第406話 戦いの終局
【視点:レイ】
ボク、レイは魔軍将ロドクと一騎打ちをしていたのだけど、
相手のあまりの強さに勝てないと感じ始め、全力で逃走を図る。
しかし、途中で王都の方で異常事態が起こる。
一度倒したはずの巨大な魔物が復活したのだ。
様子は気になるけど、こちらも逃げるのに限界が来て、
今度はなんとか時間を稼いでいると、何とか救援が間に合った。
「ナイスタイミングだよ、カエデ」
『良かったー、間に合ったみたいだね!!』
カエデは、そう言いながらドラゴンの喉をゴロゴロ鳴らして大きな頭をボクに擦り付ける。ドラゴンなんだよね?猫じゃないんだよね?
「すぐに来てくれて助かったよ。もうちょっと遅かったら危なかったかも」
『桜井君も無事で良かったー!!
ごめんね、本当はすぐに助けに行きたかったんだけど、王都の方でも色々あって……』
カエデは、少し落ち込んだ?ような表情をして、翼をパタつかせる。
「大丈夫だよ。それに、ボクが頼んだことだから。
王都の方の話もちょっと聞きたいことがあるんだけど、まずは―――」
ボクは、ロドクが吹き飛んだ方向を睨む。
「あいつをどうにかしないと」
『そっか、じゃあ早く終わらせて、ゆっくり話そう!』
「うん、お願い!」
『任せて! カエデちゃん、がんばっちゃうぞ!』
カエデは、やる気を出して羽ばたいて空に舞い上がり、倒れたままのロドクに向かって再び雷のブレスで攻撃を行う。
しかし、ロドクが持っていた杖が勝手に空に浮き上がり、杖から黒い霧が噴出して、カエデのブレス攻撃を相殺し、ロドク本体を守る。
『―――おお、危ない、危ない……。またもや不意打ちでやられるところだったわ』
腕を失ったロドクは自力で立てないのか、
<飛翔>の魔法で身体を浮き上がらせこちらに向き直る。
「(……本当にしぶとい)」
今のカエデの攻撃も、ボクの背後からの奇襲も、普通なら確実に仕留められる一撃だった。これだけの攻撃を受けて、身体を何度も消失させたにも関わらず、奴はまだ生きている。
「(まるで不死身の敵を相手にしている気分だ)」
カエデならあるいは……と思ったのだけど、
どうやら究極破壊光線を撃った直後な為、出力が落ちているようだ。先程からカエデは遠距離から雷のブレス攻撃を繰り返しているのだが、その悉くをロドクは防いでいる。
なら、ボクが直接―――
ボクは遠ざかって奴の死角まで音を立てずに動き、再び聖剣を構える。
「(―――よし!)」
そして、奴に斬り掛かろうとした瞬間に、ロドクの姿が搔き消える。
「!?」
『えっ? 消えた!?』
一瞬、視界から消え去り、カエデは困惑して攻撃を中断してしまう。
しかし、前方の奴の杖は目の前に浮いて残ったままだ。
「(これは……!!)」
ボクは、自身が知る限りの魔法や技能と照らし合わせて、ロドクが何をやったのか推測する。
空間転移……いや、違う。
その割には魔力の予兆が弱かった。何より、杖が残ったままなのが不自然過ぎる。空間転移なら杖を操る魔法を持続させる意味がない。
なら、初速などの技能で物理的に移動して速度を上げた?
違う。今まで戦った感じだと、奴の身体能力は大して高くはない。例え強化魔法などを使ったとしても、瞬時に消えるほどのスピードは出せない。
だとするなら、奴は一体何を……。
そこまで考えて、ある魔法の存在に思い当たる。
「―――分かった。
『正解だ』
叫ぶと同時に、ロドクの声が後ろから聞こえる。
ボクは即座に振り向いたがそこには誰もいない。
だが、気配は感じる。
聖剣を構えて、ボクは奴の気配を感じる場所に飛び掛かる。その瞬間、奴は姿を現し、ボクの一撃を飛翔の魔法で後ろに大きく飛んで回避し、ボクの剣は空を切る。
「避けられたか……!!」
『カカカ……しかし、短時間で我の魔法を見抜くとは……。
貴様の言う通り、今の魔法は
「そんなことだろうとは思ったよ」
あのタイミングで、いきなり姿が消えるなんておかしいと思っていた。
一時的に周囲に擬態させる魔法で、ロドクはそれを使って自身の姿を消してみせた。あくまで相手の視界から逃れる魔法の為、近くに居ると分かれば<心眼>の技能を持つボクには通用しない。
「カエデ、次は姿が消えても攻撃し続けて」
『分かった、行くよー!』
カエデは、グオオオオオォと思いっきり息を吸い込み、再びブレス攻撃の動作に入る。
しかし、その瞬間、地面が大きく揺れる。
同時に王都の空から、何か巨大な物が飛来し始める。
「あれは……」
『なになに!? 今度はなんなの?』
王都の空に現れたそれは、雲を切り裂いて空に轟音を響かせながらその姿を現す。
その正体は……。
「い……」
『隕石ぃぃぃ!?』
ボクの身長の十倍はありそうな超巨大岩石が落下してくる。
それも一つではなく、複数の大きな岩が次々と、王都の方に降り注いでくる。その隕石は、巨大な魔物の周囲に降り注ぎ、魔物は悲鳴を上げながら倒れ、その上に更に隕石が降り注いでいく。
「ろ、ロドク!! お前の仕業か!?」
ボクは、突然の出来事でパニックになりそうだったが、
すぐに冷静さを取り戻してロドクの方を見る。
『ふむ、……………知らんが』
「今の間はなんだよっ!?」
『前に似たような魔法を見た覚えがあったからだ。
だが、その魔法の使い手は既に死んでいる。貴様がトドメを刺したのではないのか?』
「……え?」
い、隕石の魔法?……確かに、そんな魔法見た覚えがあるような……。
『あの隕石は魔物に集中的に降り注いでるように見える。
だとするなら、我ら魔王軍ではなく貴様らの陣営の誰かでは無いのか?
