第20話 冒険者の仕事

 翌朝、僕たちは冒険者ギルドに用事が出来ていた。

 エミリアは他に用事があったらしく、今回は時間を指定してエミリア達と待ち合わせをしていた。


「……おはよう、エミリア、ベルフラウお姉さん」

「おはようございます、エミリアさま、ベルフラウさま………♪」


「おはようございます……え、どうしました、二人とも…?」

 エミリアは僕たちのテンションの落差に驚いている。いや、若干引いている。

「あら、二人とも仲が良さそう……レイくん?ちゃんと眠れた?」

 大丈夫です、一応寝れてはいる筈なんです…多分。


 冒険者ギルドに来た理由は一つだ。


「そう、お金が無いなら稼げばいいのです!」

 冒険者ギルドは様々な仕事の依頼を引き受けている。この依頼は冒険者ギルドに入らなければ受けることが出来ない。そのため、仕事に困っている人間は冒険者に流れることが珍しくない。


「それで、私たちはどんな仕事を受ければいいのかしら?」

「私はともかく、お三方は初めての仕事ですからね、難易度の低い仕事が良いです」

 難易度が低いっていうと…。

「この…薬草採取、というのは如何でしょうか、エミリアさま?」

 レベッカが選んだのは端の方に貼られていた採取依頼だった。


「悪くはないのですが、報酬は…大銀貨2枚ですか……」

 報酬は4分割と考えると少ないかな。


「これはどうかしら……『私の愛した子猫ちゃんが何処かに行ってしまった。

 探してくれた者には報酬金貨10枚を進呈する』…ですって、猫ちゃんは私も好きですよ~」

 高っ!?というか、この世界にも猫っているの?


「それ、発行日どうなってます……?」

「発行日?えーっと………………止めときましょうか……」

 姉さんに聞いたところ、地球の時刻で二年前くらいの日付だったらしい。

「もう子猫じゃないよね」


 僕は他の依頼書を手に取る。

「急募、ゴブリン退治……」

 ゴブリン、以前鉱山で戦ったことのある敵だ。

 小柄な体格をしているが、耳が尖がっておりしわくちゃの鬼のような顔をしている。

 人型で武器も持って襲い掛かってくるので苦手な相手だった。


「報酬は金貨2枚ですか?」

「うん、報酬条件は依頼の場所でゴブリンを殲滅か10体以上討伐って書いてある」


「初の仕事としてはやはりその辺りが定番ですかね」

「レベッカも、その辺りが妥当かとおもわれます」

 人型のモンスターや動物は今でもあまり相手にしたくはないんだけど。


「冒険者になった以上、仕方ないか……」

「そうです、依頼が来るという事は被害が出ているという事でもあるんですから」

 そう言われてしまうと、やりたくないとは言えないな。

「うん、じゃあそれを選ぼう……姉さんもそれでいい?」

「私はレイくんが良いなら付き合いますよー」


「ミライさん、この依頼を受けたいのですが…」

「あ、レイさん、早速依頼ですか?気合入ってますねー」

 お金の為だもん、仕方ないよ。

「このゴブリン退治の依頼なんですが」

「少し依頼書いいですか? 

