第20話 初登校

「え、や、マジだ!」


 ここまで昔にループするとは想像していなかった。高校のいつだ。制服、じゃ分からない。上履きは中学と違って学年が別れていない。

 とりあえず学校に行こう!


「蓮~起きた~?」

「お、起きてるッ」


 立ち上がったところで下から母の声がした。お母さんだ。懐かしい。親と一緒に住んでたのは十年も前だから、ちょっとだけ涙が出そう。精神的に参ってるからね。何せ殺人鬼に殺されたところだから。

 制服に着替えてリビングに行く。テーブルに朝食が用意されていた。感激。誰かの手作り。感激。


「今日から授業なのに遅刻するよ」

「あ、うん。急いで食べる」


 卵焼きを頬張りながら、内心全裸で踊り狂う。

 ありがとうお母さん。おかげで一番良い時期に戻ってきたことが分かった。授業初日、つまり、由奈に出会う前の俺ということだ。


 高校は一緒でも、八クラスあるため三年間交流が無いまま卒業する同級生は大勢いる。実際、高校の俺は二クラス分程度しか名前を覚えなかった。だって本当に交流無いんだもん。

 部活も強制じゃないから帰宅部はいるし、他のクラスと合同でやる授業もなかった。中学の二倍も人数がいたから単純に覚えきれないというのが一番だけど。

 二年になったら文系理系に別れるから、余計にクラスが固定されて三年間一緒のクラスにならなかった人山ほどいたと思う。

 ということはだ。クラスが違うなら、それ以外で会わないようにすれば由奈と出会わなくて済むというわけだ。


 何故かって?

 高校時代、俺と由奈は一度も同じクラスにならなかったからです!


「いってきます!」

「いってらっしゃい。車に気をつけてね」

「は〜い」


 母の味を懐かしみつつ、急いで家を出た。車に気をつけてなんて言われるのも十年振り。一回目の人生で轢かれたけど。ごめん。落ちたし刺されたけど。ごめん。


 電車に乗って考える。由奈と初めて会ったのはいつだったか。それにしても通学電車も懐かしくて気が散る! 何もかもが思い出なんだよもう〜〜!

 そう考えると、黒歴史的なことは学生時代無かったのかもしれない。あったわ。中学の時。どうせなら中学まで戻って修正したかった。

 人の噂は七十五日ってあれ嘘だからね。適当な人の噂ならともかく、友だちのは一生覚えてる。少なくとも十五年は覚えられてる。


「分かった」


 黒歴史で思い出した。由奈と会ったの、一年の時のゴールデンウィークだ。高校生なのに厨二病の怪しい奴に絡まれてた由奈を助けたのがきっかけだった。

 俺からしてみたら知らない人をちょっと助けたつもりですぐ忘れてたけど、偶然学校で再会して……って流れだった。

 なら、ゴールデンウィークに出歩かなきゃいいんだ。簡単。数日引きこもるのは元社会人にしてみればただのご褒美だ。


 だってさ、週五働いてその後二日しか休みないのバグじゃない?

 例えばそこに水曜休み入れてみてよ。

 あら不思議。二日行ったら休み二日行ったら休みのスペシャル週間に大変身!

 二日行ったら休みだと思ったら絶対生産性上がるよ。むしろ週五より効率上がって業績も良くなるかもしれない。


 週五じゃ水曜あたりで働くの飽きて、木金は単なる流れ作業で一日終わるじゃん。たいていどんな仕事してたか記憶無い。

 それで土日が来るから、遊びまくろうとしても体がおじいちゃんだし洗濯物は大量だし、テーブルの上には埃が載っている。これで一日が終わって実質休み日曜日の一日だけだよね。早いところこの事実に政府は早く気付いてほしい。


『次は〜平山大学前〜』


 着いた!

 ドキドキする。高校生をやり直すとは思わなかった。もし由奈と出会わず結婚ルートに入らなかったら、結婚式までの早送りモードが起きないから、二十八歳まで過ごし直すのかな。


 それはどうだろう。

 かなりめんどくさい。

 けど、由奈と会わないようにするには全部生き直す必要がある。

 不安なような、ちょっと楽しみなような。

 

 俺はどんな人生を送るんだろう。


 結婚ルートは回避するとしても、結婚したくないわけじゃない。二十八歳には誰かと結婚してたりして。子持ちだったりして。子ども好きだから、結婚よりむしろパパに憧れてたりする。

 恋人がいれば、結婚してもしなくてもそこまで変わらない生活が出来るから結婚に拘らなくてもいい気はするけど、パパになるには恋人がいるだけじゃなかなかなれないからなあ。


 高校の最寄りを降りてそんなことを考える。由奈がいた。

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