってろ、こいつらは俺と亜美がなんとかする」
「……わかった」
言うとおり、雅彦が横を通り過ぎても那智達はまったくの無反応で、まっすぐ航時たちに向かったままである。
「やれやれ、そういや眞子ちゃんは生活のためとか言ってたけど、お前も金のために箱舟に入ってんのか?」
「うん、やっぱ高校通いたいしでも学費高いしさー、子供の頃から大人が相手でも容赦なくボコってたらスカウトされちゃった。すごいでしょ?」
「あー凄い凄い、じゃあ、そろそろおっぱじめるか」
亜美がケースを解放、大刀を航時に渡して、ケースの外装部分からいくつもの取っ手を生やした。
後は誰が言うわけでもなく、それぞれの中で戦いのゴングが鳴り、五人は得物を交えた。
「俺を呼びつけたのはお前か?」
「そうだ」
雅彦に殺意を向けながら、亮平は両手に一本ずつ持った二本のショートスピアを構える。
「単刀直入に言わせてもらう、俺はお前が憎い、お前という悪を殺さないと俺の気が収まらない」
「お前とは初対面のはずだぞ」
「ああそうだ、だがお前は過去に俺の戦友を殺した。その恨みは決して忘れん」
「箱舟ならしょうがない、聖騎士団と箱舟が昔から敵対しているのはお前も知っているだろ?
だいいちお前だって聖騎士団の戦士を殺した事ぐらいあるんじゃないのか?」
雅彦の返答に、亮平の眉間に深いシワが刻まれた。
「関係ねえな、俺は友を殺された。貴様ら偽善者によってな、偽りの正義を振りかざして俺の友を殺したお前を」
亮平が声を張り上げる。
「俺は許さない!! 箱舟の戦士が一人、長谷(ながたに)亮介(りょうすけ)、これより悪を粛清する!!」
亮平が間合いを詰め、突き掛かってくる。
雅彦は突きの連撃をかわし、亮平のショートスピアが振るわれると二本とも両腕のプロテクターでガードして力比べに入る。
「麗華!」
麗華と雅彦の視線が絡み、
「すぐに片付けるから待っていろ」
最初から不安の色が無い麗華の表情がさらに明るくなった。
「あったりまえでしょ」
亮平のショートスピアを弾き、雅彦が斬りかかる。
それを両手のスピアで亮平も応戦する。
二刀流と二槍流の連撃につぐ連撃が重なり、周囲にけたたましい金属音が響く。
両者は一歩も譲らずスピード感溢れる戦いを繰り広げた。
雅彦が刀を振れば亮平が槍で防ぎ、亮平が槍で突けば雅彦がかわす。
巧みなステップを踏み、大きく跳び、回転し、倉庫の壁を使った三角飛びまで披露した。
まるで演舞でも見ているようなアクロバットな動きに、麗華はまたも魅せられる。
「許さんぞ京雅彦! 俺は貴様を、聖騎士団を絶対に許さん! 殺す! 絶対に殺す!」
「暑苦しいな、ただの意見の食い違いだろ?」
「そんな事で済ますな! 正義を語っておきながら何故貴様らは俺達を殺す!? 何故正義である俺達を殺す!? 何故俺の友を殺した!?」
「そんなのお前達が市民を殺し過ぎるからだろ」
「俺達が殺すのは死ぬべき悪の芽だ! 殺して何が悪い!?」
「殺すには罪が軽すぎるんだよ!」
雅彦の一撃で亮平の体勢がやや崩れて、戦いは雅彦に傾き始める。
「それが甘い! 貴様ら聖騎士団の主張は甘すぎる!! 例えどんな罪だろうと、そこに明確な悪意があればそれは殺すに値する!! 断罪すべき悪を全て殺してしまえば世の中は平和になる、何故それがわからない!!?」
「だからって片っ端から殺すのか?」
「そうだ! 犯罪歴のある奴にチンピラ、暴走族、ヤクザ、そしてこの腐った日本を作った政治家達! あいつらに生きている価値は無い! あんな連中、殺すべきだ!!」
「そいつらが気に食わないからか?」
「そうだ!!」
亮平が放った突きを紙一重でかわして、雅彦は接近、亮平の胸を斬り付けた。
「ッッ!」
亮平の白いシャツが赤く染まり、後ろに仰け反り尻餅をつく。
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