 …急募依頼ですね、受けてくれてありがとうございます」

「難しいですか?」

「いえ、ゴブリン討伐は新人さんでも出来る依頼ですよ」

「以前に戦った時は結構苦労したんですけど…」

 以前に戦った時、確かに力はそこまで強くは無かったけど、

 武器を持って本気で殺しにかかってくるという意味でかなり危険な相手だった。


「自分達と同じく武器を持ってますが強いわけではありません。

 個々の能力で言えばかなり低い方に入りますから、厄介なのは集団の場合ですね。

 このゴブリンというモンスターは繁殖力が非常に高いんです」


 集団の場合か、そういえば依頼書には……。

「10匹以上のゴブリンを討伐か殲滅、と書いてありますね」


「そこまでなら新人向けとも言えます。

 それ以上増えてしまうと新人さんでは荷が重いという事ですね

 仮にそうなってしまっても、ベテランさんは中々受けてくれなかったりしますけどね」


「レイ、依頼の説明は終わりましたか?」

「うん、聞いてきたよ」


  ◆


 僕たちは街を出て、依頼のあった場所に向かう。

 ゴブリンの数は正確には把握できていないらしい。

 街から東の方の林で現れたらしく、薬草採取に向かった人と護衛の冒険者が襲われたらしい。

 両者とも遺体で発見され、その後に民間人が通報して調査隊が向かった。

 遺体を調査したところゴブリンが使う矢が多数刺さっており、足跡も残っていた。

 周りの地面の様子を調査した結果、およそ十匹近くのゴブリンに襲われたと判断されたようだ。


「作戦を立てる前に、レベッカさんの能力を聞いておきたいのですが…」

 確かに、まだレベッカの能力を把握できてないし、僕たちのことも伝えていなかった。


「はい、秘伝の魔法の詳細は私にも説明できないのですが、それ以外なら」

 と、エミリアは両手を広げて、言葉を紡ぐ。


『―――来てください』

 紡いだ瞬間には、その手に弓が握られていた。今度はもう片手に矢も握られている。

「何度見ても凄い能力ですね…」

「エミリアも知らないの?」


「私の知識では<召喚魔法>に似ていますが、

 原理が違うように見えます。どういったものかさっぱりですね」

 召喚魔法って、そういうものもあるんだ…ドラゴンとか召喚出来るのかな。


「レベッカちゃん。貴女、どこかの神様に関わる民族だったりする?」

 神様?…姉さんと同じ?


「はい、レベッカはこの世界の女神、ミリクテリア様を信仰しております」

 ミリクテリア様…女神?ということはベルフラウ姉さんと同じ存在?


「姉さん、知ってる人?」

「ううん、多分この世界で古くから信仰されてる神なのでしょうね」

 ということは歴史的に姉さんよりは古い神様ってことなのだろうか。

「ベルフラウさまは神様にお詳しいのですね」

「レベッカちゃんは空間転移を利用してアイテムを運んでいるのね。

 普通の人がそんなことを出来るのは驚きだけど……」

 それって、僕と姉さんがこの世界に飛んだ方法では……!

 と、エミリアがパンパンと手を叩き、話が中断される。

「興味深い話ですが、それはまた後で、今はお互いの能力を把握しましょう」


 その後、僕たちはお互いの出来ることを把握するために話し合った。


 レベッカの能力はまとめるとこうなる。

 ①空間転移を利用してアイテムを即座に取り出す能力。

 主に槍、弓、盾を瞬間的に取り出して使用する。レベッカの筋力では長期間持てないためこのように扱うらしい。槍や弓を使うのは狩猟も行っていた民族だった名残のようだ。

 ②自身、または他人に対して効果を発揮する魔法を使用する。

 強化魔法と言われるもので、人の運動能力や武器を一時的に強化したりできるというものだ。

 所謂バフである。

 ③自然干渉とは少し違う、土属性の魔法を使用できる。

 魔法ではあるが、大半は物理的な攻撃であり、一部特殊なものもあるらしい。


 本人曰く、自身の魔法力はそこまで高いわけではないらしい。

 姉さんが言うにはレベッカの『空間転移』は女神の権能をより限定的にしたものだとか。


  ◆


 僕たちは作戦を立て、ゴブリンのいる林へと向かった。

 今、僕たちがいる地点はそこから数十メートル離れた木の陰に隠れている。

「魔力強化<索敵Lv4>サーチ

 索敵魔法と補助結界を併用したエミリアの魔法だ。

 これにより離れた場所の索敵範囲がより広がっているらしい。


「……確認、ゴブリンと思われる反応が12体です」

 想定は十匹なので少し数が多いが、それでも手に負えないという範囲では無さそう。

「じゃあレベッカ、よろしくお願いします」

「はい」

 レベッカは僕に魔法を使用する。

<速度強化Lv5>韋駄天の力を

 僕に掛かった魔法はシンプル、一時的に体が軽くなって早く動ける魔法だ。

<感覚強化Lv5>呼び覚ませ

 この魔法は一時的に視覚・聴覚などを強化する魔法。

<矢避けLv5>幸運を

 今回の作戦で一番重要かもしれない魔法だ。


「それではレイさま、ご武運を」

 レベッカは一旦僕たちと別行動を取る。


「じゃあ、レイくん、頑張ってね!」「うん」

 覚悟を決めた僕はエミリア、姉さんと少し距離を離して森林へ向かう。


  ◆


 林は木が乱立している程度のもので、さほど広くはない。

 ただゴブリンはこの手の土地に慣れているのか巧妙に隙間から襲ってくる。

 採取に来た冒険者と依頼主が襲われたのは突然の狙撃だったとか。

 しかも弓の数はかなりの多さで被害者二人だけでなく周りの地面にも突き刺さっていた。


 僕はゆっくりと中に入っていく。2人は僕を見送る形で林の外側にいる。


『心眼』と呼ばれる戦闘技術が存在する。

 これは自身の死角となる場所を音や気配で読み取る能力だ。

 僕は、以前の鉱山でこれを使用できるようになった。アドレ―さんの鍛錬のおかげでもある。


「……」

 まず、正面に一人、小さな影を発見。

(あれはあくまで僕に発見される前提だろう)

