第75話 ジンガさん

 次の日、僕はまだ万全では無かったけど、フラフラながら歩くことが出来るようになった。

「レイ様、もう大分回復されましたね」

「うん、皆のお陰だよ」

 結局、昨日はレベッカにずっと看病されたままだった。

 姉さん達とも色々話したけど、昨日レベッカに告白されたことは結局内緒だ。


 そして――

「そろそろ大丈夫か?」

「ジンガさん」

 初日に目覚めてから久しぶりに顔を合わせた鍛冶師のジンガさんが部屋を訪れた。

「……まだ、フラフラのようだが、歩くことは出来そうだな。来い」

 僕はレベッカに支えられながら、部屋を出てジンガさんの後に付いて行った。


 付いて行った先は鍛冶場だった。

 そこにはジンガさんが作ったと思われる武器や防具、

 それに作業に使われると思われる鉄のハンマー、作業台や、奥には燃える上がる炎も見えた。


「立っているのは辛いだろう。そこに座れ」

 ジンガさんは用意してくれた簡素なパイプ椅子のような折り畳みの椅子を置いてくれた。

「ありがとうございます」

 僕はレベッカに支えられながら椅子に座った。


 それを見届けると、ジンガさんは奥へ向かった。

 そして代わりにエミリア、姉さん、ミライさんが鍛冶場に入ってきた。


「レイくん」

「姉さん、それに皆も」

 どうやら姉さん達もジンガさんに呼ばれていたようだ。

 すると、先ほど奥へ行ったジンガさんも戻ってきた。


 ジンガさんは布に包まれた長細いものを僕も目の前に置いた。

「……ジンガさん、これは?」

「……開いて中を見てみろ」

 僕はレベッカに包みを渡され、それを解いていった。


「――これは」

 中に入っていたのは、僕の『魔力食いの剣』だった。

 しかし、魔力食いの剣は柄の部分こそそのままだが刃が大きく破損していた。

 破損状況がかなり酷く、途中で先が折れており、柄付近の刃にも大きく亀裂が入っている。

 上の方に付いていた魔法石も取れて大きくヒビが入っており、もう使い物にはならないだろう。

 一目で分かるほどの損傷具合だ。


「お前が誰と戦ったか分からないが、随分激しい戦いをしてきたようだな」

 この剣は地下二階で手に入ったものだ。それ以降ずっと主力の武器として使ってきた。

 自身の込める魔力に応じて威力を上げ、更に射程まで向上させる強力な武器だ。

 素の威力こそそこまで高くは無いが、この武器が無ければ僕は戦い抜くことは出来なかった。

 その剣がここまでボロボロになるなんて……。


「あの、これって直せるんですか?」

「……無理だな、魔法石も壊れてしまっている。

 仮に修理したとしてもそれは魔力食いの剣としては使えない」


「そうですか……」


 確かにここまで酷いと直すことも出来ない。でも――


「……ジンガさん、頼みがあります」

「……何だ?」

「僕に新しい武器を作ってくれませんか?」

 元々僕はその為に来たのだ。地下九階のドラゴンを倒すため、そしてその先に待ち受ける敵と戦うために。『魔力食いの剣』を失った今、僕は新しい剣が必要だ。


「お願いします!」

 僕は土下座をした。

 体は上手く動かないが、上手く土下座出来ているだろうか。


「レイ様!?」

 レベッカの声が聞こえる。

「レイ、そこまでしなくても……」「レイくん……」


「……」

 少し間があってから、ジンガさんのため息が聞こえてきた。


「……いいだろう」

 顔を上げると、ジンガさんは腕を組んでこちらを見下ろしていた。

「ただし、必要な材料はお前たちが持ち込んだ物を使う。

 それに要望に見合うものは金額も高額だ。それでいいな?」

「――はい!」

 僕は嬉しさのあまり頭を上げた。

「分かった」

「あ、あれれ……? 私が助け舟出そうとしていたのですが、ジンガさんあっさり引き受けちゃいましたね……?」

 ミライさん……そう言えば、口利きしてあげるとか言ってた気がする。

「ミライ……だったか? そもそもこいつが起きる前にも散々売り込んできただろう?

 未知のダンジョンを深奥を攻略しただの、ゼロタウンの英雄だの、あれで売り込んでいないつもりだったのか?」

「あっ、ジンガさん! バラさないでくださいよ!」

 ミライさん、何だかんだ言ってちゃんと説得してくれてたのか……。


「だが、別にこの眼鏡の説得で引き受けたわけじゃない」

「め、眼鏡……」

 眼鏡扱いされて軽く傷つくミライさん。


「こいつの使った剣を見て決めただけだ。

 ひ弱そうな見た目だが、激戦を繰り広げてきたことが剣を見れば分かる。

 剣が壊れた原因になった今回も、話で聞いただけだが大したもんだ」


 それまで睨み付けるような目線のジンガさんだったが、そこで初めて笑った。

 そう言ってジンガさんは再び奥へ行ってしまった。


 僕はふぅーっと一息ついた後、椅子に座っている姉さん達に話しかけた。

「皆ごめんね、心配かけて」

「もう、いきなり土下座なんかして、お姉ちゃん驚いちゃったわ」

「まぁ、上手くいって良かったです……」

「レイ様、まだ本調子でないのですからご自愛ください」

「うん、ごめん」

 流石に自分でも土下座はやり過ぎとは思った。

 だけど、自分では他にどうやって頼み込めばいいのか思いつきもしなかったのだ。


「それじゃあレイくんはしばらく安静にしてないとダメだから、今日は帰りましょう」

「そうですね」

「えっ、ちょっと待って……」

「ダーメ♪」

 僕は皆に抱き抱えられて、それをジンガさんに見咎められて止められた。

「まだ体が動かないんだから今日はこの家で一日休んでいろ」

「ご、ごめんなさい……」


 持ってきたドラゴンの素材やダンジョンで集めた魔石をまとめてジンガさんに渡し、

 数時間僕はジンガさんの前で手や体などの筋肉の付き具合などを調べられた。

 剣の大きさや重さなどの調整、それに柄の具合などを調べるのに必要なことらしい。

 それ以外にも他に防具などもいくつか作ってくれることを約束してもらった。


「全部作り終わるのにあと一週間は掛かるだろう。今日はここで休んでいっていいが、明日はここを出ていけよ。どこか近くの町や集落で泊まるんだな」

「何から何まで本当にありがとうございます」

「ふん……今度は行き倒れても拾ってやらんからな」


 ◆ 


 その次の日、僕たちはジンガさんの家を出た。


「レイ、これを持っていけ」

 と言ってジンガさんは僕に剣を渡してくれた。

 使い古されたと思われる武骨な剣だ。

「これは?」

「剣が出来あがるまでの間に合わせだ。しばらくはその剣を使っていろ」

「えっ?でも一応僕はもう一本マジックソードという武器が……」

「それも貸せ」「えっ」

 ジンガさんが僕のもう一つの剣を持って行ってしまった。


「この鈍らもついでに鍛え上げておいてやる。それまではその剣を使え」

「……分かりました! この剣、大切に使わせてもらいます!」

 僕は剣を受け取ると、その剣を大切に背負った。


「また一週間後に来ます!」

「ふん……それなりに高くつくから覚悟しておけよ」

 こうして僕たちはもう森を抜けて近くの集落へ帰ることになった。

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