第11話 廃鉱山の中でドキドキ

 

 ―――翌朝


「一緒に寝ましょう♡」とか言われて

 ドキドキして誘いになったら本当にただ寝ただけでした。


 案の定、朝起きたらフラウ姉さん元女神さまにホールドされました。

 そのせいで朝の見回りに誘いに来たアドレ―さんに見つかり、恥ずかしいことになった。


「相変わらず仲がいいですねぇ」

「う、うん…」


 朝の見回りを終えて今は朝食中である。

 アドレ―さんは笑い飛ばしてくれたけど女の子のエミリアに言われるとかなり恥ずかしい。


「ご、ごめんね…レイくん」

 姉さんのせいだけど僕も昨日普通に受け入れちゃったから仕方ない。


「それにしても、いくら子供だからってお姉ちゃんといつまでも寝てるのはどうかと」

「…………」

 エミリアに言われると、何か余計に恥ずかしく感じてしまう。


「え、エミリアだって似たような歳じゃん…」

 中身は僕より全然大人っぽいけど、つい言いたくなってしまう。


「まだ聞いてませんでしたが、お二人の年齢っていくつくらいなんですか?」

 爆弾発言来た。僕はフラウ姉さんの正体知ってるから聞かなかった(途中で止めただけ)。


 姉さんを見てみると、うわ……笑顔でフリーズしている。


「僕は15歳だよ」

「え、嘘ですよね?」

 本当に驚いた顔をするエミリア。

「嘘じゃないから!」

 元の世界でも子供に見られて同級生の男子に散々虐められたことを思い出してしまった。


「本当に15歳だよ…エミリアは?」

「私は14歳です……レイ、見た目的に私より年下だと思ってたんですが…」

 エミリア面倒見良いよねって思ってたんだけど、年下と思われてたから甘やかされてた?

