第20話 彼氏の頼みくらい聞いてくれ

「何麗華までバカ言ってるんだよ!?」


「いいじゃんお試し期間て事でさ、付き合って始まる恋だってあるよ、幸い雅彦ってとりあえず顔とルックスは合格だし。

ああでもあたしだって遊びの付き合いはゴメンだから、本気の恋愛になるまでエッチなのは無しよ」


「おっ、おい麗華……」


「どうせいつかバレると思って部屋が隣同士とか登下校一緒とか隠さなかったけどみんなにも聞かれたら隠さず言うのよ、あたしと付き合っているって、いやー、航時くんも結構いいこと言うじゃない」


「はっはっはっ、女はいいぞ雅彦、解らない事あったら俺が亜美で実演しつつ何でも教えてやるからな」


 ぐっと親指を立ててウィンクする航時と急に抱きついてくる麗華に思い切り動揺して、そこで雅彦が初めて航時に違和感を覚えた。


「おい待てよ、そういえば城谷、亜美で実演て、倉島はどこにいるんだよ」

「あれ、そういえば亜美ちゃんいないね」


 ようやく麗華も気付いて、航時が返す。


「亜美か? あいつは家に帰って酒持って来るように言ったんだけど、そういや遅えな、こりゃ家に帰ったらおしおきだな」

「お、おしおきって……?」


 麗華が恐る恐る聞くと航時は両手の指を動かし、


「くすぐり三〇分、あいつの体の敏感さは折り紙つきだからな、ガキの頃からよくそれで失神させてきたって……なんだよその顔は!!?」


 冷めた顔で航時にゴミを見る目を向ける二人に拳を震わせる航時だが、二人の表情が改まる事は無く、二人はそろって亜美の幸せを願った。


 そこに、一本のコール音を麗華の耳が拾った。


「はいはーい、今出ますよっと」


 受話器をはずして耳に当てると、


『貴様らの仲間、倉島(くらしま)亜美(あみ)は我々箱舟があずかった。

 返して欲しければ指定の場所に来るがいい!

 あえて言おう、これは貴様ら偽善者への罰だ!

私は正義の旗の下貴様らを断罪する。

 さあ、貴様らの正義が本物ならば仲間のため友のため愛する女のために立ち上がり正義の心を剣に変え我らという壁を乗り越え、なんだ坂街アキラ、今いいところで、あっ、携帯電話をかえ……』


『倉島亜美は預かった。

 そこに城谷航時はいるな、すぐに変われ、あとさっきまでの会話は全て忘れろ』


 電話から漏れた声を聞いていた雅彦と航時は顔を引きつらせつつ、麗華に受話器を渡されて航時は応対する。


「俺が航時だ……わかった……ああ、ああ……えっ?

 チョココロネとイチゴ牛乳だけどそれが……お前も大変だな……ふんふん……わかったわかった……」


 受話器を置いて、航時は深く息をついた。


「ったく、メンドーかけさせやがって、俺ちょっくら亜美迎えに行ってくるから」

言いながら大刀のケースを持つ航時を雅彦が止める。

「待て、どう考えても罠だ、一人で行くには危険すぎるぞ」


「しょうがねえじゃん、亜美は俺の専属パシリなんだから、それにあいつがいねえと俺は明日から一日三食カップメンになっちまうんだよ」


 リビングのドアに手をかける航時を雅彦はさらに止める。


「だから待て城谷!」

「なんだよ……」

「麗華、お前と倉島は友達なんだよな?」

「えっ、うん、そうだけど……」

「じゃあ友達助けてやるからこれからは勝手な行動はするなよ」


 雅彦の言葉に、麗華がパッと顔を明るくする。


「じゃあ!」

「おい雅彦お前――」


「お前らとは大した付き合いはなかったけど、だからってお前一人を行かせるほど性格悪くはない、それに倉島をさらった連中の中に俺の親父を知っている奴がいるかもしれないしな」


「そりゃあ、確かにそうだけど……」

「麗華が勝手な行動しないとなれば一石三鳥、戦う理由には十分だ」

「その間、麗華ちゃんの護衛はどうするんだ?」

「本部に連絡して代わりの奴を呼んでおく、それと麗華」


 雅彦は麗華へと目を向けて真剣に言った。


「これは遊びじゃなければ映画やゲームの世界じゃない現実だ。

俺が帰ってくるまで、何があっても今夜は絶対に外に出るなよ、お前の命に関わる事なんだ。

死にたくなかったら神宮寺財閥当主の娘の自覚を持って俺の言う事を聞いてくれ、それに……」


 やや間を置いてから、雅彦は顔を背けると、横目で麗華を見直して、


「さっき試しでも付き合うって言ったろ? じゃあ彼氏の頼みくらい聞いてくれ」


 驚いた。

 航時との死闘を繰り広げた時の雅彦と、今の、僅かに顔が緊張している雅彦を頭の中で比較して、麗華は小さく笑ってから雅彦に抱きついた。


「亜美ちゃん助けてきたらほっぺにチューしてあげるわよ」

「……アホ」


 麗華を振りほどいて、雅彦は壁に立てかけておいた両刃刀のケースを肩にかけると航時と一緒に部屋を出た。

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