第456話 もう一人のお姉ちゃん

 グラン陛下との謁見を終えた僕達は、

 王城を出て仲間達が待っている宿へ向かっていた。


 しかし、途中でサクラちゃんが僕の肩を叩いて言った。


「レイさん、レイさん。ちょっと寄りたい場所があるんですけど……」

「?」


 サクラちゃんの寄りたい場所とは王都にある病院だった。

 理由は今も入院しているカレンさんに面会するためだ。


 僕達は受付を済ませてカレンさんの眠っている病室に向かう。カレンさんの部屋は病院の5階の個室。彼女は自由騎士団の副団長という事で、陛下が特別に部屋を用意してくれたらしい。


 扉を開けると、寝姿でベッドで横たわるカレンさんと、

 カレンさんのベッドの隣に置かれている椅子に座る女性の姿があった。


 カレンさんのお付きのリーサさんだった。 

 リーサさんはこちらに気付き、椅子から立ちあがり僕達の方を振り向く。


「……あ、レイ様。それに、サクラ様も、……ご無沙汰しております」

 そう言って、深々とこちらに頭を下げる。


「リーサさん、ただいまです」

 僕がそう声を掛けると、リーサさんは頭をあげて微笑む。


 リーサさんはカレンさんが怪我で伏せてから病室でお世話をしてくれている。


 リーサさんは、カレンさんが幼い頃、彼女の両親に拾われて以来ずっと仕えてきた。二人にとって家族同然のような存在であり、きっと僕達よりも辛いはずだ。


 サクラちゃんは言った。


「リーサさん、お元気でしたか?」


「これはこれは、サクラ様、お嬢様のお見舞いに来てくださったのですか?」


「えへへ、はい」


「いつもカレンお嬢様と仲良くして頂きありがとうございます」


「そんな……わたしも、先輩にはたっくさんお世話になってますから……」


 丁寧な口調のリーサさんにサクラちゃんは笑いながら話す。サクラちゃんとリーサさんは僕達よりもずっと以前から交流があったらしい。カレンさん遠出する時はリーサさんが付き添うことが多いそうで、その時にサクラちゃんとも知り合ったと聞いた。


 僕はリーサさんに質問する。

「それで、カレンさんの様子はどうですか?」


「今のところ……カレンお嬢様が目を醒ます様子はありませんわ……。

 ですが、たま寝言を仰るのです。きっと、幼少の頃の夢を見ているのでしょう。

 お母様、お父様……と、時々呟いている時もあります」


 リーサさんはそれを微笑みながら語る。彼女の心情はきっと辛いだろうに、それでも僕達の前では最初の時以外は決して悲しい表情を見せることがない。この人は、僕と違って強い心の人だ。


