第1000話 ~The end story~ 女神様といっしょ!

 それから一か月後――


 レイ達は王都に戻ることになった。


「お世話になりました」


 ヒストリアで特にお世話になった長老様とレベッカの両親の二人。

 それに村の何人かと挨拶を交わす。


「ふははは! しかし、お主らはもうこの村の住人じゃからの。いつでも帰ってくるといいぞ」


「はい! ありがとうございます、長老様」


 そう言って僕と長老様は握手を交わしながら笑顔で話す。


「レイ殿。娘ををよろしく頼む」


「うふふ、この子は良いお嫁さんになると思うわよ。レイさん、たっぷり愛してあげてね?」


「は、はい! 分かりました」


「は、母上……レベッカ、恥ずかしいです……」


 一緒に挨拶していたレベッカは顔を真っ赤にする。


 レベッカのお母さんのラティマーさんは、僕の両手をがっつりと両手で握って笑顔でお願いしてくる。思わずその迫力に少し圧倒されてしまう。母性の暴力である。


「キミにも事情はあると思うが、できればレベッカを優先して構ってあげてほしい。子供もなるべく早く……」


「ち、父上っ!!」


 レベッカのお父さんにまでそう言われてしまい僕はますます恐縮する。


「まぁまぁウィンターさん。そんなに焦らなくてもいいじゃないですか。レイさん達はこれからは定期的に帰ってきてくれるそうですし……」


「う、うむ……まぁそうなんだが……」


 二人の言う通り僕とレベッカは定期的にヒストリアに戻って二人に顔を見せに来ることになっている。


 本来ならここまで来るのに船を使って一ヶ月ほど掛かる距離なのだが、ノルンと姉さんが村に滞在して色々工夫してくれたお陰だ。以前にサクラちゃんが王都からジンガさんの工房に転移魔法陣を作ってくれたように、今度は姉さんとノルンがヒストリアと王都を行き来する方法を考えてくれたのだ。


 ただし、魔法陣に定期的に魔力を注入する必要があり、距離も長いため数週間に一度が限度とのこと。ヒストリアに戻ってくる理由だが、二人の言葉を想像すればこれ以上の説明は不要だろう。つまりそういうことである。


「それでは父上、母上。わたくし、行って参ります」


「ああ、言っておいで」


「向こうに戻っても元気でね……。レイさんも、もう私達は家族なんだから、いつでも甘えに来てくれていいんですからね」


「そうだね、ラティマー。いつでも遊びに来ると良い。その時はまた一緒に飲もう」


「……はい!」


 ラティマーさんとウィンターさんにそう言われて、僕とレベッカは笑顔で頷いた。


「それでは……」


「また、帰ってきます」


 僕らはそう言ってヒストリアの皆と別れの言葉を交わすと船に戻る。すると僕達を待っていた姉さんが桟橋の方からこちらに走ってくる。


「二人とも、もうお別れは済んだの?」


「うん」


「お待たせして申し訳ございません、ベルフラウ様」


「良いのよ。それじゃあ船長さんに挨拶して出してもらいましょうか」


 そうして、僕達はヒストリアを後にした。王都に戻る最中、補給の為に以前立ち寄った村や町に寄ったりしながら僕達は帰りの船の旅を満喫する。


「楽しい旅行だったね、サクライくん」


「そうだねー」


 ルナの言葉に僕は甲板で海を眺めながら答える。


「懐かしい人にも会えたし、滅多に出来ない経験も出来たし、それに……」


「皆と、もっと仲良くなれたもんね?」


 そう言いながらルナは僕の手を握る。


「えへへ……サクライくんとキスしちゃった……私一人じゃないのが残念だったけど、お嫁さんになる夢も叶えられたし……」


「ルナ……」


「ね、サクライくん。今なら誰も居ないから……レベッカちゃんも居ないし……」


「うん?」


「もう一回、キスしよ……?」


 ルナはそう言って目を瞑る。僕は彼女の肩に手を置き、そっと顔を近付けて……。


「……」


 そこで、背後にアカメな神妙な表情でこちらを伺っていることに気付いた。


 ルナは彼女から背を向けているので気が付いていないが、ルナと向かい合っている僕はアカメと偶然目が合ってしまう。アカメはコクコクと無言で頷いて、親指をグッと立ててサムズアップする。


「……してくれないの? サクライくん」


「えっ!? いや、そんな事は……!」


「じゃあ、早くして……?」


「う……うん……」


 僕は再びルナと向き合う。が、どうしても後ろでこっちを見ているアカメが気になってしまう。


「(実妹に見られながらキスさせられるってどんな羞恥プレイ!?)」


 せめて気を遣って後ろを向いてほしい。


「(ええいっ、ままよっ!)」


 僕は覚悟を決めてルナの可愛い顔だけを視界に収めて彼女の唇に自分の唇を近付けてキスを交わす。その時、背後のアカメが今まで見た事無いような満面の笑みを浮かべていたのは一生忘れないだろう。