あれほどの魔法、普通の人間が使えるとは思えんが……』
「そ、それじゃあ、誰がこんなことを……うわっ!!」
隕石が地上に降り注ぐ衝撃で地面が大きく揺れて、僕達はまともに立っていられなくなる。
『……あの魔物がやられては此度の戦いは我らの敗北か。
これ以上、貴様らと戦っても意味が無かろう。我も撤退するとしよう』
そう言いながらロドクは空に浮上していく。
逃げるつもりだ。
「待て、ロドク!! ……っく!」
ボクはロドクを追おうとするのだが、
地面が揺れる衝撃でまともに歩くことも出来ない。
『桜井君、私に乗って!!』
「う、うん」
ボクはカエデの背中に乗って、カエデはすぐに翼を広げて地上から離れる。
「ロドクは!?」
ボクは、カエデの背中で周囲を見渡すが、ロドクの姿が見当たらない。
『逃げられたみたい……』
「みたいだね……。決着を付けられなかったか……」
あのまま戦い続けても、消耗戦の末に勝てたかどうかは分からない。
どのみち、ボク達の体力が先に尽きていただろう。
だけど、この混乱に乗じて逃げるとは……。
「それにしても、いったい誰の魔法なんだろう?」
ボクは疑問に思うが、カエデは首を横に振る。
『とにかく、今は皆と合流しよう。話はそれからだよ』
「そうだね。……王都に戻ろう」
そして、それから数十秒経って、空から飛来する隕石は止み、地上の激しい揺れはようやく収まった。ボクがカエデの背中に乗って王都に戻ると、既に戦いはほぼ決着が付いていた。
巨大な魔物は隕石の飛来によって今度こそ完全に止めを刺され、全身が潰れて隕石に埋もれており、
他の魔物達は、ほぼ全滅。残った魔物も、一目散に逃げだし、その後を前線で戦う戦士たちが追いかけて次々と倒されていく。
「……終わったんだね」
ボク達が王都に着く頃には、魔物達は全て倒されていた。
隕石のせいで周囲の地形が大きく変わっており、一部王都にも被害が出ているが、グラン陛下は「我らの勝利だ!」と宣言し、戦いに勝利した彼らは、歓喜で沸いていた。
ボク達は王都の周辺の高台からその様子を見ていた。
「……本当に、勝ったんだ」
ボクはその光景を見て実感し、その場に座り込む。
その隣で、カエデは翼を畳んで、その光景を一緒に見ていた。
「お疲れ様です。レイ、それにカエデ」
と、ボクの後ろから、聞き慣れた女の子の声がボクに掛けられる。
「その声、エミリア?」
『エミリアちゃん?』
ボクとカエデは後ろを振り返る。すると、予想通りとんがり帽子を被った黒髪の女の子だった。彼女は背中にレベッカを背負っており、レベッカは目を閉じて微動だにしてない様子だった。
「お疲れ……って、どうしたの!? レベッカに何かあったの!?」
ボクが心配してエミリアの傍に寄って、背中のレベッカに声を掛ける。
すると……。
「すぅ……すぅ………」
レベッカは、服や体は薄汚れていたけど、静かな表情で眠っていた。
「良かった……眠ってるだけか」
「はい。無茶な魔法を使ってしまったせいで、魔力切れを通り越して意識を手放してしまったようです。まぁでも命に別状はないと思いますよ。安心してください」
そう言いながら、エミリアは彼女を地面に降ろして横たわらせ、エミリアもその場に座る。
「無茶な魔法?」
ボクはレベッカの髪を撫でて、安らかに眠るレベッカの顔を見ながら質問した。
「レイは王都の居なかったから知らないですよね。さっきまでとんでもない化け物と戦ってまして、レベッカが隕石の魔法を使って倒したんですよ。身の丈に合わない強力過ぎる魔法だったから、こうなりましたけど……」
「隕石の魔法って……それじゃあ、この隕石の雨は、レベッカがやったの?」
『レベッカちゃん凄い……』
ボク達は戦場となっていた地上を見渡す。周囲には無数の隕石が降ってきていた跡がある。
「エミリアの極大魔法より凄いんじゃ……」
「う……、まぁその通りだと思いますよ。えぇ……」
ボクの言葉を聞いて、エミリアは複雑そうな顔をしていた。
「……ところで、姉さん達は? それにカレンさんやサクラちゃんも」
「……」
エミリアは表情を変える。
ボクは周囲を見渡すが、探してる彼女達の姿は見当たらなかった。
「……三人は、今は前線基地に居ますよ」
エミリアは、何故か沈んだ声で言う。
その様子に疑問を抱いたけど、皆に早く会いたかった。
「そっか、じゃあ休んで少し休憩したから会いに行こう」
「……ええ。その前に―――」
彼女は真剣な表情をして言った。
「彼女……いや、カレンの事について話したいことがあります」
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