第32話 上級攻撃魔法
「さて再戦行きますよ!」
「まさか昨日の今日で挑むことになるとは…」
僕たちは召喚士の昨日鉢合わせした場所に訪れていた。
エミリアの行動の速さには驚くけど付き合うこっちは大変過ぎるよ。
「しかしエミリアさま、上手く相手は出てきてくれるでしょうか?」
「もし出てこないなら、あの家ごと新魔法で破壊します」
やってることが悪人だよ。
話しているうちに奴のアジトと思われる家に着いた。
「それじゃあエミリア、また索敵を―――」『――その必要はない』
索敵をお願いと言おうとしたら全く別の声が僕の言葉を遮った。
「召喚士!」
気付けば召喚士は僕たち目の前に居た。
『アジトを壊されてはたまらんからな、野蛮人め』
さっきの話を聞かれていたのだろうか。
「盗み聞きとか意外とやってることが小物ですね…」
召喚士はエミリアの悪口を無視して言った。
『昨日は逃がしてしまったが、今日はもう逃がさんぞ』
そう言って奴は左手を空に掲げる。
「くっ、間に合わないか!」
如何にも焦ったような言い方をしているが、これは演技だ。
昨日は僕たちは全力で召喚を阻止し、召喚されたら即撤退した。
それは事実であちらもそう認識しているはずだ。
なので、こう考えてくれるはず。
『召喚魔法を阻止されなければ、僕たちの敗北は揺るがない―――』と
距離にして約50mほど離れている。昨日と違いどのみち止められる距離ではない。
エミリアは僕の傍まで来て小声で言った。
「(大丈夫です、レイ。今は貴方はレベッカに強化を貰ってください)」
僕は無言で頷く。距離が近いのは今は気にしない。
そう考えている間に奴の周囲が歪み、沢山のゴブリン達が沸き出てきた。
「レイさま、今の間に魔法をおかけします!」
「お願い!」
そうしてレベッカの強化が僕に連続して発動する。
「
「
これだけ強化を貰えれば十分だ。
「レベッカ、ありがとう。あとはエミリアと姉さんにもお願い」
気が付けば、召喚士の周りにはホブゴブリン五体、ゴブリン30体が召喚士の前に並んでいた。
ゴブリンのうち10体は弓を持っている。今の状況ではハチの巣にされかねない。
(弓兵はちょっと辛いかもしれない)
エミリアの自信に乗せられてしまったけど、これ結構ピンチなのでは?
「レイ、レベッカ、少しで良いですから私を守ってください!!」
「わかった」「わかりました」
エミリアが何の魔法を使うかは分からないけど、
ここまでずっと一緒に戦って信じてきた仲間だ。疑うつもりはない。
「ベルフラウさんはこちらに進撃してくるゴブリン達を束縛してください」
「分かりました…エミリアさん、信じてますからね…」
「任せてください!」
そしてエミリアは一気に魔力を開放する。
『行け!』
召喚士の掛け声と同時に数多の矢が飛んでくる。全部を躱すなんて不可能だ。
僕は集中しているエミリアの前に立ち、正面に来る矢を全て吹き飛ばすつもりで魔法を使用する。
エミリアではないけど、実は僕も新しい魔法を覚えている。
「
昨日初めて習得条件を満たした中級魔法だ。今朝エミリア監修のもと一度だけ試している。
(予想通りだ、相手の矢は軽い!)
ゴブリンの矢は以前に経験している。
木の矢で出来ているため、鉄の鎧を装備していればほぼ防ぐことが出来る。
だが、それでは僕だけダメージを負わないだけでエミリアを守り切ることが出来ない。
弓の矢は鉄に比べて勢いが弱いためか、風の魔法の風で十分吹き飛ばせる。
今回使った魔法は威力こそ中級魔法にしては大したことないが、
軽い相手であれば一気に吹き飛ばすことが可能だ。ゴブリン程度の矢なら問題なく防げる。
しかし、それだけじゃエミリアを完全に守り切れるかは分からない。
「レベッカ!お願い!」
僕は後ろにいるレベッカに声を掛ける。
「はい!『―――盾よ!』」
エミリアと前に大きな盾が出現する。レベッカの<空間転移>によって盾を呼び出した。
僕が打ち漏らした少数の矢をを大盾でなんとか防ぎきっている。
『っ!…何だ、その技は!?』
召喚士はレベッカの空間転移に目を見開いている。
(よく考えたら<接続点召喚>に似てるからそりゃ驚くよね)
『ホブゴブリンと剣を持った雑魚ども!そいつらを直接殺せ』
「させません!」
姉さんの<植物操作>でホブゴブリンは動きが止まる。
とはいえ、巨体なためさほど時間は持たない。10秒程度束縛出来れば十分だ。
残りのゴブリン達は僕とレベッカが担当する。
「
相手が弓ならこちらは投石だ。レベッカの放った魔法で数体のゴブリンの進行が止まる。
「
魔法剣ではなく普通に魔法を発動。今は威力より近づかれないことが重要だ。
『無駄な事を、弓兵、第二射だ!』
召喚士はこちらは悪あがきをしてるだけに思えるのだろう。
実際、僕の風魔法もレベッカの土属性魔法も誰も倒せていない。
おまけにエミリアの前には大きな盾があるため、魔法の詠唱も見えていないはず。
それが理由か召喚士は自身で攻撃魔法を使う気配すらない。完全に油断している。
召喚士の命令でゴブリン弓兵は矢を番えて再び矢を放つ。
僕ももう一度
数発は防ぎきれず<矢避け>が発動。その後、一発は腕に突き刺さってしまう。
「ぐあっ――!」
矢が突き刺さった右腕に力が入らず僕は剣を落とす。
袖を捲ると傷だけでなく腕が赤黒く変色していた。
「レイさま!」
レベッカが僕の前に立ち、カバーに入ってくれる。
「レイくん、大丈夫!? これは……!?」
おそらく矢に毒が塗られていたのだろう。
傷だけでなく腕全体がまるで動かなくなってきた。
「レイさま、少し痛いと思いますが我慢してくださいまし!」
レベッカは僕の腕から鏃を取り出し地面へ捨てる。
その際、ものすごく痛かったが、涙をこらえて我慢した。
「
「ッ―――」
「
姉さんの回復魔法により毒は浄化され、少し痺れがあるが傷も治癒された。
「だ、大丈夫ありがとう――」
しかし、そんなことを気にしている場合じゃない。
「姉さん!危ない!