 ……そして、僕達が語れる話も終焉を迎える。



 ――三年後。



 魔王軍が崩壊して魔物の脅威が激減した平和となった今の世界は武器を取って戦うことは殆ど無くなった。冒険者として名を馳せていた腕自慢の戦士たちも今ではその力を平和の為に役立てる日々である。


 それは僕達も同じ。


 今、僕は魔法学校で教員として子供達に勉強を教える立場にある。


 平和になった今、子供達に魔法を学ばせる学校はこれまでとは比べ物にならないほど多く設立され、優秀な魔法使いが世に出ていく機会も増えた。それもエミリアのように戦いを専門とするものではなく、どちらかといえば魔法を使って生活を便利にするという方向にシフトしている。


 生徒達に勉強を教えるのは楽しいけど、それ以上に大変だ。


 以前、ハイネリア先生の助手をしていた時は少人数の生徒達に接するだけで良かったが今はそれの三倍以上の数を担当している。


 ハイネリア先生のサポートも無くなり、一人一人をちゃんと見てあげないといけなくなった。


 でも、決して辛くは無い。生徒達に勉強を教えていると、その生徒の中にも色んな個性を持っていてがその子達の成長を近くで見られるのがとても楽しい。


 稀にネィル君のように困った子もいるのだけど、放っておけなくて余計に構ってあげたくなるのだ。


 端的に換言すると、”生徒たちが可愛くて仕方ない”である。でも親御さんが僕に色目使ってくるのは本当に勘弁してほしい。一応既婚者なんです、僕。


 冒険者として活動していたエミリアも今では冒険者を引退し、王宮魔導士として王宮に身を置いている。主な仕事は兵士達に魔法の指南をしたり、魔法を使った道具を開発したりと持ち前の技術を存分に活かした仕事をしている。


 ルナもエミリアの助手として王宮で働いており、彼女は彼女で自身の変身能力を活かして大活躍中である。魔法の才能もぐんぐんと開花しており今では国でもエミリア・セレナに次ぐ魔法使いとして名が広まりつつある。


 以前まで王宮魔導士として働いていたウィンドさんはグラン陛下と見事にゴールインを果たした。そのグラン陛下といえば、最近副作用の若返り効果が収まってきたのか、以前の子供の姿から青年の姿がデフォになりつつある。


 実年齢はともかく、世の女性の誰もが注目する美青年の姿のグラン陛下と、見た目は絶世の美少女のウィンドさんのカップルは、国民から暖かい祝福を受けて二人は幸せな日々を送っている。ちなみに二人に年齢の話題はNGである。


 合わせて二百歳弱のカップルに年齢など無意味どころかもはや気にしても仕方ないと思うのだが。


 カレンさんも今では冒険者も引退し、騎士としても身を引いたことで、今では貴族社会で華々しく活躍している。


 フレイド伯爵家の一人娘という事でかなり話題性もあり、カレンさんの美しい容姿とお嬢様モードの時の丁寧で優しい話し方も合わさって貴族の男性からも大人気である。当然、その手の誘いもひっきりなしなのだが、既に僕と結婚しているため当然全部断っている。


 あえて公表しないのは、カレンさんを欲しがる貴族達に無駄な反感を与えない為だそうだ。


 彼女目当てで他国から訪れる貴族との社交に日々追われているらしいのだが、カレンさんは貴族としての責務を全うする為に忙しい様子だ。さらにフレイド家の名声が世界的に広まるという副産物もついているらしく、彼女はお義父さんの役に立てることが嬉しくてやりがいを感じているようだ。


 だが、そのせいで家を空けることが多くなったのが心配である。


 ちなみに、あくまで僕個人の意見だが……。


『貴族の事とかいいから、僕だけを見ていてほしい』……などという、男らしさを欠如した僕の心情はカレンさんの前では口が裂けても言えない。


 今更だが、僕はかなり嫉妬心が強くて独占欲のある性格な事を自覚し始めた。


 『ただの寂しがり屋じゃない?』とノルンに突っ込まれたりもする。


 で、今名前が出たノルンだけど、彼女もカレンさんと同様に最近は家を空けることが多くなった。


 理由は彼女の故郷であるフォレス王国で色々と問題が発生したために、その解決の為に彼女が出向いているというわけだ。


 問題と言っても以前のような物騒な話ではない。


 ノルンがフォレス国王に課題として出した他国との交流があまり上手くいってないらしく、今は彼女がその橋渡しとしてあちこちを飛び回っている。いつも眠たがりの見習い神様も今では立派な神様だ。いや、やってる事は全然神様っぽくないけど。


 たまに帰ってくると、色々と堪えているようで稀に愚痴をこぼしたりもする。


 彼女は辛いことがあっても滅多も表情に出さず、元々ダウナー系のタイプなのでこっちが理解してあげないと無理し過ぎてしまう所がある。なので、彼女が帰ってくる時は傍に居てあげるのが一番だ。


