第227話 違和感
「それでは、呪いのアイテムを封印している場所に向かいましょうか」
ウィンドさんはそう言って魔法を唱え始めた。
……しかし、地図で見る感じ、案外近い。
大体街から直線上にあって、距離して大体15キロ程度かな。
カレンさんは今日は馬車は要らないと言われたから、リーサさんに留守番してもらってたけど、歩きで行くつもりなのだろうか。
そんなことを思っていたら、突然僕らの体が浮き上がった。
「ちょっ!? な、何これ……!」
突然体が浮き上がって自由が利かなくなったので、僕は宙に浮いたままパニックを起こす。
「れ、レイ……落ち着いてください。多分、これが<飛行魔法>ですよ」
「えっ、これが?」
結構前にエミリアに訊いたことがある。
飛行魔法は魔力の錬度がかなり必要だけど、使用できる者もいるって。
ウィンドさんが飛行魔法を僕達に掛けてくれたのか……。
「……で、でも、何か全然自由に動けないんだけど」
聞いた話、飛行魔法は自由に動けるって話だったのに、体の自由が利かない。それどころか空中で僕は何度もくるくる回って三半規管が狂いそうになってる。
「レ、レイくん、大丈夫? よっと……!」
姉さん達も僕と同じく、飛行魔法が掛かって体の自由が利かないはずなのだが、唯一、姉さんは飛行魔法に自分の女神パワーを上乗せして体を光らせて自由に動くことが出来る様だ。姉さんは自分の意思で僕の傍に寄ってきて、僕に寄り添って体の向きを安定させてくれた。
「あ、ありがとう……」
「えへへ、どういたしましてー」
姉さんに支えられてるお陰で何とかマシに動けるようになった。
「さて……では行きますよ」
ウィンドさんはそう言うと更に高度を上げて、目的地へと向かって行った。
それと一緒に、僕らもウィンドさんの飛行魔法で高度が上がり、速度が上がっていく。
自分で操作できるならともかく、強制的に空を飛ばされるのは割と地獄だった。
◆
ウィンドさんの飛行魔法で、
呪いのアイテムが封印されている場所まで飛んできた僕達。
「し、死ぬかと思った………」
突然高度が上がったり下がったり、速度が上がったり下がったりして、
しかも下見たら恐怖しか感じないし、もう最悪だった。
「あはは……大丈夫、レイくん?」
「う、うん……」
姉さんが心配してくれているので、なんとか返事をする。まだ姉さんが支えてくれたらよかったけど、僕一人だったら途中で泣き叫んでたかも……。
「さて、着きましたが……」
ウィンドさんに言われて、フラフラの体を動かし僕達は集まる。
周囲は特に何の目印も無いような、何の変哲もない草原で、僕達は少し困惑した。
しかし、周囲を散策すると、一件物置小屋のような古びた木の家があった。
「……まさか、ここ?
とても呪いのアイテムが封印されているようには見えないけど……」
「いえ、ここで間違いありません」
ウィンドさんは確信を持って言っているようだ。
こんなところに本当に呪われたアイテムが置いてあるとは思えない。
とりあえず、僕達は何も言わずに家の中に入ることにした。
中に入ると、やはり何の変哲の無いような小屋だった。
草刈りに使うような鎌や農具など、農家が使うような物ばかりが置かれている。
「……特に変哲の無い場所に見えるね」
小屋の中を探索するが、広い場所でもないのですぐに手詰まりになる。
しかし、途中、同じく中を調べていたレベッカが床にしゃがんだ。
「レベッカ、どうしたの?」
僕はレベッカの傍に近寄って、レベッカと同じくしゃがみ込む。
「レイ様……これをご覧ください」
レベッカが指さしたのは、足元の木の床だった。
しかし、他の部分と比べると少し、床の色が違うような……?
「これ、もしかして隠し階段でもあるのかな」
「おそらくですが、それに床だけではございませんね……」
レベッカは立ち上がり、今度は壁の方に歩いていく。
壁には、張り紙がしてあり、見たところ、農具の保管の仕方や野菜の作り方などを載せたメモが載っていた。
「レベッカ、この張り紙がどうかした?」
「……多分、なのですが……」
レベッカは何かに勘付いてるようだけど、少し躊躇しているようだ。
僕にはこの手の物はさっぱり分からない。
多分、レベッカは魔力的な物か、第五感的なもので何か違和感を感じ取っているんだろうけど……。
「……ふむ、レベッカさんと言いましたか。良く気付きましたね」
声が聞こえて後ろを振り返ると、ウィンドさんが立っていた。
「ウィンド様……という事はやはり……」
「はい、貴女の勘は間違いありませんよ。
レイさん、ここに張られている張り紙を全て取ってもらえませんか」
「えっ? はい、分かりました……」
僕は言われるままに、張り紙の束を取っていく。
そして、張り紙をとって壁が剥き出しになりその異様さに気付いた。
「な、何、これ………!?」
張り紙で隠されていたが、血のような赤い文字で魔法陣が描かれていた。
「これは、<生命結界>ですね。術者の血を使って魔法陣を形成することで、周囲から魔力の流れを遮断するというものです」
「……生命結界、それって」
様子を見ていたエミリアは言った。
しかし、ウィンドさんは納得のいかない表情でこう言った。
「いささか妙ですね。この結界は魔力を隠すことには向いていますが、呪いを無効化する効果は薄い。それに、この大きさの魔法陣……。下手をすれば術者が死んでしまう可能性もあります。
どうやら、この小屋の何処かに繋がる場所を隠すために施されているようですが……どうにもリスクと見合っていませんね」
「どういうことですか?」
「簡単に言えば、この小屋の中に何かがあるということですよ。
おそらく、相当危険な代物のはず。それを誰にも見つからないようにするために、このような仕掛けが施されているのでしょう。
こうやって何の変哲もない小屋に偽装させている辺り、術者以外も協力して作ったのでしょうね」
そこまで話して、ウィンドさんは考え込む。
「……解せませんね。協力者がいたというのに、何故こんな危険で非効率な<生命結界>などを選んだのか……。同じ封印をするのであれば、もっと効果の強い魔法もあったでしょうに」
「???」
僕はよく分かっていないが、ウィンドさんには引っかかるものがあったようだ。
僕達が話していると、姉さん達も集まってきた。
「どうしたのレイくん? 何かあったの?」
「うん……。どうやら、ここが目的の場所みたい……。
ウィンドさん、こんな大掛かりな結界があるって事は、もう間違いないですよね」
「そうですね。あとは……」
ウィンドさんは、何か魔法を唱え始める。
そして、こう言った。
「<
ウィンドさんが呟くと、六芒星の結界が消え失せ、同時に、小屋の中が揺れ始めた。
「な、何ですか? 地震?」
「地震じゃないわね……多分、この小屋が元々の姿に戻ろうとしているんだと思うわ」
「ええ、そうです。ここは、呪いのアイテムを封印するためだけの場所。……さて、見てなさい。本来の姿に戻りますよ……」
そして、数秒してから僕達の周囲が黒く染まっていく。
さっきまでの六芒星はただ封印していただけでなく、周囲そのものの空間を歪曲し、
本来の姿ではない別のモノを見せていた。
ウィンドさんが言うにはむしろそちらがメインの効果らしい。
それから数秒後、
さっきまであった木の小屋と、周囲の草原は無くなっており、代わりに、足元はヘドロのような腐った地面と、小屋があった場所には、まるで地獄へと続くかのような先の見えない暗い洞穴が姿を現していた。
「こ、これが……呪いのアイテムが封印されている場所……」
「えぇ、そうです。
どうやら、呪いの影響で周囲も歪んでいるようですね。
六芒星も解除したことですし、早くしないと外に呪いが溢れ出てしまうかもしれません」
さっきの封印は、呪いの効果もある程度シャットアウトする効果もあった。それを僕達が解除してしまったという事は、すぐさま元凶を僕達がどうにかしないと危険という事になる。
「レイ君、覚悟を決めましょう」
「カレンの言う通りです。ここから先は相当危険でしょうが、レイ自身が決めた選択でもありますよ」
「もう、エミリア様……。大丈夫ですよ、レイ様。わたくしたちもお供いたしますから……」
「ちょっと怖いけど、行こう、レイくん」
「……分かったよ。行こう!」
僕はみんなと一緒に、暗く深い闇の中へと進んでいった。
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