第19話 三度目の

「幸せそうな顔しやがってぇ!」

「新婚夫婦を狙ってんのか!?」


 なるほど。じゃない! 俺たちが狙いだ!


「こっちだ!」

「蓮君は!?」

「いいから!」


 由奈を路地裏に押し込み、俺は包丁男と向かい合う。


 はっきり言って逃げ出したいくらい怖い。

 由奈だって俺は好きじゃない。

 三百六十五日別れたいくらい好きじゃない。


 でも、俺の奥さんなんだ。


「おじさん、それ仕舞ってください」

「何言ってんだてめぇッ頭狂ってんのか!」


 狂ってんのはおっさんの方だろうけど、包丁男に包丁仕舞ってくださいって頼む俺も狂ってんね、知ってる。知ってて頼んでるんだよ!!


 おっさんがにやにやしながら近づいてくる。知ってるぞ、同じような状況さっき体験した。でも今回は話の通じない初対面。

 この場合は逃げるが勝ちだ。俺の方に注意を向けつつ、走り出す。しかしおっさんは走らなかった。おや? 諦めてくれるのか?


 そう思った俺が甘かった。


「そこに女を隠したなぁ」


 あろうことか由奈の方に向かっていった。

 なんでだよ! 俺の方が狙いやすいだろ!

 頭がぐちゃぐちゃだ。

 包丁男に襲われて、包丁を突き付けてきた由奈を守って。


「くそぉッ」


 由奈、逃げてくれ。


「そっちは行き止まりだ!」


 男が叫ぶ。

 俺は絶望に囲まれた。


「来ないでぇ!」

「止めろぉ!」


 由奈に狙いを定めるなんて、どこまでも捻くれた奴だな!

 路地裏に顔を突っ込んだ男の背中を引っ張って引きずり倒す。大げさな音を立てて男が転んだ。


――今だ!


「由奈!」

「蓮君!」


 隠れていた由奈の手を握り逃げ出す。この状況なら逃げ切れるかもしれない。


「全力で走れ!」


 由奈を前にして走り出す。

 クソッ由奈もだけど、俺も足がもつれてうまく走れない。

 なんだよ。

 でも絶対、由奈を無事二次会へ連れていく。


――あっっっっつ。


 急に背中が暑くなって、俺はその場に倒れ込んでしまった。

 逃げなきゃいけないのに。これじゃ捕まっちゃう。


「れん、くん」

「ごめん。すぐ立つから逃げよう」


 膝に力が入らない。男の気色悪い笑い声がした。


「ひぃははははぁぁぁッ! やったぞ。俺はやった!!」

「何がやっただ……!」


 振り向いて気が付いた。こいつ、包丁持っていない。背中を擦る。硬い物にぶつかった。


「包丁……」


 俺に刺さってる。

 刺されたんだ、おれ。

 理解した途端、生まれて初めての痛みに襲われた。


 痛い!


 熱い!


 痛い痛い痛い!


「ぐぁあああああッッッ」

「蓮君ッッ!!!」


――いてぇぇぇぇぇぇ!! 結局包丁!! 体が熱いし痛い! 背中以外も全部痛い!!


 くそぉ……包丁回避してからのまた包丁かよ……。

 どうあっても死ぬんじゃん~~~!!!









「…………ぅあッ」


 自分の呻き声で目が覚めた。


 ベッドの上、パジャマの俺。過去に……戻ったのか。あんな風に殺されても戻れるんだ。由奈は無事逃げられたのかな。俺が刺された直後にループしたんだから大丈夫だと思いたい。


 それにしても今までと違う気がする。特にこの部屋は……。


――高校の俺だ!!

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