姉さんのすぐ後ろに来ていたゴブリンを剣で薙ぎ払い、何とか窮地を脱する。
「レイくんをよくもやったわね!
姉さんは僕の横に立ち、ゴブリン達にマジックアローを連射する。
敵に命中するが、腕輪のせいでさほど威力は無い。
それでもゴブリンの時間稼ぎ位にはなっているようだ。
僕も直ぐに復帰して、近づく敵を剣で食い止める。
そして――
「準備が出来ました!みなさん、退避してください!」
ここでようやくエミリアの魔法の準備が整ったようだ。
「!? 分かった!」
退避という言葉に驚いて僕たちはエミリアの前に下がる。
「
中級火炎魔法の数倍にも及ぶ規模の上位魔法が発動する。
エミリアが手を前に突き出すと、巨大な黒い渦が出現して、その中心部から赤い熱気が噴き出してくる。そして一瞬にして広がっていき、周囲の敵を包み込んでいった。
途轍もない轟音と共に地獄の業火のような凄まじい炎に周囲のゴブリンや召喚士は呑まれてしまう。
尋常ではない威力だ。中級攻撃魔法の何倍の威力があるか計り知れない。
「す、すご……!」
今までの魔法の規模じゃない!
流石に集落を凍結させたほどじゃないだろうけど、今の一撃で敵はほぼ全滅しただろう。
「エミリアさん、凄いわ……」
「さ、流石にレベッカもこの威力は想像してませんでした…」
「……どうですか、この威力!流石に連発は出来ないですけど…」
語尾になるほど声が小さくなっていくエミリア、流石に今の魔法はしんどかったようだ。
とはいえ、この炎では僕たちも追撃は出来ない。
どれだけ敵の数を減らせたかは分からないが、今は待つしかないか――
『
「!?」
突然の攻撃魔法で僕たちは身構えるのだが、その対象は召喚士本人。
驚くことに自身に氷魔法を撃って炎を相殺したようだ。
「いえ、どうも先ほどあの召喚士は<魔法抵抗>も使ったようです」
レベッカの言葉を聞いてから、召喚が居た場所と睨み付ける。
すると、炎の中から悠々と召喚士は歩いてきた。
「あれを食らって生きてるなんて…!」
「エミリアさま、一旦下がってください!」
今のエミリアは強力な魔法を使用したせいでかなり消耗している。
霊薬を使って一度回復しないと戦えないだろう。
しかし、召喚士以外で立ち上がった敵は居ないようだ。
『なんとしたことだ…!
冒険者共に巣を襲撃されてなお何とか集めた兵士たちが……!』
召喚士は今の一撃でかなり怒ったらしい。
「それにさっきの魔法……!なるほど、あの集落を凍らせただけのことはある」
そうして奴は再び左手を掲げる。
「なっ!まだ召喚できるのか!」
てっきり全部出し切ったのかと思ったのに!
『ははは、残念だったな!いざという時の為に数体はまだ残しているのさ!』
すると歪んだ空間から数体のゴブリンが出てきた。
「……ホブゴブリン2体ですか、それが限界のようですね」
「エミリア、もう大丈夫!?」
「はい、全快とはいきませんけど何とか回復しました」
エミリアの足元には霊薬の空き瓶が4つほど転がっている。
「魔力の過剰摂取なので戦闘後がしんどそうです…」
僕たちがそんなやり取りをしていると、召喚士は後ろに下がり自身に魔法を使った。
『
せっかく上級魔法で与えた召喚士のダメージが回復されてしまった。
「回復されたか……!」
「レイくん、仕方ないわ、あの状況だと止めるのは難しいでしょうし」
だが、接続点召喚のゲートは残ったままだ。
恐らく不利になると逃走をするつもりだろう。
「ですがレイさま、先に逃走ではなく回復を優先したとするのであれば――」
「――まだ戦闘続行するつもりってことだろうね」
ここで逃がしてしまうと、また集落のように戦力を集めて襲われる可能性がある。
「今度こそ倒そう!」
二度とあんなことは起こらせない。そう決意を胸にして奴を倒す決意をする。
『はっ!貴様のような未熟者に俺が倒せるわけないだろう!』
召喚士はエミリアに関しては評価を改めたようだけど、僕に関しては相変わらず侮ってる。
腹立たしいが、これは逆にチャンスかもしれない。
「ならこんな未熟者相手に逃げるなんてみっともない真似をするなよ!」
いつもよりも更にイキッた発言で相手を挑発する。予想通りだ、奴は怒りを膨らませてる。
『殺す!』
怒り狂ったゴブリンの表情を見るのは初めてかもしれない。
プレッシャーが半端ないが、今ので奴の後ろの空間の歪みが無くなった。
挑発で撤退という考えが一時消えたのだろう。
「意外と激情家なのでしょうか……」
あまりにも短気なためエミリアは呆れているが好都合ではある。
相手が冷静さを取り戻す前にこちらから仕掛けて、作戦通り倒す!
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