第328話 実は満更でもない二人

「それで、今からどっかに良い感じの剣売ってないかなぁ?」


 あと少ししたから開会式だけど、

 すぐにボクの試合が始まるわけじゃないと思う。

 それまでに武器をどうにか工面しないと。


「今から買いに行くのは難しいでしょうね。

 流石に時間が迫って―――って、どうやらもう始まるみたいです」


 エミリアの言葉に、ボク達は闘技場のコロシアムに視線を移す。コロシアムの真ん中に、マイクのような音声拡張させる魔道具を持つ女性がいつの間に立っていた。


 司会者だろうか?

 沢山の参加者が集まっていて身長の低いボク達にはよく見えない。


「みなさーん!! お待たせしましたー!

 今年も『一番強いのは誰だ!? 第八回、王都最強決定戦!!』の始まりです!!」


 司会らしき女性の挨拶と同時に、観客達の歓声が上がる。


「ん? 今の声……」

 妙にテンションが高くて明るい声だ。

 だけど、ボク達はその司会者の声に聞き覚えがあった。


「ねえ、今の声、聞き覚えなかった?」

 ボクは隣に立っていたエミリア達に聞いてみる。


「んー、確かに聞いたことが……」

「声が高くて、可愛らしい声でしたね……」

「もしかして……」

 どうやら三人も同じ感想を抱いたらしい。


「ちょっと確認してみましょうか。レイ、私の手を取ってください」

「わかった!」

 エミリアに言われて、ボクは両手でエミリアの手を握る。


「え、遠慮が無くなってますね……。

 じゃあ離さないでくださいね。<飛翔>まいあがれ


 エミリアが魔法を発動させると、ボク達二人の身体が浮き上がる。

 そして、コロシアムの方を二人で確認すると―――


「さ、サクラちゃん!?」

 そこに居たのは、いつもの鎧姿じゃなくて、バニーガール風の恰好をしてテンションアゲアゲになってマイク型の魔道具を握りしめている、もう一人の勇者のサクラちゃんだった。


「今回の参加者は300名! 過去最高の参加人数となりました!」


 サクラちゃんはハイテンションで喋り続ける。

 ていうか、参加者数多すぎ!


「皆さん、ここに集まったという事は腕に覚えがある人達ばかりです!

 歴戦の冒険者さん! 戦場で活躍した兵士さん達! どちらにも属さず強さだけを追い求めた剣士さんに魔法使いさん!!

 様々な経験を得て、その名声を高めた人たちばかりだと思います!!」


 観客席からは拍手喝采。


「でも、この場にいる全員が全員、そんな強者達だと思ってもらっては困ります! 中には私のように、まだまだ若い新人もいます! 今回は、その中でもまだ伸びしろのあるルーキー達が出場しています!」


 また、会場が沸く。


「ですが、ベテランの皆さんはそんな若い奴らに負けるわけないって思ってますよね。そこのお兄さん達! どう思います!?」


 サクラちゃんはコロシアムの外に向けてマイク型の魔道具を向ける。

『そうだー!』とか、『当たり前だろうが!』と外にいた参加者と思われる男達が叫ぶ。


「はい、ありがとうございます!

 ならここで誰が一番強いのかはっきりさせちゃおうじゃありませんか!!

 今回の賞金は、なんと金貨2,000枚!!

 この王都の一等地だって余裕で買えちゃいますよ!!!」


 き、金貨2,000枚!?


「それだけではありませんよー!優勝者には特別に、

 自由騎士団副団長にして、最強の冒険者にして冒険者のアイドル!!

 カレン・ルミナリアさんに勝負を挑む権利も貰えちゃいます!!

 さ、先輩、こっちにきてー!!」


 サクラちゃんは、後ろを振り向いて手振りをする。


 するとそこには、いつもの鎧姿ではなく、アイドル風のフリフリの衣装に身を包んだカレンさんが恥ずかしそうに顔を赤らめながら歩いてきた。


 彼女はコロシアムの外に向かって手を振っていて、冒険者たちのテンションが更に上がる。


「か、カレン!?」

「うわ……な、なんて格好を……」

 エミリアは引きつった表情をしている。


「ど、どうも……カレンです。

 皆さん、優勝目指して頑張ってくださいね………!」


「先輩、声が小っちゃいです!!!」


「む、無茶言わないで!

