第18話 ナメるなよ
大刀を持つ戦士とは思えない速さに相手の男は少なからず動揺し、それでも航時の大振りな攻撃をかわした。
「思っていたよりは速いな……パワーだけではないようだ」
「誉められたって嬉しくねえよ!!」
空振った一撃を持ち前の筋力でまた振りなおす。
男はそれをまたかわして両手の鎌で航時に斬りかかる。
スピードタイプの敵の攻撃。
それを航時は難なくよけてまた大刀での一撃。
「!?」
と、思わせて見事なミドルキックを男の腹にブチ込む。
これがアスリートではなく戦士の、本物の戦いである。
彼らがやっているのは剣道でもフェンシングでもない……
殺し合いである。
どこにも武器しか使ってはいけないなどというルールは無い。
しかし敵の男とて本物。
しっかりと固めた腹筋で内臓へのダメージを最小限にとどめて、すばやく体勢を立て直そうとした。
が、あまりの威力に体が後方へ飛んでしまう。
足が床にまだついていない。
それほどに航時の蹴りはパワフルなのだ。
確かに航時は肩幅が広く、手足も太い、でもそれは一般人から見ての話であり、プロレスラーのような体格を持っているわけではない。
生まれ持った筋肉の質とでも言おうか、無駄な脂肪などなく、驚くほどの密度と強靭さを兼ね備えた筋肉も航時の武器なのだ。
人としての壁を越えた戦士の肉体は元々見た目以上の身体能力を持っているが、航時の体は戦士の視点で見ても見た目以上の筋力を発揮していた。
「もういっちょっー!!」
航時の放つ横薙ぎの一撃がパーカーの男に襲い掛かる。
腹の痛みに耐えつつギリギリの線でかわす。
が、その刀圧は男に絶大な危機感を与える。
「おらおらどんどん行くぜぇえええええええ!!」
一撃、また一撃と航時は大刀を矢継ぎ早に振り続けていく。
巨大な武器はその巨大さ故に、本来は薙ぐか振り下ろすか、ただ縦か横に振るだけの単調な武器である。
威力こそ全武器中最強を誇るがそれが理由で素人以外には通用しない。
のだが……
「これは……?」
航時が生み出す刀圧の嵐。
それに男は少しも近づけない。
本当ならば航時の大振りな一撃が空振ったところで懐(ふところ)に潜り込み、腹を裂いている筈だった。
なのに航時は超重量武器の大刀を上に斜めに振り、空振りした後で間髪いれず二撃目を放ち、さらには真っ直ぐ突きを繰り出してくる。
普通の刀と同じとはいかないが、ただ使い方がパワー系というだけで動きそのものは普通サイズの刀に近いモノがある。
男は舌打ちをして、屋上の出口へと走る。
航時もそれに続く。
下の階へ降りる階段に入り、男は笑った。
「ははは、我ら戦士は市街戦においては近代兵器を遥かに越える力を持った存在、にも関わらず狭い場所での戦闘を不慣れとする大刀を選ぶなど愚の骨頂。
お前のようなにわか戦士に教えてやろう、これが銃器を越えた真の力――」
「ずおりゃぁあああああああああああ!!!」
バキバキメキメリ
そんな音と航時の怒号、そして音源に男の喉は声を失った。
航時の大刀の先は天井に刺さり、だがその天井を斬り裂きながら直進。
振り下ろされ、先端が天井から抜けると抵抗を失った大刀が加速、軽戦車の装甲も貫く怒涛の豪撃が炸裂した。
パーカーの男の脳天に当たった刃は、
首、
胸、
腹から股下へと抜けても止まらず、階段に深々と食い込んで、発生させた亀裂は階段だけには収まらなかった。
周囲の壁までも侵食していき、航時の一撃で床、壁、天井の全てがズタボロである。
紅い血と内臓をぶちまけて仰向けに倒れる、元は一つだった二つの体を見下ろし、航時は自分の左わき腹を手で軽く叩いた。
「あいつとの怪我なんてとっくに完治してるっての、俺の回復力ナメんじゃねえぞ」
天井と階段に出来た巨大な亀裂。
そこを中心に広がる壁のヒビ。
左右に分かれた男の死体。
この光景を見て、
「ふむ、大刀で縦振りの一撃だな、凶器は大刀、犯人はかなり筋力が強いところから体格の良い男だろう」
と推察する刑事などいないため、航時が罪に問われる事は無い。
世間が武から離れた事で、解釈によっては戦士が生きやすい世かもしれないと思いつつ、航時は屋上で待つ亜美の元へ戻る。
「航ちゃんおつかれさま」
可愛く笑う亜美に大刀を渡して、航時は屋上の端まで歩く。
「こうやってケンカ売ってくれる奴ばかりなら楽なんだけどな……」
「どうかしたの?」
黙り込む航時を見て、長大なケースを手に下げた亜美も屋上の端に駆け寄った。
「いや、単なる方針チェンジならただ手間が増えるだけだ。
でも今の今まで散々俺らとドンパチやってきた連中が、今更ただ俺達を無視っていうだけで済ませるとは思えねえんだよ……」
「そお? 考えすぎじゃないかなぁ」
「俺もそう願いたいもんだよ、それと気が変わった。ナンパやめてこれから雅彦達のとこ行ってくるから、お前家から酒持って後で来い」
言われて航時に武器ケースを取り上げられると亜美は頷き、二人は階段でも下りるように屋上から飛び降りた。
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