第965話 どっち似?
その後、他の皆の自己紹介も終えた僕達。
「うむ、こうして皆が自己紹介してくれたところで……」
ウィンターさんが何か言い掛けようとするのだが、それとほぼ同時に神殿内に鐘の音が響き渡る。
「鐘の音?」
僕らは鳴り響く鐘の音に気を取られていると、ウィンターさんとラティマーさんは残念そうな表情で互いの顔を見合わせる。
「レイ殿。それに皆さん。申し訳無いのだが、私とラティマーはこれで一旦失礼させて頂きます。実はこの後も仕事がまだ残っておりまして……」
「レイさん達にはこの神殿を自由に見学できるように周りに言っておきます。レベッカ、構いませんね?」
「はい、母上」
レベッカは二人の言葉に頷く。
彼女の返事を聞いたところで、二人は笑顔で頷いて席を立つ。
慌てて僕達も席を立って部屋を出ようとするのだが、二人はそれを手で制して言った。
「皆さんはレベッカの恩人であり、私たちにとって大切な客人でもあります」
「ゆっくりおくつろぎください。もし何かあれば他の者に申し付けてください」
二人はそう言って頭を下げる。
「レベッカ、皆さんを丁寧にもてなすんだぞ?」
「はい」
「皆さん、夕食の時間になったらまたお会いしましょう」
「それでは失礼致します。レイ殿」
そう言ってウィンターさんは僕の名前を呼んで僕に自身の手を差し出す。握手を求められていると思い、僕は「はい」と返事を返してその手を握り返す。
「レイ殿、今日の晩酌を楽しみにしています」
「ぼ、僕も楽しみです。是非色々お話しましょう」
僕がそう答えると今度はラティマーさんが言った。
「是非、レベッカとの思い出を聞かせてくださいね。娘との邂逅の話は特に興味があるの」
「僕に答えられる範囲ならなんでも……」
ウィンターさんとラティマーさんは僕達にニコリと微笑みかけて、部屋を後にした。
二人が部屋から出てから少し経った後……。
カレンさんはホッとした表情で言った。
「レイ君、随分とお二人に気に入られたようね」
「え、そうかな?」
カレンさんの言葉に僕は首を傾げる。
「ええ、だってウィンターさんは真面目な顔でレイ君に握手を求めてきたし、ラティマーさんもずっと貴方に微笑みかけてたもの」
「でも僕は気に入られるような事を何もしてないような……?」
今の所、二人と挨拶をしたくらいだ。それも立派に立ち回れたわけでもなく、緊張で頭が真っ白になっていたから正直何を喋ったのかあまり覚えてない。
「そんな事はございませんよ、レイ様」
「え?」
「父上、あれで結構気難しいところがございまして。 随分と前に訪れた客人が父上に向かって不用意な発言をした事がありまして。父上は激怒したのはいいのですが、怒りすぎてその客人が失禁して失神してしまったのです」
「とてもそんな人には見えなかったんだけど……」
「父上、礼儀を欠いた方や悪人にはとても厳しい方で、烈火の如く怒りを表すのです。しかし、その反面……心を許した相手にはとことん甘いのです」
「……そう聞くと、レベッカとよく似てますね」
エミリアはポツリと語る。レベッカはキョトンとした表情を浮かべる。
「そんなに似てますでしょうか、エミリア様」
「レベッカも相手の態度によっては厳しい態度を取る事ありますし」
「反面、レイくんや私たちには甘々よね」
「言われてみれば、たまにそういう所あるわね」
「……自分で意識したことはございませんが、そうかも知れません」
アカメの言葉にレベッカは納得した表情を見せる。
「でもウィンターさんはすごく良い人だと思うな。レベッカの事を凄く優しい目で見てたし、悪い人に対して厳しい態度ってのも家族を想っての事じゃない?」
「その辺、情愛が強いレベッカに似てますね。レベッカの口調が硬いのもお父さん似ですかね?」
「笑顔を絶やさないのと、外見はラティマーさん似だと思うけどね。レベッカが大人に成長したらあんな感じになるのかなぁ……」
「……お兄ちゃん、ラティマーさんを見て顔を赤らめてた」
「そ、それはレベッカが大人になったら……って話でさ……」
アカメの言葉に僕は慌てて弁解する。そんな僕達の会話を余所に、カレンさんと姉さんはラティマーさんについて語り合っていた。
「ラティマーさんって凄く綺麗な方ですよね」
「ええ、とても美しい女性よね」
「レベッカちゃんを産んでいるって事は相応の年齢の筈なのに、全然若く見えますね。もしかして見た目を気にするお手入れとかしているのかしら?」
「そんな方法あったら私も教えて欲しいわ。もしかして、この村に何か秘密が?」
「浮島から流れている聖水とかに秘密があるのかも……あれで化粧水を作れば」
「カレンさん、後であの聖水を浴びに行きましょう」
「いえ、私の思い付きを本気にしないでください。っていうか湖に落ちてまだ水浴びするつもりなんですか……」
二人はラティマーさんの容姿をベタ褒めする。確かに、ラティマーさんは二十代と言われても違和感ないくらい若く見える。
「ね、サクライくん。折角見学してもいいって言われてるんだし、そろそろ行かない?」
「……私も、この神殿にちょっと興味あるわ」
ルナとノルンはそう言って扉の前に立っていた。
「分かった。じゃあそろそろ部屋を出よう」
僕は二人の提案を了承する。そして皆で部屋を出て神殿の中を見学するのだった。
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