 そして数歩進む……が、僕は即座にバックステップする。

 次の瞬間、僕が一秒前に居た地面に矢が突き刺さっていた。


「それっ!」

 僕はエミリアから事前に渡されていた液体ビンを林の木に投げつけて、

 割れたのを確認したら一番近くに居たゴブリンに斬りかかる。


 ゴブリンはこちらが矢で倒れると思っていたのか無防備に斬られて倒れ伏す。

 同時に近くの木から何かが落下する音が聞こえた。

 矢が突き刺さっているゴブリンだった。

(レベッカが上手くやっているみたいだな…)


 投げた液体は強烈な臭いがする臭い薬だ。

 エミリアは昨日の夜に材料を集め、翌朝にこれを仕上げていたらしい。

 ゴブリンに使うかどうかも分からなかったのに随分用意周到だ。


「…………っ」

 それを嗅いだ隠れていたゴブリンは苦しみ、何匹かはこちらに襲い掛かってくる。

 僕はゴブリンから追いつかれない程度のスピードで走って逃げる。

 途中で頭上からいくつかの矢が降り注いできたが…。

「……っ!」

 一回はギリギリ回避、残りは余裕をもって回避することが出来た。

 本来の自分ならここまでのことは出来ないだろう。

 今は<速度強化>と<感覚強化>のおかげで自身の能力が大きく上がっている。

 そのため、自身の『心眼』と組み合わせることで位置を把握しつつ回避が可能になった。


 遠くから空気を切り裂く音が聞こえて

 先ほどのように木の上に隠れていたゴブリンが矢に刺さって2匹、3匹と転がり落ちていく。


 よし、このまま――


 しかし、僕は背後から弓を撃たれたことに気付いていなかった。

「しまっ…!」

 気付いた時にはもう背中に当たる直前で――


 だが、矢が当たる直前に不自然に止まり、そのまま下に落ちてしまう。

(あっぶなー!)

 今のは<矢避け>の効果。一度だけ物理系の遠距離攻撃を無効化する魔法だ。

 この魔法の存在が無ければこんな作戦は取れなかった。


 そのまま全速力で走り抜ける。


 林から出たところで待機していた姉さん達に合流する。

「姉さん!」

「大丈夫!」

 と確認を取ったところでこの場で待ち伏せする。


 そして5匹ほどのゴブリンが追いかけてきた所を――

「ここなら私の力が使えますね、よろしくねエミリアさん」

 と、姉さんはまず最初に飛び出してきたゴブリン二匹の足元の草木を急成長させる。

 成長させた草木はゴブリンの足に絡みつき、体勢を崩し後続三匹のゴブリンを巻き込む。

 その後にエミリアが追撃する。


「さて出番ですね!<中級火炎魔法>ファイアストーム

 エミリアの強力な攻撃魔法に巻き込まれたゴブリンたちはそのまま黒焦げになってしまう。


「周囲警戒!」

「はい、<索敵Lv4>サーチ

 僕は警戒を呼びかけるとエミリアが再び索敵を発動する。


「レイさま!」

 と、そこで単独行動を取っていたレベッカと合流した。

「お疲れ、レベッカ」

「……索敵完了、林の中で動いてる気配はありません」


 僕たちは倒した数を計算する。

「僕は中で1体」「私はこの場で5体」「レベッカは6体狙撃しました」

 レベッカが単独行動をしていたのは少し離れた場所から敵の弓兵を倒してもらうためだ。

 弓を使用できるレベッカにはこの役目は適任だった。


 僕が単独で林に入り、囮になることで敵をおびき寄せ、臭いで敵をかく乱。

 その時に大きく反応をした敵をレベッカに見つけてもらい狙撃、残りは僕が外に誘導した。

 周りが林なので下手に攻撃魔法撃つとエミリアの魔法で火災が発生する可能性もあって外におびき出した。レベッカの強化魔法が無ければ苦戦したかもしれない。


「最初の索敵の数と合っていますね。警戒しつつ林に入っていきましょう」


 僕たちは周りと警戒しつつ、ゴブリンの死体から右靴のみを回収していく。

「グロい……」

「こうしないと私たちがどれだけ敵を倒したか分かってもらえませんからね、我慢です」


 モンスター討伐の依頼によっては倒した証明が必要になることがある。

 例えば敵が衣服を着ていたらその切れ端、場合によっては肉体の一部を回収することもあるらしい。

 今回の僕らは、ゴブリンの右靴というわけだ。


 そうして今回僕たちは無事に初の冒険者の仕事をクリア出来た。


 アイテムドロップ

(N-)粗雑な鉄の短剣 3本

(N-)雑な木弓 5本

(N-)木の矢    20本


 報酬 金貨2枚(分配でそれぞれ小金貨1枚と大銀貨1枚)

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