 あんなに優しかったのは、僕が保護対象と思われてたからなのかな…。


「可愛い弟分が出来たと思ってたんですが、まぁ扱い変えるつもりないから問題ないですね」

 エミリアの中では僕の扱いはもう変わらないっぽい。……嫌ではないけど、認めてほしい。


「それで……フラウさんは?」


 僕とエミリアの視線がフラウ姉さん元女神さまに集中する。


「………………………………17歳です」


 その後、しばし3人フリーズしてから流れ解散となった。


  ◆


 そして朝の鍛錬を終えて休憩を挟んだ後、

「じゃあみなさん準備はいいですか?」

「うん」

 すっかり目的が遅れていたが、いよいよ鉱山の調査に向かうことになった。


「鉱山までの距離は2時間くらいだが、一応途中で昼休憩を挟むつもりだ」

「お弁当作っておいたから楽しみにしておいてね、レイくん」

 詐称17歳の人もすっかり元気を取り戻していた。


 道中、特にモンスターと遭遇することも無く一旦休憩になった。

 鉱山の少し手前くらいの辺りの森林の中で休憩だ。

 木が切られた場所があったので椅子として丁度良かった。 


「<拠点結界>を使用します」


 拠点結界は発動してる間、結界内の人間の疲労回復効果があるらしい。

 多少なりとも魔物を寄せ付けない効果はあるらしいが、防御結界ほど強くはないとのこと。

 そのため、周囲をアドレ―さんと僕が交代で見張りをすることになった。


 その後、休憩を終えて三十分程度で目的地に到着した。


  ◆


「鉱山って聞いてたけど、随分寂れてますね…」

 入り口の近くにつるはしやスコップなどが無造作に置かれていたが完全に錆びている。

 ここの近くに老朽化した建物もあったのだが、そこも使われた形跡はない。


「ここで採掘出来てたのは大分昔の話だからな、掘り当てたジジイはとっくに逝っちまってる」


 鉱山の入り口の左に一軒の小さな家があった。

「ここに管理人が住んでいるはずなんだが…どうやら留守らしい」

 ここ最近の話を聞くつもりだったが、どうもアテが外れたようだ。


 仕方ないので直接調査するために鉱山に入ろうとするのだが…。


「………!待って!」

 突然姉さんから静止の言葉が入った。

「どうした、聖女の姉ちゃん」

「……姉さん?どうしたの?」

 いつものほほんとしてる姉さんにしてはかなり険しい顔をしている。


「この先、正体は分かりませんが邪気に溢れています。入ると危険です」

 邪気……というと強いモンスターとかだろうか。


「いえ、それだけじゃないでしょう。強い邪気は体にも影響を及ぼすのです」

 エミリアの補足が入る。ということはこのままだと有害ということか。


「ふむ…」とアドレ―は呟く。

「とはいえ入らないわけにはいかない。辛いなら三人はここで待っててもらうか…」

 流石に一人では危険だと思うのだが。


「ならアドレ―さん、少しだけ待ってもらえますか?」

「ん?何かするのか?」

「はい、少しだけ………」


 そうして姉さんは詠唱する。


 謳うように。


「――――聖なる力で清めたまえ――――」


 姉さんの浄化だ。その瞬間少しだけ体が軽くなった気がする。


「中を浄化しました。通るだけなら体に害はないと思います。

 しかし気を付けてくださいね。この先の邪気はまだまだ消えていませんから」


 僕たちは姉さんの言葉を頭に入れて鉱山内に入る。

 ただ暗いだけだと思ってた中は異様な雰囲気に包まれていた。


「ここの中は分かれ道がいくつかあったはずだ。

 念のため、万一挟み撃ちがないように俺が最後尾に付くことにする。

 坊主と嬢ちゃんは前を歩いてくれ、警戒は怠らないようにな」

 アドレ―さんの指示に僕とエミリアは従う。


「あの、私は?」とフラウ姉さん。

「聖女のお嬢さんは俺より少しだけ前を歩いてくれ、ランタンも任せる」

 と、アドレ―さんは姉さんに持ってきたランタンを渡す。

「姉さん、お願いね」

「うん、任せてね、レイくん」


 そして前方の灯りは<点火>ライトを使用できる僕とエミリアが担当する。


「地下深くはないはずから酸素不足って事はないだろうが、

 万一ガスが噴出してる場合、いったん火を消せ。誘爆の可能性がある」


 鉱山の中を進む。

 中には蝙蝠やネズミなどが沢山沸いており、近づくと光を怖がってか逃げていった。


 先頭を歩いてるのは僕だ。

 何か見かけたら即後ろに知らせないといけない。

 そう思うと少し気が焦ってしまう。


「レイ、少し早く歩きすぎです」

「っと…ごめん」


 僕の後ろのエミリアに注意される。ちょっと後ろを見ると後続と距離が少し離れていた。

「気持ちは分かりますが、慎重に」


 更に中を進む。すると、今度は小さな人型の耳の尖った気味の悪い化け物が二体現れた。

「な、何っ?こいつ…」

 よく見ると腕にこん棒やら石斧やら持っている。

「<ゴブリン>です! 

 ここは狭いから剣を振り回すのは危険です!貴方は最初は守りに徹してください!」


 ゴブリンと言われた化け物のこん棒を持った方がこちらに襲い掛かる。

「くっ…」

 単純な力任せで軌道も荒いため、剣で受け止めるのは難しくはない。

 体格も体重もこちらが有利なため、鍔迫り合いとなり、そのまま体重差で押し返す。


「姉さん!」

「任せて!」

 姉さんは持っていた何かをゴブリンの足元に投げつける。

 投げたモノは植物の種だった。姉さんの力で急成長した種はゴブリンに茨が巻き付き拘束される。


「レイ、突きで一気に攻めましょう!」

「はぁぁぁ!」

 拘束されたゴブリンに対して、剣を構えてゴブリンの心臓辺りを突き刺す。


「………っ」

 突き刺した時にゴブリンの血が大量に溢れ出て、そのまま魔物は崩れ落ちる。


(………やっぱり、これは慣れないな)

 人間相手ではないとはいえ、殺傷は…。そういう世界だと割り切るしかないのか…。


「レイ、油断し過ぎですよ!」

 そうだ、もう一匹敵は残っている。前を見ると斧をもったゴブリンが襲い掛かってきた。


「レイ、しゃがんでください!」と後ろから指示が飛んだので従う。


<初級風魔法>エアレイド

 エミリアが放った魔法は真空の刃、そのままゴブリンに直撃に敵を切り裂き吹き飛ばす。


 終わったか――


「周囲警戒!」

 後方からアドレ―さん低く鋭いが飛ぶ。

 ハッとした僕は前方を警戒して、周囲に敵が居ないことを確認した。


「…びっくりしましたぁ、いきなりアドレ―さん叫ぶから…」

 フラウ姉さんはアドレ―の前に居たから声が良く聞こえたのだろう。


「すまんすまん、戦闘直後ってのは一番油断するタイミングだ

 実際坊主も油断してたからな」

 本当にその通りだった。


 そのまま僕らは先に進む。

 さっきの戦闘で少し疲労してたので、今度は僕が二番手に、エミリアが先頭に立っていた。

(もしエミリアに危険が及びそうだったら…)

 その時は前に出てエミリアの代わりに受け止めないと。


「……坊主、魔物は怖いか?」と後ろからアドレ―さんの声が聞こえた。


 僕は振り向かず答える。


「そりゃあ怖いですよ、死ぬかもしれないし」


「そうだろうな…でも、一番怖がってるのは、敵を殺すことだったりしないか?」


 言われて一瞬足を止めるが、また歩き出す。


「……気付いてたんですか?」


「魔物を倒した後に、何か考え込んでいたようだったもんでな」

 流石に暗いから表情までは分からなかったが、と続ける。


「慣れろ…とは言わん。俺も最初は同じようなもんだったからな。

 ……だがそれでいい。生物を息をするように殺せるようになったら正気じゃない」


 ――僕は何も答えずにいた。


 その時、背後から空気が切り裂かれる音がした。

 振り返ると、アドレ―さんが後ろに迫っていたモンスターを切り伏せていた。


「え、後ろにモンスターが…?」

「いつどこで回り込まれたか分からんが、後方の警戒は正しかったようだな」

 アドレ―さんは血をふき取ってから剣を鞘にしまう。


「坊主、ならせめて信念を持て、そうすれば斬れるようになる」


「信念…?」


「ああ、信念だ。

 俺はこの剣が届く範囲の仲間や家族は命を懸けて守る。

 それを邪魔する奴は誰であろうと切り捨てる、例え人間でもな。

 お前はどうだ? 自分の為ではなく、大切な人の為に戦うことが出来るか?」


 その言葉に、僕は即答は出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る