聖騎士団VS裏聖騎士団 現代裏闘技場
鏡銀鉢
第1話 勇ましすぎるお嬢様
一五四三年 鉄砲伝来 刀 槍は死んだ。
一八一四年 蒸気機関車発明 人力から蒸気へ。
一八七六年 廃刀令制定 武士の魂は死んだ。
一八七九年 電球の発明 人は電気を手に入れた。
一八八九年 決闘罪制定 戦士は闘いを奪われた。
二十世紀 あらゆる武術はスポーツ化され、安全なものになる。
情報化が進み、社会は力から知の時代へ進み続ける。
世界から、武が消えた。
二〇XX年 東京。
「クタバレ!!」
開口一番「クタバレ」と言った気の強そうな少女の名は神宮寺(じんぐうじ)麗華(れいか)、まるで漫画にでもでてきそうなお嬢様系の名前だ。
実際にお嬢様である。
サラサラのロングヘアーを両端で縛ったツインテールが風に揺れて高校の制服であるブレザーを撫でる。
均整の取れた姿態。
白い肌。
細い首筋。
小ぶりな顔。
小さな唇。
手入れをしなくても完璧ラインの眉。
額に浮かんだ青筋。
眉間に刻まれたシワ。
「てめえ俺らがどこの誰かわかってんのか!?」
「ああああ!! よっちん意識ねえぞ!」
たったいま麗華に股間を蹴り上げられ地に伏せた仲間にかけより、一人の不良がそう叫ぶ。
六人の不良を相手取り、神宮寺麗華は真昼の太陽に下で高らかに叫ぶ。
「どこの誰かですって!?
そんなの社会の落伍者その一から六に決まってんでしょうが!!
あんたらさっき女の子無理矢理連れてこうとしてたわね」
「はっ、それがてめえになんの関係が――!!」
言った男がまた股間を蹴り上げられて意識を失った。
『ヒィ!!』
と残りの四人は悲鳴を上げて自らの股間を守るように手を当てる。
ビキビキと額に新たな血管を浮かばせて、麗華はツカツカと歩み寄る。
残りの不良は打ちまたで怯えて、麗華の左手が一人の不良の鼻ピアスをブチリと千切った。
「~~!!」
ひるんだところを鋭い右フックが不良のアゴの付け根に命中。
三人目の不良もまた倒れて、だが意識は失わずにのたうちまわって苦しんでいる。
残された三人は麗華の冷酷非常にして残虐すぎる行為に縮みあがって、……土下座した。
「すすす、すんませんでしたぁあああああ!!」
「どうかお許しを!」
「俺達が悪かったですはい!」
泣きながら謝罪する人生の落伍者達を見下ろして、麗華は鼻を鳴らして振り返った。
「ったく、分かりゃいいのよ、次やったら本当に金玉潰すからね」
背を見せて遠ざかる麗華に、三人の不良は同時に飛び掛った。
いわゆるだまし討ち。
なんとも卑怯な戦法である。
だが、そんなものが通じる神宮寺麗華ではない。
こうなる事が分かっていたようで、麗華は男達の足音を聞いただけで何の躊躇いも無く右足を背後に突き出した。
麗華のすばらしき脚力と不良の自ら走りこんだ運動エネルギーが合わさる。
それは運動する二つの物体の接触面にエネルギーが集中した。
物理の簡単なお勉強である。
「はうばぁああああああ!! ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!! ぐごばぁああああああああ!!」
股間を押さえ、涙と鼻水とヨダレを垂れ流す不良。
不良はそこらじゅうを走り回り、最後に道路標識のポールに頭から突っ込んで地獄に落ちた。
しかし、残りの二人は構わず麗華に左右から掴みかかり、体の自由を奪う。
「てんめ、随分とナメたマネしてくれたな!」
「ぶっ殺してやる!」
それでも麗華は少しも怖じる事無く暴れる。
「ちょっと離しなさいよ!
あんたらの金玉も潰すわよ!