「……」


 僕は何も言わずに黙り込む。

 早くカレンさんを助けて、この人を安心させてあげないと……。

 そう思い、僕は拳を握りしめる。


 サクラちゃんはカレンさんの隣に座ってカレンさんの手を握っている。

 彼女も気丈に振る舞ってるけど、大好きな先輩がこの状態で不安なはず。


 そう思い、僕は彼女の様子を見る。

 サクラちゃんはカレンさんの隣で座って楽しそうにしていた。


「先輩、こうしてると可愛いですねぇ」

 サクラちゃんは眠っているカレンさんのほっぺたをツンツン弄って遊んでる。


「レイさんもどうです? 今なら好き放題できますよ♪」

 サクラちゃんは、にへらっと緩んだ表情でこっちを見て誘惑する。


「え、遠慮しとく……」

 思わず食指が伸びそうになったけど、流石に紳士としてよろしくない。

 ああいう事が出来るのは女の子同士の特権だ。

 ……羨ましい。


「せ・ん・ぱ・い♪ ……もう少しの辛抱ですよ。

 もう少ししたら、わたし達が薬を持ってきますからね……だから、今は休んでてください……♪」


 サクラちゃんは、カレンさんの綺麗な青い髪を手で優しく撫でる。

 そして、優しい声で囁いた。


 ◆


 しばらくすると、僕達はリーサさんに別れを告げて病院を出た。

 病院を出ると、外は既に夕方になっていた。僕達は宿に向かって歩いていく。

 しかし、途中でサクラちゃんが言った。


「わたし、先輩の家に向かいますね。

 先輩が病院から戻ってきた時の為に、お掃除してあげなきゃ」

 サクラちゃんはそう言いながら、両手で箒を持っているかのように動かす。


「手伝いは要らない?」

「大丈夫ですよ、先輩の家の事は分かってますから♪」

 そして、サクラちゃんは「それじゃ、また明日♪」と言いながら駆けていった。


 ◆


「ただいまー」

「あ、レイくん、おかえりー」


 僕が宿の一室に戻ると、姉さん達が部屋で待っていた。

 姉さん以外にもレベッカとエミリアも集まっており、三人で話をしていたようだ。


 レベッカは、僕の方を見て微笑みながら言った。


「レイ様、お帰りなさいませ。

 ご飯になさいますか? いえ、お風呂でしょうか? それとも……」


「……レベッカ、以前から聞きたかったのですが、その口上、何処で覚えたのですか?」


 エミリアはレベッカの発言に呆れながら言う。


「わたくしが時々読んでいる本に書かれておりましたよ。

【殿方を射止める三十のマル秘テクニック~中編~】という本でございます」


「……あなたという人は」


 そう言って、頭を抱えるエミリア。

 そんな二人を気にせず、僕は鞄を下ろしてベッドの上に座った。


「それで集まって、何の話をしてたの?」


「明日の予定だよ。調合する薬にまだ足りない材料がいくつかあって、明日にでも取りに行こうかなって」


「で、私が二人にその材料の説明をしてたんですよ」


 なるほど、僕が王宮に行ってる間に話を進めていたんだね。


「レイ様の方は如何でしたか?

 国王陛下と謁見しに行ったと聞いております。何か新しい情報は?」


「んー、新情報とかは特には……。

 基地で救助した人達をしばらく王都で保護することになったよ。準備が整い次第、船で故郷に送る予定。それまでは王都の施設で共同生活してもらうんだってさ。

 ……あと、例のお爺さんの話くらいかな。そっちはまだ何とも言えない」


「そうですか……」

 僕はレベッカにそう答えると、彼女は少し考え込む。


「どうも、陛下はあのお爺さんに心当たりがあるみたいだよ」


「ふむ……という事は、あのご老体、やはり王都に関わりのある人物だったのでしょうか?」


「分かんない。体調が戻り次第、陛下直々にお爺さんと話をしたいって……」


「……」

 僕とレベッカの話をレベッカの隣で聞いていたエミリアは無言になる。


「エミリア、もしかして何か心当たりあったりする?」


「……いえ、確証が無いので言いたくないです」


「それ、言いだした時は全部手遅れ、みたいなオチになったりしない?」


「さ、流石に何か起こるとは思いませんが……」


 そう言いながらも、エミリアは冷や汗を流している。


「レイ様、無理強いはよろしくありません」


「分かったよ、今はその話は止めとく」


 エミリアが言えないって事は、本当に確証が無いのだろう。


「ええと、話が逸れたので、さっきの話の続きです。

 明日、素材集めに出掛けたいのですが……。レイ、都合は付きますか?」

「んー、どうだろう……」


 今は一応自由騎士団所属の騎士扱いだ。

 以前のように自由に冒険が出来なくなっている。

 同じくサクラちゃんも僕と同じく騎士団所属な為、あまり自由が利かない。


「……もし、都合が付かないから私達だけで行くつもりでいますけど……」


「どれくらい時間が掛かる?」


 エミリアは「うーん」と唸って、「およそ一日近くは掛かるかと」と答える。


「馬車で片道三時間くらいはかかるのよね?」


「往復すると七時間は掛かりますね。

 東の森で採取をしたいのですが、住み着いてる魔物が結構凶暴らしくて、

 本当のところはレイやサクラの力を借りたいところです」


「魔物退治ってわけじゃないんだよね?

 採取アイテムだけ必要って事なら、道具屋とかで売ってないの?」


 僕がそう質問すると、姉さんが代わりに答えた。


「私もエミリアちゃんに言われて買い出しに行ったんだけど、どれも結構なレア素材らしくて、いくつかは買い取ったけど足りない分は自分達で取りに行かないといけないの」


「あぁ、なるほど」

 姉さんの言葉を聞いて納得する。


「そういうことなら、明日王宮に行った時に許可を貰いに行くよ」


「お願いします。出来れば、サクラにも声を掛けてください。

 戦力としても大事ですが、彼女はカレンの為に手伝いたいと言ってましたし」


「分かった、それじゃあ今日はもう休もうか」 


 僕達は夕食を簡単に済ませて、

 その後、旅の疲れを癒すためにすぐにベッドに横になった。

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