第17話 ココナッツ

「しないよねぇ~~~」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


 隣にはもちろん由奈がいて、当然のように結婚式が開かれている。もうこの光景見飽きてきたな……。一回しか結婚してないはずなのに自分の式飽きるってツライ。見飽きたけど堪能したことはないんだよ。

 とりあえず目の前にある料理を頬張る。美味しい。美味しいな、こんな時でも。有能なシェフさんが思いを込めて作ってくれたに違いない。有難い。悲しい。


「美味しい」

「うん。スタッフさんに新郎新婦は食べる時間無いって言われたけど、食べないともったいないもん」


 そうなんだ、説明受けたことないから知らなかった。一回目の時点でサプライズだから結婚式の知識何も無いや。

 スライドショーを観ながら食べ続ける。でも、前回と少し写真が違うな。社会人になってからの写真が少ないというか……あれ、参列者のテーブルに吉田さんがいるぞ。俺が三年目の時転勤になったのに!


「由奈」

「なに?」

「由奈って何歳だっけ……?」

「やだぁ、何言ってんの」


 由奈が笑う。そうだよね、頭おかしいと思われるよね。でも俺には分からないんだ。自分の歳も、由奈の歳も。


「二十四歳でしょ」

「そうだよね! あはは!」


 何もごまかせていない乾いた笑いでその場をしのぐ。二十四歳で結婚してんの。二十八歳じゃないの。若いな!?


 なんで。


 あ、あれか。さっき、大学の由奈が「卒業したら結婚」って言ってたからか。だから予定より早まった。なるほど。なるほど……。そっかあ……。


 捕まっちゃったんだ。包丁突きつけられた相手と結婚するってどんな気分だったんだろう。ちなみに今は檻に入れられて食べられるのを待つ家畜の気分。

 じゃあ、もしかして周りで一番乗りだったりするかもしれない。二十八歳までに結婚式に呼ばれたのは三回だった。昔より晩婚化が進んでいるし、事実婚で籍を入れない人もいる。結婚するのはとても素敵なことだけど、由奈のこの執着はクるものがある。


 そうだよ。手錠や包丁なんて、いくらなんでも行き過ぎている。何かきっかけがあったはずだ。誰かと一緒にいるところを見ただけで包丁を持ち出しちゃうきっかけってなんだよ。俺何かしたのか。浮気したことないのに。デートの約束をすっぽかしたこともない。

 は~~~、ため息が出ちゃう。これ三回目だもん。ステーキめっちゃ美味しい。


「私と違ってお色直しの時時間あるんだから、そんなに急いで食べなくて平気だよ」

「美味しくて、つい」


 確かに、参列した式でお色直しとかいうイベントあった記憶が薄っすらある。花嫁さんがウエディングドレスから着替えるのか~へ~くらいにしか思ってなかった。今でもよく分かっていない。新郎は着替えないのもよく分からない。

 あれ、前回お色直しなんてあったっけ。ショックが大きすぎて気を失ってたのかな。それかお色直し後から人生再生された?


 まあいいや。未来は一つじゃない。四年も結婚式が早まった時点でお察し。俺がした全てが未来に直接影響している。なんかやることやること裏目に出ている気もするけど。なんでだろうな……前回なんて由奈に何か言う前におかしくなった。


 俺が悪いのか? 高橋さんと出会ったから? どうすれば良い方向に転ぶのか全然分からない。いっそ由奈と出会うべきじゃなかった。由奈と付き合ったら最後、どのタイミングでジタバタ足掻いても結婚ルートは避けられないのかもしれない。


 疲れたよココちゃん、ナッツちゃん……しばらく実家に帰ってない……もう十歳過ぎたから人間にしたらおばあちゃんだ。元気かな。やっぱ俺も猫飼いたいな。

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