マジ潰すからね!!」
「潰せるもんならつ――」
麗華の右腕を掴んでいた不良の言葉が途切れて、横に倒れこんだ。
視界に飛び込んできたのは青年の顔。
どうやら彼が倒してくれたらしい。
が、昼でもその道は人通りが少なく、周りには誰もいないはずであった。
彼は一体いつからそこにいたのか。
まるでワープでもしたかのようだ。
青年の茶色い髪がなびき、力強く鋭い眼が最後の不良の顔を捉えて、
「がっ!」
最後の不良は前歯を飛び散らせながら倒れこむ。
青年はさっきまで不良の顔があった場所から瞬速拳を引いて、
「ケガはないか?」
と聞いてきた。
麗香は一瞬言葉を失う。
数秒してからやっと、
「うん……」
の一言だけを言った。
「じゃあ、今度からはナイフの一本でも持っていろ、スタンガンも薦める」
そう言って、青年は麗華と同じ制服の背を見せてさっさと横道へ入ってしまう。
麗華は慌ててその道へ行く。
だが、青年の姿はもう無かった。
ポカンと口を開けたまま、麗華は呟いた。
「今のって、確か……」
麗華は朝にした入学式の後の事を思い出していた。
そう、彼はいた。
同じ制服を着ている時点で同じ高校の生徒である事は明白。
それだけでなく、彼はつい何時間が前に行われた自己紹介の時に、整った顔立ちだったので、眠たかったが薄っすらと覚えた。
……ような気がする。
「えっと確か……」
思い出して、ポンと手を叩く。
「そうだ、京(きょう)雅彦(まさひこ)!」
言ったところで、彼女の携帯が鳴った。
ポケットから取り出して開く。
すると、携帯の画面には執事の名が表示されている。
どんなに口と態度が暴力的でも、彼女は財閥のお嬢様だ。
「はいはい、一体何の用?」
執事の名は新谷(しんたに)昇(のぼる)。
子供の頃から自分に仕えてくれている人物で彼女の金的蹴り最初の犠牲者である。
「お嬢様、今からでも遅くはありません、やはり車で送り迎えを」
すると麗華は歩きながらため息をつく。
「あのねぇ、私は普通の学園生活がしたいからこの高校に通っているのにそれじゃ意味ないでしょ」
「し、しかし……末っ子とはいえ仮にも神宮寺財閥の令嬢が、う~ん、やはり登下校くらいは……」
気の弱い声を、
「それだけ? じゃあ切るわよ」
と言って斬り捨て、麗華は携帯の電源を切る。
「麗華ー」
後ろからの呼びかけに、麗華は振り返る。
声の主は中学生の時に偶然知り合ったサラリーマンの娘で現在は同じクラスである。
「どしたのそんなに慌てて?」
息を切らし走ってくる友人に聞いて、
「あんたまた不良イジメしてんの?」
と聞かれた。
「はい?」
「あっちに男が五人も倒れてりゃあんたしか犯人いないじゃん」
「え~、あれはこの世にはびこる悪を懲らしめただけじゃん、不良イジメなんて人聞きの悪い」
「あんたに狙われたら不良のほうがかわいそうよ! 被害者よ!
あんた今まで何人の不良やチンピラ病院送りにしてると思ってんの!?
だから不良狩りの麗華とか女子にあるまじき称号を周りから授与されちゃうんでしょ、そんなじゃ一生彼氏できないんだからね、分かってる?」
友人に詰め寄られて、麗華は口を尖らせた。
「ふんだ、別にいいわよ、そんな称号や噂でビビる程度の男なんかいらないもん、あたしは今の軟弱な男共が足元にも及ばないような強くてかっこいい頼りがいのある人がみつかるまで独身クイーンとして君臨してやるんだから!」
「ちょっと何開き直ってんのよ!」
「うっさいわね!
だいいち今回のはあたしじゃないもん!
あたし三人しかやってないもん!」
「えっ?」
と、友人は眉根を寄せてアゴに手を当てる。
「じゃあ何、残りの二人は誰がやったってのよ?」
「ほら、うちのクラスにいたじゃん、京よ京」
「あああ、京君か」
と言って友人は大きく頷く、
「あんたも覚えてたんだ」
「決まってんでしょ、ウチのクラスじゃ一番のイケメンだからね、あたしの評価顔Bプラス、スタイルAマイナス、性格不明、総合評価Bプラスよ、でも女の子を助けるなんて、結構強いみたいだし、これはAマイナスに評価を改めねば」
制服の内ポケットから携帯電話を取り出して高速でボタンを打ち始める友人に呆れながら、麗華は友人の肩に手をおいた。
「あ、あのさ、人の趣味にどうこう言うのはアレだけど、あんたはちょっと男好き自重したほうがいいわよ」
「何言うのよ! あたし男好きじゃなんかじゃないわ! イケメン好きよ!」
「次元変わらないし……」
その後、二人は並んで歩いて、麗華は友人のイケメン理論を延々と聞かされる事となった。
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