第8話 はじめての○○
―――時間は少し遡る。
「さてと、ここの料理も楽しみです!」
私はエミリア、冒険者ギルド所属の魔法使いで今はこの湖の村に仕事に来ている。
ちなみに『湖の村』はここの正式名称でもある。以前は村長の名前だったのだが、代替わりにするたびに名前が変わるのが怒られて湖を名前にしたのだとか。
部屋を出て、下の食堂に向かうとレイとアドレ―さんが集まっている。
「おはようございます2人とも」
「おはよう」「おう、おはよう嬢ちゃん」
アドレ―さんとレイは今から外出するところだった。
「お二人とも何処かに行くのですか?」
二人とも朝食にしては武器をしっかり整えていたりとちょっと物騒だ。
「ああ、坊主(レイ)を連れて日課の見回りと、あとは日課の鍛錬だな」
「じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
その後、少ししてからフラウさんが食堂に来た。
「フラウさん、今日は珍しくレイと一緒に居ませんでしたね」
「ええ、ちょっと…今から食事?」
「はい、一緒に食べますか?」
「そうね、折角だから一緒に食事しましょう」
そう言って今は二人で食事をしている。
この姉のフラウは変わり者だ。
過剰な程の弟へのスキンシップで周りから過保護な姉に思われており、
時々フラッと居なくなったりするため、周りからは天然の聖女とか言われたりする。
(聖女、だと思うんですけど)
数日前の浄化の儀式を見ているかぎりでは相当高レベルの聖女だ。
私の所属する冒険者ギルドで彼女の域に到達している<浄化>の使い手は存在しない。
ただ、本当に聖女なのだろうか?
詳しく訊きたいところだけど、なんとなく訊く気になれない。
(何というか、深入りしない方が良い気がするんですよね…)
レイとフラウは姉弟らしいのだがわざとらしさを感じる。
特にレイは時々姉のはずのフラウに余所余所しい態度を取ったりするし、
逆にフラウの方は過剰なまでにスキンシップを取ろうとする。
何か踏み込んではいけない理由がある気がするのだ。
弟のレイは旅をしている割にはモノを知らなすぎる。
高位の魔法ならともかく、初歩魔法程度であれば広く伝わっててもおかしくはない。
それなのにレイは知らず、姉のフラウはどこか知ってる素振りがある。
ただ、男の子なのに見た目も可愛らしく年下っぽいから無知なのは可愛くもある。
(お姉さんが可愛がりたくなる気持ちもちょっとは分かりますね)
ちなみにレイは15才、エミリアは14才である。
「ねぇ、エミリアさん相談があるんだけど」
「はい、何ですか?」
このフラウさんはまだ付き合いは浅いけど、あまり積極的に人と話すイメージが無い。
人付き合いが悪いというか少し人見知りな感じか。
「'弟'のレイくんのこと」
まぁ、そうでしょうね。何でそんなに弟を強調するのかは分からないけど。
「ここに来て三日目くらいに、着替えてレイくんに見せに行ったんだけど……」
フラウは今は旅人っぽい恰好をしている。
最初に会った二日くらいは煌びやかな服装を着ていた。何故着替えたのだろう。
「思ったより反応薄くて……。
お姉ちゃん結構勇気を出して見せに行ったんだけど、レイくん私のこと嫌いのかな?」
思春期の男の子ならそんなものだと思うんですが…。
「嫌いって事はないですよ。傍から見ても二人は仲良しです、多分」
姉のフラウから一方的にベタベタしてるが、レイは照れてるだけで受け入れてる。
内心は嬉しいんじゃないだろうか。素直に出来ないのは周りの目もあるだろう。
ただ、どこか無理してる感じはする。
時々ぼーっとしててため息を付いていたりとか、悩み事でもあるんだろうか。
「そ、そう…?多分ってのが気になるけど、
でも一緒のパジャマ買ってきたから一緒に寝ようって言ったら
鍵閉められて入れてくれなかったの。何でだと思う?」
飲んでた珈琲を噴き出しそうになった。正気かこの
「げほっげほっ……」
「あ、あら、大丈夫ですか……?」と言って背中をさすってくれるフラウさん。
「だ、大丈夫です。普通年頃の男女はよっぽど仲良くないとそういうことはしませんって」
私も恋愛はしたことないですけど、普通でないことくらいは分かる。
「でも、家族なんですよ?
もう親もこの世界にはいないし、二人っきりの家族なんだから
あれくらい寄り添って一緒にいないとレイくんだって寂しいだろうし……」
なるほど……両親と死別していたのですね。
レイくらいの歳の子なら両親が居ないと誰か一緒にいてあげないと可哀想だろう。
私だって姉が居なければきっと今より寂しかったと思う。
「フラウさんの気持ちは分かります。ただ、少し距離が近すぎますね…
男の子は女性に触れられると色々ありますし、添い寝はやり過ぎだと思います」
男はアレがアレしちゃうらしいし、ソラウさん羨ましいくらい美人で胸大きいから。
「
そこは抑えて距離感を取って、姉として弟を受け入れる感じにするのはどうでしょうか?」
自分で言ってて、あれ?これなんか違う気がするって思いました。
「あ、姉として弟を受け入れる…」
不味い、フラウさんが滅茶苦茶赤面してる。何か勘違いしてる気がする。
「いや、変な意味じゃなくて!
