第49話 地下五階その1
――地下四階攻略から二日後
「エミリア、もう大丈夫なの?」
「はい、今回から少しは回復が速いですよ」
エミリアは魔力を使い切ってグロッキーだったのだが今回は復活が早かった。
「何度も限界近くまで魔力を削った結果、新しい技能を得ましたので!」
「おおー、すごいですエミリアさま!」
嬉しい話ではあるけど、毎回無茶し過ぎてるってことだよね…。
エミリアが復帰したため、僕たちは地下五階の攻略を目指す。
という事で僕たちは地下四階の頂上まで宝珠でワープしてショートカットする。
台座に『Ⅳ』の宝珠を付けて扉を開ける。
「それでは皆さん参りましょうか」
僕たちは扉をくぐり先へ進む…のだが―――
「……特に光景は変わりませんね」
扉の先はさっきの場所と全く同じで階段も無ければワープもしてなかった。
「扉が置いてあるだけに見えるわ…」
「ふむ、どういうことなのでしょうか……」
……確か、地下五階は階段が無いと言ってた気がする…。
「階段どころか先が無いような―――」
ガクッ
「え?」「あっ」「えっ」「!?」
次の瞬間、僕たちは唐突に空に投げ出された。
「ええええええええええっ!」
「っわあああああああああ!」
「なんでええええええええ!」
「はわあああああああああ!」
重力に従い僕たちは急速に下へ落ちていく。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
僕たちは強烈な風に煽られながら重力で凄まじい速度で落下していく。
「お兄様ーーー怖いです――っ!」
レベッカが僕を呼びながら泣き叫んでるっ!
クソッ!風でレベッカからどんどん離されていく!
「れ、レベッカ――っ!」
僕は引き離されそうになるレベッカに手を伸ばすのだが、空中でまともに身動きも取れない。
そしている間にどんどん落ちていき、地面が見えてきた。
このままだと全員落ちて死んでしまう!
「こ、こんな時に力が使えないなんて――!私は――!」
姉さんの言葉だ…。多分空間転移を使えないことを悔やんでいるのだろう。
「み、皆さん!私がどうにかブレーキを掛けます!だから諦めないで!」
エミリアが恐怖を押し殺しながら周りを鼓舞する。
この状況を魔法でどうやって……!
エミリアは目を瞑りながら何かの詠唱を始めた。
目を瞑ってるのは目の前に迫る死で集中力を削がれないようにするためだろう。
地面まであと数百メートル、多分残り数秒程度の猶予しかない!
「おじいさまーーー!おにいさまーーーーーー!」
自分に出来ることは……せめて泣いているレベッカの傍に―――!!
「出来ました!
ギリギリのタイミングでエミリアの上級魔法が発動する。
地面から大きな竜巻が発生し、僕たちはその竜巻に呑まれることでブレーキが掛かる。
中心にいたエミリアと姉さんは大きくブレーキが掛かって威力が削がれただろう。
竜巻にも巻き込まれたが、あの二人なら何とかなると思う。
だけど……僕たちは、かなり距離が離れてしまっていた。
魔法の影響は受けてさっきに比べてかなり勢いが削がれているが、このまま激突すれば多分…。
「お兄様――レベッカ達はーー」
「大丈夫だよ…レベッカ―――――」
幸い、今の魔法で僕はレベッカに手が届いた。
今ならレベッカを抱きしめてあげられる。
―――地面までもう数十メートルも無い。
―――あと一秒後に僕たち二人は死んでしまうだろう。
「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
そんなことはさせない。
例え僕が死んでもレベッカだけは守る。
左手でレベッカを抱きしめて庇い、右手に魔力を込めながら地面の方へ突き出す。
僕は自身にあるありったけの魔力を地面目掛けて放つ。
―――次の瞬間、右手の激痛と共に僕の意識は途絶えた。
◆
―――地下五階
状況はあまり良くない。
空中からの落下で命の危機に瀕していた私たちだが、
ギリギリのタイミングで魔法が間に合い、何とかそのまま全員死亡という最悪の状況を乗り越えることが出来た。落ちた先は、森のようだが周りは真っ暗だ。
私とベルフラウさんは木のクッションもありそこまで大きなダメージは無かった。
四階とは趣向は違うが、ここも意図的に作られたダンジョンなのは間違いないだろう。
しかし、異様だ。
今までのダンジョンにあったような明かりもなく夜の光景にしても暗すぎる。
まるで不自然に塗りつぶされたかのような闇だ。何より気味が悪いくらい静かだ。
「エミリアさん」
後ろから私を呼ぶ声がしたので振り返る。ベルフラウさんだ。
「ベルフラウさん、レイは無事ですか?」
「酷い怪我だったけど傷は何とかなったわ………でも」
ベルフラウさんはそこで言葉を区切り後ろに歩き出す。私も察して付いていく。
「レイ………」
横になって倒れている彼の状態を確認する。
落下直後は右手がほぼ潰れてしまい、頭も頭蓋骨が陥没するほどの重傷だった。
普通に考えたら即死だと誰もが思う惨状だった。
