第535話 学校6
そして、次の授業にて―――
「えー、次はエミリア先生による魔法の座学の授業の予定だったのですが―――」
ハイネリア先生が教卓に立ち、事情の説明を行う。
「少々、事情がありまして……。
エミリア先生の代わりにレイ先生が代行することになりました。
それではレイ先生、お願いしますね」
「は、はい……ハイネリア先生」
僕は緊張した面持ちでハイネリア先生に代わって教卓の前に立つ。
「(ま、まさか、こんなに早く授業をする羽目になるなんて……!!)」
予定では僕は座学の授業の合間に、
たまに実技的な授業や実践的な授業をやる程度だったのに……。
しかし、これも先生として必要な事だと自分に言い聞かせる。それに、こういう経験を積み重ねていく事で、いつか本当の意味で『勇者』として誇れる自分になれるはず……多分。
「(よし……!!)」
僕は覚悟を決めて、子供達に向かって声を出す。
「……ええと、こんにちは皆さん。
今回はエミリア先生の代理として、魔法の授業を始めたいと思います」
「わーー♪」
「がんばって、レイお兄さん……じゃなかった、レイ先生」
「がん……ばれ、先生」
僕は話すと左前の席に座っているリリエル、コレット、メアリーの三人が楽しそうな声で応援してくれた。この三人は特別新生学部以前からの知り合いだ。
元々懐いてくれてたけど、こういう反応をしてくれるのは嬉しい。
だけど、意外にも他の子供達たちから声が掛かった。
「頑張ってください、先生」
「期待してます!」
「……期待はしてないけど、一応授業は受けてやる」
「先生、お願いします」
前者二人はリリエルちゃん達以外の女の子二人。
後半の二人は、フゥリ君とルウ君だ。
「(あ、あれ……意外と、好感触?)」
正直、僕自身も不安だし、ハイネリア先生と違って、僕みたいな奴が先生と聞いてガッカリされてそうと思ってたんだけど……。
◆◆◆
レイが自身に対する子供達の評価が案外低くない事に困惑してた時、教室の後ろで彼の授業を見守っていたハイネリア先生はこう思っていた。
「(……さっきのフゥリ君達の説得が効いたのでしょうね)」
彼はイジメが起きてる事を把握して教室の窓から躊躇なく飛び降りた。そして、私が向かうより真っ先にルウ君を庇った。彼自身は特に何とも思ってないだろうけど、この教室は二階だ。当然だけど、よっぽど身体能力が高いか慎重に降りない限り大怪我してしまう。
女の子達からすれば、それがカッコいいという印象を抱かせたのだろう。
たとえ幼くても女性なら、頼りになる殿方には惹かれるというものだ。
「(それに、マーン兄弟への説教も良かったですね……)」
フゥリ君は、決して素直じゃないけど、
彼から言われた事をしっかりと受け止めているようだった。
それに、ルウ君にちゃんと謝らせてたのも良い傾向だ。
ネィル君に関しては説得に成功したとは言い難いけど、あの子に関して言えば、私でも更生させるのは難しいくらいの問題児だ。それを彼は一切手を出さずにマーン家の権力に怯むことなく、ネィル君の歪みを指摘した。
「(先生としての実力はまだ未知数ですが……少なくとも、子供達からの信用を得るのは問題なさそうですね)」
私はそう思いながら、彼の行う授業に耳を傾けていた。
◆◆◆
「ええと、それじゃあまず魔法の最も基礎の内容の解説を行うね」
僕はそう言いながら、用意された黒板にチョークで文字を書いていく。
「まず、魔法とは―――」
僕は説明しながら、先日、エミリアに聞いたことを思い出す。
『まず魔法とは、誰もが持つ【マナ】という物質を形に変えたものです。【マナ】は生きとし生けるもの全ての生物、そして世界中に目には見えませんが溢れています。
この世界に存在するすべての生き物が、【マナ】によって生命活動を維持していると言って良いでしょう。魔法とは、いわばその生命エネルギーを変換して放つ特殊な技術です。』
僕は魔法関連の問題が軒並み壊滅状態だったため、エミリアに先日時間を掛けて教わった。僕は彼女に教わったことを、黒板に書いていく。
「補足すると、マナは魔法として使用する前に【魔力】として変換して使用する。魔力というのは魔法を使うための燃料と言えばいいかな。
自身に最適化することで効率的な魔法を使えるようになる。変換の仕方はとても簡単で、何度か魔法の使用を繰り返すことで無意識的に出来るようになるよ。
そして、【マナ】→【魔力】→【魔法】という工程を辿ることで、超常的な現象を引き起こす【魔法】として外部への放出が可能になるんだ……と、ここまでは分かるかな?」
僕はそこで一旦区切って、子供達の様子を見る。
子供達は、必死に自分で用意したノートに僕の解説を書き記している。
中には「うん、うん」と頷いて頭の中で整理している覚えの良い子いるようだ。
「(みんな真面目に聞いてるなぁ……)」
僕が学校に行ってた頃、先生の説明なんて全く聞かずに遊んでいるような子も居たんだけど、この子達はすごく真面目だ。
僕は一通り黒板に書き終えると、子供達がノートに写し終えるのを待つ。
そして、全員が終えた事を確認してから、次の説明に入る。
「魔法には属性があるのは知っての通りだと思う。
火・氷・風・雷といった、
よっぽど稀有な才能が無い限り、殆どの魔法使いは【自然干渉魔法】の四属性を基礎とする魔法を使用することになる」
僕は、説明しながらそれを黒板に書き写していく。
「はーい、レイ先生、質問でーす」
すると、一人の女の子が手を挙げて僕に質問してくる。
この、サラサラした黄緑色の長髪の女の子は確か―――
「ん、何かな……セラさん?」
そう、セラ・シルフィリアさんだ。彼女はこの新生学部の子供達の中では、一番見た目が大人びていて、テストの成績も一番良かった子だ。
「先生は、何の属性の魔法が使えるんですか?」
「僕が使えるのは、今言った【自然干渉魔法】の四属性、それに加えて【回復魔法】だよ」
回復魔法とは、属性魔法とは別種のカテゴリに分類される魔法だ。
最も近しいのは光属性の魔法で【回復魔法】と【光属性】は、揃えて習得している人が多い。とはいっても、僕のように【回復魔法】だけ習得して【光属性】が全く使えないケースもある。
「回復魔法っていうと、やっぱり怪我を治したりとか?」
「そうだね、簡単な怪我の治癒、体力の回復、毒などの治療、汎用性は高いよ」
「なら、回復魔法が使えたら病院は行かなくて良いんですか?」
「……うーん、そうとも限らないんだけどね」
「どういうことですか?」
「人間の身体って成長するたびに体の組織を何度も作り変えていくわけだけど、回復魔法を使っちゃうと成長を妨げてしまう可能性があるんだ」
「えーっと……つまり?」
「簡単に言えば、回復魔法を使い続けると肉体が貧弱になってしまうんだよ。例えば、骨折した時とかに病院に行ってギブスなどで固定して時間を掛けて治療すると、骨が以前よりも頑丈になる。
だけど回復魔法を使った場合、使用者の熟練度によっては、脆い状態で復元してしまう可能性がある。だから、普通に病院で診察を受けて適切な処置を受けた方が、結果的に丈夫な体のまま生きられる場合が多いんだよ」
「へぇ~……」
「まあ、回復魔法は瞬時に治せるから便利だけどね。
小さな怪我を治すのに魔法に頼りすぎるのは、自身の成長を阻害してしまうから控えた方がいいかもしれない。勿論、命が掛かってる状態なら、僕は回復魔法を使う事を推奨するよ」
僕はそこまで解説して、回復魔法の説明を終える。
「で、ちょっと脱線しちゃったけど、回復魔法や属性魔法よりも優先して覚えなきゃならない魔法が存在する。……教科書にも載ってるとは思うけど、分かる人は居るかな?」
僕はそう言って、子供達の顔を眺める。
しかし、男の子達は僕が視線を合わせると目を背ける。
当てられるのを嫌がってるのかな?
女の子達は、僕が視線を合わせると、何故か目を輝かせるけど……。
その割には挙手はしてくれないっていうね。
僕が諦めて自分で言おうとした瞬間に、一人の女の子が挙手した。
「……ん、分かった……です」
挙手してくれたのは、左の後ろの席に座っていたメアリーちゃんだった。
「助かった、じゃあメアリーちゃん、答えてくれる?」
「……自然干渉魔法よりも更に基礎の魔法、つまり【初歩魔法】……です」
メアリーちゃんの答えを聞いた僕は、満面の笑みで「正解!」と言った。
「そう、メアリーちゃんの言う通りだよ。初歩魔法、別名だと生活魔法なんて呼ばれたりする魔法体系だね。
これを習得することで、さっき例に出した自然干渉魔法や回復魔法などを習得できるようになる。逆に言えば、初歩魔法を覚えない限り、上位の魔法はほぼ習得出来ないと考えていい」
僕はそう言いながら、黒板に【初歩魔法】と書いた。
「それじゃあ、まずはどんな魔法があるのかを説明をするね。
この授業では、全員、初歩魔法を一つ習得するのが目標だよ、頑張ろうね」
僕はそう言って、更に書き記していく。
初歩魔法は全部で四つ。
攻撃魔法の基本と言われる【
属性魔法の初歩として扱われている【
回復魔法習得の第一歩となる【
そして、ほぼ全ての魔法の根幹となる【
この四つ合わせて【初歩魔法】と呼ばれ、この初歩魔法といくつかの上位魔法を習得しない限り、魔法学校を卒業することは出来ないとエミリアは言っていた。
「さて、それじゃあ早速始めようか。さっき言ったように、今日はこの初歩魔法のどれかを習得するのが目標だ。みんな、頑張っていこうね」
僕がそういうと、「「「はーい」」」という元気の良い返事が返ってきた。
「それじゃあ、解説と同時に初歩魔法の実演をするよ。
となると、教室の中では出来ないから、みんなも校舎の外に出てくれる?」
僕はそう言いながら、教室の窓を開ける。
「え、先生、何処に?」
「どこにって、外に出るんだけど」
僕は答えながら窓に手を掛けて、窓から外に飛び降りる。
正直、この高さなら階段を降りて校舎を出るよりずっと早い。
「ええー……」
「先生……かっこいい……♪」
「いや……実は、非常識なだけなんじゃ……」
その様子を冷静に見えていたハイネリア先生は思った。
「……子供が真似したらどうするんですか、レイ先生……」……と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます