第73話 初めての○○○
目が覚めると、そこは見慣れない天井があった。
木のちょっと古い天井だ。それに何処からか僅かに金属を焼いたような臭いがする。
「……ここは」
何とか声が出た、しかし体が動かない。体全体が鉛になったような感覚だ。
首を動かすと、僕はベッドに寝かされていることが分かった。
……小さな部屋だ。
ベッドの部屋の奥のタンスには誰かは分からないけど、
二つの写真立てが飾ってあった。一つは女性と壮年の男性が移っている。
もう一つは――空飛ぶ生き物の写真だ。これは、ドラゴンだろうか?
「―――レイさま?」
レベッカの声が聞こえた。そして――
「レイさま、レイさま―――お兄様――――!」
レベッカは動けない体の僕に覆い被さり泣き叫んだ。
「レベッカ……そうか、僕たちは……助かったんだね」
「うぅ……はい、お兄様のお陰で……!」
涙を拭いながらレベッカはそう言った。
「……よかった……」
そして何人もの足音が聞こえて、扉を開ける音が聞こえた。
「レイ!」「レイくん!」「レイさん、大丈夫ですか!」
入ってきたのは、エミリアと姉さん、それにミライさんだった。
「みんな……」
「レイくん、無茶をするんだから……」
「ごめんなさい、姉さん……」
「ううん、謝らないで……レイくんが居なければ私たちきっと全員助からなかった」
ベルフラウ姉さんはそれだけ言って僕の傍に寄って、胸に手を当てた。
「レイ……頑張りましたね。ありがとうございます……貴方のお陰で全員が助かりました……」
エミリアは涙を溜めながらそう言った。
「
僕の胸に手を当てた姉さんの魔法が発動する。僕の体は光に包まれた。
「レイくん、どう?」
……体を起こそうとするが、やはりまだ動かない。
それでもさっきより少し楽になった気がする。
「ありがとう、姉さん。少しだけ楽になった気がするよ」
「そう……」
姉さんは僕の言葉を聞いて、少し残念そうにした。
「えぇっと……私もお礼させてください。貴方のお陰で助かりました」
ミライさんは僕のベッドの横に来て、丁寧にお辞儀をした。
「いやぁ……流石に付き合いの短い私が他の方より先に声を掛けるわけにはいきませんからねー」
てへへ、といった表情で笑った。この人はいつも通りだな。
そして、もう一人誰かが入ってきた。
首を扉の方に動かすとそこには高齢の白髪の年の割に筋肉隆々の男性が居た。
さっきの写真の壮年の男性に似ているだろうか。
「目覚めたのか?」
その男性は低い声で言った。それにレベッカが答える。
「はい、お兄様―――ではなく、レイさまがお目覚めになられました。まだ動くことは出来ないようですが……」
その言葉を聞いて、男性はキッと僕を睨む。ちょっと怖い。
「あ、貴方は……?」
「ジンガだ。そこの緑の眼鏡に聞いていないか?」
ジンガ……確か、この森に住んでいる鍛冶師の名前だったはずだ。
「あ、貴方が……あの、僕たちは――」
「無理して喋るな。大体の経緯はそこの女に聞いている。
まだ体が動かないのだろ?休んでいろ。話はそれからだ」
そう言って、ジンガさんは部屋から出ていってしまった。
「ぶっきらぼうな方ですねー、まぁ心配して言ってくれてるんですよ」
それではゆっくり休んでくださいねーとミライさんはその男性に続いて部屋を出た。
「無事に鍛冶師さんの家に着けたんだね……」
「森で倒れていた私たちを運んでくれたそうです」
僕たちはジンガさんの家の近くの森で倒れていてジンガさんが見つけてくれたそうだ。
森で正体不明の化け物と出会い戦ったが、その時はまだ深い森の中に居たような気がした。
「私は幻惑を解除したつもりだったんだけど、
一部だけしか解除できていなかったみたい。力不足を痛感したわ……」
姉さんが落ち込んだように言う。あれは仕方ないよ。
「森全体に隠匿された結界が張られていたようで、それによって私たちは延々と歩かされていたようでした」
同じような木ばかり遭遇して、
ずっと同じ場所を歩き続けてたのはそういう理由だったのか。
「……それでようやく抜け出せたという訳だね」
「そういうこと」
「でも、どうしてそんなものが……?」
「分からないわ……ただ言えることは私たちが無事だったのは奇跡的だって事ね」
「……運が良かったということか……」
「えぇ、本当に……」
「……ですが、わたくし達が助かったのはレイさまのおかげです」
「僕は何も……」
「いいえ、レイさまがいなければ全員死んでいました」
レベッカの言葉に姉さんとエミリアが頷く。
「……話疲れたでしょう、レイはそろそろ休んでください」
エミリアはそう言って僕の頭を優しく撫でてから出て行った。
「今のレイくんは私の回復魔法でもあまり効いてないみたい。
回復魔法は自己修復を促進させる魔法だから、まずはレイくんが体力取り戻さないとね」
姉さんはそう言って、僕の胸に手を当ててもう一度回復魔法を唱えて、そして僕の頬にキスした。
「ちょっ――」「べ、ベルフラウさま!?」
驚く僕達二人を姉さんは微笑みながら、
「それじゃあゆっくり休んでね」と言って出て行った。
ね、姉さんに頬とはいえキスされてしまった……。
「べ、ベルフラウさま、とても大胆です……」
レベッカも恥ずかしそうな表情をしている。
「そ、そうだよね……」
僕達はお互いの顔を見て更に赤くなって俯いた。
「レベッカは部屋から出ないの?」
「……いえ、もう今は深夜遅いので、出ては行くのですが……今はまだ」
レベッカは僕が目を覚ましたら看病させてくれとエミリアと姉さんに頼み込んだらしい。
なので、明日の朝からどのみちレベッカに看病してもらうとのことだ。
それとは別にレベッカが僕に伝えたい事があると言ってきた。
「レイさまがわたくしを恐ろしい幻覚から救ってくださったのですね」
あの時、レベッカが急に叫び出して泣いていた時の話だろうか。
「うん、でも当然だよ」
「ですがわたくし、とても感謝しております」
そう言って、レベッカは寝ている僕に顔を近づけて―――
(れ、レベッカの顔が近い……)
「あ、あの……これから数日、レイさまのお世話をするというのに、
こういうことをすると……その、もしかしたら顔を合わせづらいかと思いますが……」
レベッカは真っ白い肌を今の僕のように赤らめながらそう言った。
「え、れ、レベッカ―――」
「お兄様―――いえ、レイさま―――――」
レベッカは僕に更に顔を近づけて唇を重ねた。
「ん……」
数秒後、レベッカの柔らかい唇から離れる。
「ふぅ……ありがとうございます、これでわたくしも頑張れる気がします……」
そう言って、レベッカは部屋を出て行った。
「う、嘘だろ……」
妹のように可愛がってたレベッカに、まさかあんなキスをされるなんて……。
(し、しかも、唇で……は、初めてだった……)
僕は動けず、ずっとベッドの中で惚けてしまい、そのまま次の日の朝を迎えた。
◆
僕は一人、ベッドの上で放心状態だった。
「……」
「おはよう、レイくん」
翌朝、目を覚まして横を見ると、既に起きていたのか、 姉さんが僕の顔を覗き込んでいた。
「……おはよう」
「昨日はよく眠れた?」
「……あんまり」
「……?どうしたの?」
「……」
言えない。レベッカにファーストキスを奪われてしまったなんて絶対に言えない。
そんなこと言ったら、またどんな反応するか予想できないよ。
「……なんでもない」
「そっか、今日も魔法使うね。
僕の胸に置かれた手から姉さんの魔法が発動する。
そしてしばらくすると姉さんの手が離れた。回復魔法が終わったようだ。
「……どう?」
訊かれて、僕は心臓の痛みが完全に消えたことに気付いた。
試しに体を動かそうとするが、上半身を動かすのがやっとだった。
「まだ駄目みたいだね」
「うん、でも胸の痛みが完全に無くなったよ」
「そっか、そこまでいけばきっともう大丈夫だね」
もう大丈夫?それはどういうことなんだろう。
すると今度はエミリアが部屋に入ってきた。
「レイ、おはようございます。ベルフラウ、傷の具合はどうでしたか?」
「うん、胸の痛みは消えたみたい。ひとまず峠は越えた感じだね」
と、峠!?それってかなり危なかったってこと?
「私は朝食の準備に入るから、エミリアちゃん。
あとでレイくんに説明してあげてくれる?」
「分かりました」
よろしくね、と言って姉さんは部屋から出て行った。
「本当はレベッカも一緒に部屋に来るつもりだったのですが、何故か部屋から出てきてくれなくて……」
『わ、わたくしはなんてはしたないことを……!』
みたいなことを言って、しばらく心が落ち着くまで時間を下さいと言ったそうだ。
(昨日のキスの件だよね……)
「ではレイ、ベルフラウの朝食が出来るまで少し話しましょうか」
エミリアは僕のベッドの隣に小さい椅子を置いて、そこに座って話し始めた。
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