第8話 チャレンジャー
「というわけで、これからはよろしく頼んだぞ」
雅彦と並んで昼の街を歩きながら、麗華は重たい溜息を吐き出す。
「あ~、いきなり夢の学園生活が遠のいたわ、箱舟だか屋台舟だか知んないけどそんな得体の知れない連中に狙われるなんて……
みんなが青春謳歌している時になんであたしだけ一人でスパイアクションしなきゃなんないのよ~」
「悪いな」
横からの声に、麗華がチラリと雅彦を見た。
「監視されているような生活は嫌だと思う、だけど社長もお前の事が心配なんだ。
俺もできるだけお前のプライベートには関わらないようにするつもりだから、なんとか我慢してくれないか」
申し訳なさそうに、雅彦はやや表情を曇らせた。
麗華は少しだけ感心する。
(一応あたしの事考えてんだ)
思ったよりも悪い奴ではないと、雅彦の評価を改めつつ、麗華は雅彦の姿を今一度見なおす。
友人の評価が頭に思い浮かぶ。
(まあ、カッコいいっちゃカッコいいけど……夜這いは無いわね……)
「んっ、どうかしたか?」
「べつにー、ただちょっとねー、まああたしも危ない目に遭いたくないし、あんたの護衛は認めてあげるけどさー」
麗華は雅彦の前に回りこみ、顔の前にピッと人差指を立てた。
「その仏頂面、直したほうがモテるよ」
その夜、とあるバーで城谷航時はカウンターに座り、未成年にも関わらずワインを呷っていた。
「すごーい、スコッチをストレートで飲んじゃった!」
「相変らず強いわね」
両サイドに座る大人の女性に誉められて、航時は気分を良くしておかわりを頼む。
「おれからすりゃこんなん水みたいなもんだって」
その時、カウンターから近いテーブルで牛乳を飲む少女が声をかける。
「ねえ航ちゃん、明日は大事な用事があるでしょ、そんなに飲んじゃだめだよぅ」
紺色のワンピースを着た少女に言われて、航時は舌を鳴らす。
「うっせえな、こんぐらい大丈夫だよ、ガキは黙ってミルク飲んでろ」
「同い年なのに……」
呟く少女を無視してまた酒を飲み始めると、隣の女性が少女の横にある巨大なケースに注目した。
「ところで航時くん、あの大きなアタッシュケース、中に何入ってんの? なんか妙に長いけど」
大人ほどの長さがある、長大な黒いアタッシュケースを見て、航時は口を開いた。
「あーあれ? あれは俺の大事な商売道具だよ」
言って、航時の目に静かな闘志が燃えた。
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