しかし、彼の必死の抵抗のお陰かおそらく自身でも予想できてなかっただろう。
予想を超える膨大な魔力を放出しギリギリの所で踏みとどまった。
その結果彼の命は辛うじて助かり、庇われていたレベッカも軽傷で済むことが出来た。
今の彼は見たところ外傷は殆ど治っている。
砕けた骨がむき出しになっていた彼の右手も見た目は元に戻っているようだ。
ただ、頭の損傷が酷かったのだろう。彼はまだ目を醒まさない。
「お兄様………」
レベッカはレイから片時も離れない。
少し前から時々レベッカがレイをお兄様と呼んでいたのは知っていた。
最近はべったりな事も多くて、二人は周りに秘密にしていたようだがバレバレだ。
落下直後の時のレベッカはかなり取り乱していた。
お兄様、お兄様と泣きじゃくって…周りの声も聞こえてなくて、
ベルフラウさんの回復で傷が癒えてからも暫くは泣き止まなかったくらいだ。
今は少し落ち着いてるが、レイが目を醒まさないと同じ事になるだろう。
「………」
私の責任だ。
私がもっと強ければ彼もレベッカも救うことが出来たはずなのに。
私が彼を冒険者に引き込んでいなければ、彼はこんな危険な目に遭わなかった。
私がダンジョンなどに誘わなければ彼らがここまで傷つくことだって―――
「エミリアさん……!」「っ!」
ベルフラウさんの強い口調で私はハッとする。
「……すみません、考え込んでしまいました」
「……貴女のせいだけじゃないわ、あまり考え込まないで、ね」
……そうだ、今は自分を責めてる場合ではない。
この状況をどうにかしなければ。とても戦える状態ではない。
こういう時、ベルフラウさんは気丈に振る舞う。
内心ではきっと私以上にショックを受けているだろうに、
私が冷静でいなくてどうするのだ。
「……撤退しましょう。<迷宮脱出魔法>を使います」
今の状態でダンジョン攻略など不可能だ。
レイもこのままにしておけないし、私たちもダンジョン攻略どころの状態でない。
私の呼びかけに二人は反応してレイの周りに集まる。
……いや、ダンジョン攻略自体もう止めてしまおう。
私の我儘でこれ以上迷惑を掛けたくはない。
帰還してレイの意識が戻ったらゼロタウンに戻って以前のような生活に戻るのだ。
……そうしよう、それがいい。
「
私の脱出魔法が発動する。レイが横になってる周りを中心に光の魔法陣が展開される。
あと数秒後には地上に帰還しているだろう。
しかし――――
「―――――ッ!!」
馬鹿な、魔法が発動しない!?
「な、何で……!?」
「……どうしたの?エミリアさん」
「魔法が、魔法が発動しないんです……帰れない…!?」
「そ、そんな……!」
「……」
地下五階に行った冒険者は攻略こそ出来なかったが、
帰還したという冒険者に私はコンタクトを取って直接確認している。
いくらか金を積んで吐かせたのだ。まさか嘘だったのか―――!?
―――地上に戻れたら確認する必要がある。今はどうにか帰る方法を探らないと。
「…レベッカ、動けますか?」
「…………」
レベッカは変わらず彼の手を握っている。
……無理もない。彼女はレイにかなり依存していた。
何とか脱出方法を探さなければいけないが、彼女の気持ちを考えると無理はさせたくない。
「……私が調べてきます。ここで待っていてください」
「……エミリアさん、私も行くわ」
……意外だ。ベルフラウさんも残るのかと思ったのだけど…。
「レイの傍に居なくて良いのですか?」
「そうしたいけど……この状況は危険よ、何が起こるか分からない」
………それはそうだけど。
「ですが、レイとレベッカを二人で置いていくのは…」
「分かってる。少しだけ待ってて」
ベルフラウは立ち上がり、レイとレベッカの周囲に白い粉を円状に振りかけていく。
更に外側に一回り円を作ってベルフラウは魔法を使用する。
すると外側に光の柱が立ち昇り、内側の線にも光が立ち込める。
「簡易的だけど、防御結界と拠点結界を張りました。万一の為に」
「分かりました、一緒に行きましょう」
最後に、私はレベッカの隣にしゃがんで言った。
「レベッカ、私たちはこれからどうにか脱出するために別行動します」
「………」
「貴女はレイの傍に居てあげてください」
「………はい」
髪に隠れてレベッカの表情は見えなかったが、泣いていた。
「行きましょうか」
「……あ、待って」
ベルフラウさんはレイの持っていた鞄から何か取り出して戻ってきた。
「ベルフラウさん、それは?」
「ランタンよ、この暗さだと周りが見えないでしょう?」
確かに視界が不自然に暗いし探索するにも明かりは欲しい。
ただ、どうみても鞄に入る大きさではないランタンをどうやって取り出したのか。
今はそんなことを言ってる場合ではないから突っ込みませんけど。
「それじゃあ、行きましょうか…」「ええ…」
私とベルフラウさんは、ここから脱出するために探索を開始した。
「………レイさま」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます