第10話 真の戦闘
「タフな奴だな、まだ足りないのか」
「そんな恐い顔すんなよ、どーせやんならもっと楽しもうぜ」
航時の豪撃が落下する。
車すら両断可能であろうその攻撃に、だが雅彦はかわさない。
雅彦は両手の両刃刀を揃え、二本同時に大刀と交わらせた。
「なっ!」
航時が驚く目の前で、三枚の刃が喰らい合う。
体重も筋力も、そして武器の重量も上をいく航時相手に真っ向勝負は愚かにも見えるだろう。
しかし、正彦の武器はスピード。
物体の運動エネルギーは速さ×速さ×質量。
鍔迫り合いになれば話は別だった。
だが、高速物体同士の衝突ならば、速力で上回る雅彦にも十分勝機はあった。
だから、この結果は雅彦ではなく、武器にあった。
ビキンッ
と音がして、雅彦の両刀が折れた。
パワーとスピードの正面衝突は、使い手ではなくその武器の強度で勝敗を決した。
流石に、雅彦の鋭さが売りの細い刀では例え二本合わせても、航時の力任せに敵を叩っ斬る、厚く、頑丈な大刀を看破する事はできなかったのだ。
それでも航時は油断などしていない。
航時の性格は軽く、楽天的で戦いを楽しむタイプだが、航時とて現代人でありながら古代や中世の戦士と同じ、ある種の壁を越えた超人である。
その域に着くまで辿ってきた道は生半可な物ではない。
だから知っているのだ。
戦いとは、最後までは何が起こるか分からない。
殺し合いとは、相手が死んで初めて勝利が決まる。
〈ここまでくれば勝ったも同然〉は存在しない。
よって、誰も航時は責められない。
この激突にだけは勝ったものの、雅彦との接触に航時の大刀はその運動エネルギーの大半を刈り取られ、航時自身も衝撃を体に受けた。
一瞬、ほんの一瞬だけ航時の動きが止まる。
普通人から見れば刹那の、だが戦士にとっては確実のチャンスを、雅彦が見逃すはずが無い。
否、雅彦はこれを狙っていたのだ。
へし折れて、三分の一ほどの長さになった刀を突き出す。
雅彦は足、
腰、
背骨、
肩、
腕の関節全てをフル稼働する。
僅か二、三〇度程度の回転で最高速度を叩き出した寸剄のような攻撃は航時の左脇腹に深い二本の裂け目を生み出す。
航時に油断なんて無かった。
全ては雅彦の計算、雅彦の武器を犠牲にする事で発動する必殺の一撃。
航時が破壊したのは雅彦の武器。
雅彦が壊したのは航時の肉体。
本当に、油断なんて無かった。
全力でぶつかり合い、その上で城谷航時の完敗だった。
「ヤベ……ッッ……」
航時の体が後ろに傾いたのと、声が放たれたのはほぼ同時だった。
「航ちゃん!!」
亜美がリングに飛び出して航時に駆け寄る。
だが雅彦はそれに構わず、彼もまた駆け寄る。
歓声に包まれながら、雅彦は詰問する。
「さあ俺の勝ちだ! 親父の場所を教えろ!」
「ま、待って! その前に航ちゃんを医務室に――」
航時の手がスッと上がり、亜美の口を止めて、
「知らねーよ」
「なっ……!」
「……思い出してみろ……誰も知っているなんて言ってねえじゃんよ……ああでも言わなきゃ戦ってくれそうになかったんでねぇ……」
確かに、航時はただの一度も、父親の居場所を知っているとか、勝てたら教えるというふうには言っていない。
ただ、
「居場所を知っていたら、どうして欲しい?」
と言っただけだ。
それでも、勝てば父親の居場所が解ると期待していた雅彦はやりきれず、折れた刀を振り下ろした。
「クソッッ!!」
下ろされた刀は航時の耳をかすめて、すぐ横の地に突き刺さっている。
「はは……恐い恐い……」
「航ちゃあん」
泣きべそをかく亜美の頭を撫でる航時は、駆けつけた医療班によって回収された。
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