第12話 続・粛清


 また、別の場所。

 暗い夜道を一人の男子学生が黒いスーツを着た男達に絡まれていた。


「おいあんちゃん、人にぶつかっておいて謝ってはい終わりは無いんじゃない?」

「そうだぜ、こっちは骨折れてんだからさ」

「治療費、一〇〇万払ってくれないと、君の家に行かせてもらうよ」


 汚い笑みで言う男達に、男子学生が震え上がると。


「待つんだそこのヤクザ達」


 声は上からだ。

 その上から急に男が舞い降りた。


 目はサングラスで隠しているがかなりの男前である。

 左手には手首から手の甲までを覆った金属のプロテクターをしている。


 どこから降ってきたとか、こいつ誰だという疑問を感じながら、そのサングラスの男が着地の反動で曲げた膝を伸ばして直立すると、黒いスーツを着たヤクザ達の表情が変わった。


 デカイ。

 身長は一九〇センチ近い、加えて肩幅が広く、ノースリーブのコートから露出した肩と二の腕は逞(たくま)しく、一目見ただけでアスリートを感じさせた。


 無論、この男はアスリートなどという生易しい輩ではない。


「か弱い少年から大の大人がよってたかって、恥を知れ、さあ逃げるんだ少年、そして貴様らも罪を悔いて立ち去るがいい」


 そんな、一昔前の漫画の主人公でも言わなさそうな言葉を口にして、でもサングラスの男の顔は至って真剣であった。


 呆気に取られている間に少年は全力疾走で逃げ去った。


「なっ、あいつ逃げちまった」

「おいおい兄ちゃん、あんたのせいで治療費もらえなかったじゃねえか」

「あんた、代わりに払ってもらえるかい? 二〇〇万」


 何故か値上がりしている。

 聞いたサングラスの男は左手をグッと握り、


「やはり反省の色は無しか、このような悪がはびこっている事が私は悲しい、ならば仕方ない……

我は裁こう、絶対正義の旗の下、一振りの聖なる剣を以って、我が正義の刃を受けるがいい!!」


 叫びながらサングラスの男は右手のモノを天に掲げた。


 それは、まるでゲームにでも出てくるようなデザインをした西洋風の剣だった。


 光沢から一応金属で出来ているようではあるが、どう見ても観賞用、もしくはコスプレ用品である。


 サングラスの男に呆れながら、ヤクザ達が溜息をつこうとして、その剣が真横に振るわれた。


 一瞬、事は一瞬だった。


 サングラスの男が振った剣は三人の体を通り抜けて、最後には振り切った反動で血が拭ぐわさった。


 ヤクザ達は全員手を下げていた。


 胴だけではない、

 戦闘用の切れ味など持っていない、

 ただの観賞用の剣はヤクザ達の両腕ごと胴体を軽々と切断したのだ。


 何故そんな事が可能なのか、理解する間も無く、出血多量でヤクザ達は絶命した。

 サングラスの男は、己の剣に見惚れて言った。


「さすがは聖剣エキュスカーバー。

珍品堂で三〇万も出して買った甲斐があったな、しかしあの店の店主殿に詐欺の容疑をかけるとは、現代の警察は腐っている。

 一日も早くこの国に真の正義を取り戻さなくては」


 言いながら、サングラスの男は定価五万円メイドイン台湾の聖剣を持って新たな悪を求めて走った。


 実(げ)に恐ろしきは信仰心である。


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