第811話 出張勇者
【視点:レイ】
レイ達は先行したエミリア達を援護するため、竜化したルナの背中に乗って空を飛んで彼女達を探していた。
「この辺りの魔物はエミリアちゃん達が蹴散らしちゃったのかしら」
「でも遠くまで行きすぎだよ……レベッカ、エミリア達の姿見える?」
僕は自分の背中の後ろにしがみ付いているレベッカに声を掛ける。レベッカは、僕の真横に首だけ出してルナが飛んでいる先をじっと眺める。視力が飛び抜けて高いレベッカであれば、数キロ先のエミリア達の姿を捉えることも可能なはずだ。
「……ふむ、周囲の魔物達や他の冒険者様達も飛行魔法で戦場を駆けていらっしゃるので少々状況が見えにくいですが……」
目を細めながらレベッカはスッと二時の方向を指差す。
「ルナ様、あちらの方角に向かってくださいまし」
『りょうかーい』
そして、ルナにそう言うと彼女はその方角に向かってスピードを上げて飛行を再開する。僕もルナの首に後ろから手を回して落ちないように抱き着く。
「む……レイ様、そんなに抱きしめるようにルナ様の首元に抱き付かなくても、落ちたりすることは無いかとレベッカは考えます」
「え、いや、でもこの速度だよ? 下手に僕が腕を緩めちゃうと、僕にしがみ付いてるレベッカとその後ろのサクラちゃんまで落っこちちゃうじゃん……ねぇ、ルナ?」
『あうあう……サクライくんに抱きしめられて緊張しちゃうう……!!』
ルナが変なこと言ってる気がするけど、今はそんな場合じゃない。
「ルナさんはドラゴンになってもルナさんなんですねー♪」
『あぅ……揶揄わないで、サクラちゃん……』
ドラゴンの咆哮っぽい声も時々出すけど、ドラゴン化したルナの声は人間の時と一緒だ。そのお陰で以前と違って皆にもちゃんと声が届く。
だが、以前と比べてちょっとした言葉で随分反応をしてくれるようになったのは一長一短かもしれない。
こうやってサクラちゃんに揶揄われただけでルナは動揺して飛び方がフラフラと乱れ始めた。
「ちょっ、ルナ、落ち着いて!」
『お、落ち着く……だからサクライくん、そんなに強く私を抱きしめないで』
「原因、僕だったのか……。流石に危ないからそれは許してほしいな……。それよりもレベッカが指差した方向にちゃんと進んでね」
『わ、分かってるよ………あれ? なんか、慌てた表情で何人かこっちに戻ってくるんだけど?』
ルナにそう言われて、風に煽られないよう注意ながら僕も目の前の大空を注視する。
「……確かに、何人かが魔導船の方に戻ろうとしてるね」
「レイさん、もしかしてあの人達、クロードさんの部下の人達なんじゃ……?」
「……本当だ。確かにそれっぽい恰好してる」
「でもあんな急いで……何かあったのかしら……? すみませーん!!」
何か嫌な予感がしたのか姉さんが彼らに聞こえる様に大声で声を掛ける。すると、一人がこちらに気付いたのか飛行速度を落として足を止める。
「……! キミ達は……って、ドラゴン!?」
「ま、まさかドラゴン使いだったのか……!!」
「あー、いや、そういうわけじゃないんですが……」
彼らは姉さんの言う通りクロードさんの部下達の人だった。
だが、ルナの背に乗っていて空を駆けている僕達を見て何か誤解をしているようだ。
「そんな事より、何かあったんですか?」
「そ、そうなんだよ。さっきまで、我らは破竹の勢いで魔物達を殲滅していたのだが……」
「途中、とんでもなく強い魔物に遭遇してしまって……」
「!!」
その言葉に、僕達は身を硬くするが……。
「だが、危うく殺されそうになったところをキミ達の仲間に救われてな……」
「エミリア達に!?」
「ここからの魔物は我らだけでは無理だと考えて一旦クロード様に現状報告をするために魔導船に帰還しようと考えた。もしキミ達も彼女達を追うのなら気をつけたまえ」
「……ちなみに、足手まといだから帰れと言われたわけではないぞ。あくまで我らの判断で戻ってきただけだ。クロード様におかしなこと言わないでくれよ」
「……わかりました」
姉さんは頷くと、こちらをチラ見して溜息を吐く。多分、二人に足手まといだと言われたんだろうなぁ。
「しかし……随分派手にやられたみたいですね……」
「うっ……」
姉さんが指摘した通り、彼らは服装も焦げていてボロボロで、多少怪我も負っているようだ。
「四賢者の直属の部下ということは、あなた達は相当強いんですよね。その魔物、相当手強かったんでしょうね」
「ま、まぁそういう事だ……! では、我らは報告があるので……!」
そう言うと、彼らは再び魔導船の方へと羽ばたいていった。
「あの人達がどの程度の強いのか分からないけど、一応警戒して進みましょうか」
「うん、エミリア達が心配だしね」
僕達は、まだ見ぬ強敵を警戒してエミリア達を追うのだった。
それから数分後―――
「あ、見つけました!」
レベッカが遠目で彼女達の姿を捉え、僕達はすぐさま向かう。どうやら彼女達は最前線で魔物達の群れと戦っているようで、遠目で凄まじい魔力の奔流や魔法が炸裂しているのが見える。
「流石にあの数が相手だと不味いね」
「ええ、助けに入りましょう」
僕の言葉にレベッカは頷き、限定転移でで弓と矢を取り出して、サクラちゃんに身体を支えて貰って身を乗り出して構える。
「……はっ!!」
レベッカの矢が魔物達の頭上を飛び越して、最前線で戦うエミリア達の元へ降り注ぐ。そして、彼女達を取り囲む魔物達のみに矢を当てて一部の敵を倒して敵の囲いを崩して、そのままルナに突っ込むように指示する。
「サクラちゃん、僕達も攻勢に出るよ!」
「待ってました!」
僕の指示に明るい声で応えるサクラちゃん。僕とサクラちゃんは得意な雷と風の魔法を使用しながらエミリア達の援護をし始める。
「ミリーちゃん、義弟くん達が助けに来たわよ!」
「弟じゃないですよ! ……ようやく助けに来てくれましたか、いい加減逃げようかなと思ってたところですよ」
僕達の姿を見て気が緩んだのか、エミリア達はこちらを見て手を振ってから上空に大きく飛び上がる。そして――――
「全部吹っ飛べ!!」
エミリアの魔力が膨れ上がり、彼女が手に持ったロッドを思い切り振り上げると、そこからスパークが迸る球体を複数出現させ、魔物達に飛ばす。すると、魔物達に直撃する寸前に、球体がひと際膨れ上がって大爆発を引き起こす。
「セレナ姉、今の間に引き上げますよ!」
「そうね、そろそろ帰りましょうか!」
更にセレナさんが追撃とばかりに雷を落とす。そして、二人はこちらに向かってくるとルナの身体に触れる。
「ルナ、良くここまで来てくれましたね」
『頑張ったよ、エミリアちゃん』
「ミリーちゃん話は後よ。義弟くん、一旦ここを離れて魔導船に戻りましょう」
「ちょっと厄介そうな奴が現れまして……いったん立て直した方がいいです」
「うん、分かった」
二人の言葉に頷くと、僕達はひとまずこの場から離脱するために飛び上がる。そして、エミリア達と一緒に戦闘空域を離脱して帰路に着いた。
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