 実妹のアカメだけど、今では普通に一人で外に出歩けるようになった。


 以前までは王都の兵士達に顔を見られないよう立ち回っていたが、誰も覚えていないことが分かったので特に問題なく過ごせている。


 今、彼女は王都のとある雑貨屋でバイトして生活している。


 兄としてちょっと心配ではあるけど、『やりたいことは自分で見付ける』とアカメは言っているので今はその意思を尊重している。本当にやりたい事を見つけるまで僕はアカメを支えてあげるつもりだ。大事な妹だし、仮に見つからなくても不自由ない生活を送らせてあげるつもりだけどね。


 その事を帰ってきたカレンさんに言ったら『過保護過ぎじゃない?』と呆れられた。



 閑話休題……。



 さて、ここからが本題だ。

 最近僕達を取り巻く環境で変わった事といえば他にもある。


 まず、僕達は王都の一等地にそれなりの広さの一軒家を購入した。いつまでも陛下の善意に甘えて宿を貸し切ってもらうのもどうかと思うし、結婚生活を送る上に不便な事も多い。なので、いっその事王都に家を購入しようという話になったのだ。


 土地と一軒屋に掛かる資金はどうするという問題もあった。最初は以前魔王を倒した時に得た報酬を切り崩して、二等地の空き地を検討していたのだが、カレンさんのご両親のフレイド伯爵様が支援してくれて、伯爵様の勧めで今の場所に家を購入することが出来た。


 もう一つ決定的に変わったことがある。レベッカとの間に子供が出来た事だ。


 生まれたのは僕とアカメと同じ双子の男の子と女の子である。男の子の方は『サンドラ』、女の子の方は『フリージア』と名付けて、出産の時には皆でレベッカを励まして無事に出産出来た。


 彼女は神様化の影響で肉体の成長が止まっており、その身では妊娠の苦痛に耐えられないのではと危惧していた。


 しかし、ある日。ミリク様が僕達の元に訪れた。ミリク様は口にはしなかったが、レベッカを眷属にするつもりだったのだろう。だが僕達が結ばれた事を知ったミリク様は複雑な表情を浮かべていたが、最後には祝福してくれた。


 その日以降、彼女の肉体の成長が再開したようで、今では人間らしい成長を遂げている。


 サンドラもフリージアももうすぐ生まれて半年経つ。


 僕とレベッカが忙しい時は、皆が二人のお世話をしてくれていて、皆にもすっかり懐いている。二人をヒストリアに連れて行った時は、レベッカの両親の二人は大喜びで二人を可愛がってくれた。


 しかし、子供を出産した後は色々と大変だった。


 忘れちゃいけないのは僕達全員が『家族』であることで、僕はレベッカ以外にも複数の女性と結婚をしている。それまでの経緯もあって皆、レベッカに遠慮していた所があったが、彼女が無事に出産したことで皆、遠慮が無くなった。


 僕の居ないところで皆は『今日は誰が僕の奥さんになるか』という話題を繰り広げているとか。特に休みの日は皆が僕を取り合っている雰囲気があって、微妙に休まらない事があったりする。夜に至ってはヤバい。色んな意味で。


 特に姉さんに関しては……。


「レイくん一緒にお風呂入ろ!?」


「お姉ちゃん眠れないの……レイくんが添い寝してくれると嬉しいな~」


「ねぇねぇ、お姉ちゃんも最近身体が成長するようになって胸が前よりも大きくなって苦しいの。レイくん、調べてみてくれない……?」


「ねぇねぇ、お姉ちゃん新しい下着が欲しいの。一緒に選んでくれないかな……?」


「最近、ラマーズ呼吸法ってのを試してるの。近いうちにきっと必要になるから……きゃっ、恥ずかしい~♪」


「私、レイくんと子作りしたいなぁ」


 ……と、こんな感じでとにかく甘えてくる。


 最後に至っては火の玉ストレート過ぎる。


 軽く流したが、姉さんもフローネ様の力によって完全な人間に戻ったことで肉体が成長する様になった。よって今の姉さんは自称年齢20歳である。それでも僕より年下を公言しているので、嘘ついてるのがバレバレである。


 いつか実年齢を明かさないといけない時がくるだろうなぁ。その時は皆の協力を要請しないとね。


 ま、こういう感じで僕達は幸せな日々を送っている。仕事は大変だし大家族だから色々とハプニングもあるけど、これが僕の日常である。




「ねぇ、レイくん。お姉ちゃん幸せだよ」



 姉さんはいつもそう言ってくれる。



 異世界に彼女と二人で飛んで、苦労も沢山あったけどずっと支えてくれた。



 今では大切な人が沢山出来て、かけがえない妹と出会えて、こんな綺麗なお嫁さん達と毎日を過ごしていく。



 そして、こんな優しくて甘えん坊でちょっとポンコツで可愛い人と一緒の日々を送れて、僕は――



「僕も幸せだよ、姉さん」




 僕は、この誰よりも愛おしい女神様といっしょに――



 ――I hope he and they are happy――

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