 大体、なんで私がこんな恰好しなきゃいけないの……!?

 うぅ……(*ノωノ)」


 カレンさんは着慣れないフリフリの恰好で真っ赤になってる。

 かわいい。本当にかわいい。


「仕方がないじゃないですかぁ。そういうルールですから! ほら、言わないと!」

「わ、わかったわよ……すぅ」


 カレンさんは深呼吸して、やけくそ気味に大声で言った。


「わっ……私を超える強者はだれだぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」


 観客達はドッと盛り上がる。そして―――

『俺だ!』、『あたいだろ!!』、『いいや、オレだ!!』


 会場中の観客達が一斉に叫び出す。


「先輩ありがとうございました! では、最初のルールを発表します!!」


 サクラちゃんは、マイクを持つ手を頭上にかざす。

 コロシアムの頭上に魔道具によって投射された文字が映し出される。


 そこには、『大乱闘、生き残りバトル』と書かれていた。


「最初のルールはこれ!!

 今から参加者の皆さんは全員コロシアムに上がってもらいます!」


 全員?この三百名全員が一斉に戦うって事!?

 サクラちゃんの言葉に、参加者たちが騒然となる。


「おい、マジかよ」

「ルール無用の潰し合いって事か!」

「これは、腕がなるぜぇ……」

「ふ、ふざけんじゃねぇぞ! 俺は降りる!」

「あ、待てお前!」


 参加者達は口々に不満を口にする。


「慌てないで、ちゃーんと考えられてますから!!!

 ですが、まずコロシアムに全員上がってくださいな、話はそれからです!!」


 サクラちゃんは、観客席を見渡しながら言う。

 すると、参加者たちは渋々とだがコロシアムに上がり始める。


 ボク達も上がろうとするのだけど―――


「あ、武器どうしよう?」

 今更だけど、手元に剣が無いことに慌ててしまう。

 ボクの様子を見てエミリアは心配そうに言った。


「無理矢理にでも龍殺しの剣を使えないんですか?」

「持つことは出来ても何度も振り回すのはちょっと厳しいかなぁって」


 せめて、蒼い星ブルースフィアを使えたら良かったんだけど、今は魔力の充電中だ。


「ウィンドさんから預かりものがあるよ。レイくん」


 ようやく体力が戻った姉さんは、

 ボクに長細い何かを布で包んだものを手渡してくる。


「なにこれ、姉さん」


「今は力が落ちてて代わりの剣がないだろうから、貸してあげますって言ってた」


「え、じゃあもしかして」


 渡された包みを急いで解くと、それは鞘に仕舞われた小型の剣だった。

 柄の部分を握ると、不思議なくらい手に馴染む。


「……凄い、まるで自分の身体の一部みたい」


「なんかね、魔法効果で女性のみ扱える武器らしいよ。聖剣は明日になれば使えるはずだから、今日はそれで一日我慢してってさ」


「そういう事なら……」


 ボクは、腰のベルトに剣と鞘を吊るす。

 ようやくコロシアムに上がった時、サクラちゃんが再び話を再開する。


「さてさて、皆さん揃いましたねー。

 じゃあこれからルール説明を始めまーす!! といっても、難しいことは何もありません!

 バトルロイヤル形式で戦ってもらうのは説明通りですが、今回はチーム戦です。皆さんの頭上をどうぞ!!!」


 サクラちゃんの言葉に僕達は頭上を見上げる。

 すると、そこには僕達の頭上には色分けされた旗が浮かんでいた。


「各チームの旗は全部で15種類で1チーム20人です!

 このルールでは同じ色の旗は仲間という扱いになっています!皆さんは、その仲間と背中合わせに共闘しながら、別の旗のチームと競い合ってもらいます。では、転送開始ぃぃぃぃ!!」


 サクラちゃんの最後の掛け声と同時に、

 ボク達の視界が一瞬だけ白い光に包まれた。

 そして、転送が始まった。

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