そう!弟が困ったり寂しそうな時にいつでも寄り添ってあげるとか、そういう意味です!」
変な意味の詳細は聞かないでほしい。R-18になってしまう。
「いつでも?」
「はい、彼が挫けそうになったときも傍ら(かたわら)で見守ってあげるんです」
「そうよね………うん。
ありがとう、エミリアさん。私、姉として頑張るわ!」
そう言って早速支度するフラウさん
「何をするんです?」
「レイくんのサポート出来るようにちょっと薬草採取、村の外に行ってきます」
「一人では危ないのでは――」
「大丈夫、大丈夫です!
いざとなれば敵を浄化とか出来ますし、基本村の近くに居ますから!それじゃ!」
そのままバタバタと外に行ってしまった。
後で弟のレイにも伝えて様子を見に行ってもらいましたが、多分大丈夫でしょう。
別の意味で大丈夫かなと思ったりしますけど…。
◆
食事を終えたレイは薬草採取に行った女神さまを探していた。
よく考えたら一人で行動するの初めてかもしれない…」
今までベタベタしていた偽姉
「女神さまを探さないと」
村の近くってことだし、そんなに遠くは無いと思ったんだけど…
そんなことを考えていると、近くからガサッと物音が聞こえた、
「姉さん!?」と思い振り返るのだが、違った。
「こいつは…」
居たのはウサギのような見た目で目が赤い動物だった。
正面に大きな角が生えている。こいつはアドレ―さんが言っていた一角獣か!
剣を抜き臨戦態勢に入る。
相手はこちらを攻撃対象とみなしているのか目掛けて突撃してきた。
「くっ!」
なんとか剣の腹で一角獣のツノを受け止める。
アドレ―さんから防御の仕方を教わっておいて良かった。
そのまま身を横に逸らし受け流して躱す、だが一角獣は再び距離を取ってから突撃してくる。
「<
初歩魔法の中の唯一の攻撃魔法で対抗するが、固いツノで弾かれてしまう。
マジックアローは魔法ではあるが矢や銃と変わらない物理攻撃だ、しかも威力も高くない。
「<
ツノでカバーできない箇所を連発して攻撃するが、一撃当たっても多少怯むくらいだ。
少し移動すれば攻撃を避けられてしまう。
この魔法では火力不足だ。剣で倒す必要がある。
が、あえて前に剣を地面に突き刺し、一歩下がってから再びマジックアローで攻撃する。
一角獣はこちらの剣を回避するギリギリの進路に迂回してこちらに迫ってくる。
「ここだ!」
レイは斜めに一歩前へ出て、
剣を地面から引き抜きながら横に薙ぎ払うと側面に走り込んできた一角獣の皮膚が切り裂かれた。
「グアア!」と血を流し悲鳴を上げる一角獣。
その様子を見て、レイは心は痛むが、襲われている以上どうしようもない。
「ごめん!」
ダメージを負って怯んでる内に剣を振り被りトドメを刺す。
初めて一人で魔物と戦い倒した。
しかし、スライムと違って殺すのには抵抗はあった。
「……スライムとは違って消滅はしないんだな」
一角獣は魔物と言うよりは魔物から身を守るために進化した動物らしい。
そのせいで好戦的になり、人にも危害を加えるようになったとか。
「……ごめん、僕ももう死にたくはないんだ」
陰鬱とした気持ちを振り払うように剣に掛かった血をふき取り鞘にしまう。
さっきの戦い、剣を手放したのは身軽になって攻撃を避けてカウンターを当てるためだ。
今の自分だと力が足りなくてどうしても剣を構えると動きが鈍くなってしまう。
それと利き腕に剣を持っているとマジックアローも撃ちにくかった。
「左手に指輪を嵌めた方が魔法も使いやすいかな…」
こうやって試行錯誤してレイは少しずつ強くなっていこうと決めた。
<レイは強敵を倒した>
<レイはLv5に上がった>
<剣の心得Lv2を獲得>
<
(いつもより成長が良いな、相手が強かったからか)
◆
「いたいた!女神さまーー!」
あれから探し回って(時々スライムを駆除しながら)すっかり昼になっていた。
ようやく木陰に隠れる女神さまを発見した。村から離れてたため中々見つけられなかった。
「もう、探し回ったんですからーって…」
女神さまはこちらに気付いておらず、誰かと話しているようだが誰も居ない。
声が小さいため聞き取ることは出来ないが、見たことのないような真剣な表情だった。
「……誰かと?」
姉さんはここ数日何処かに行ってたけど、誰と会話しているんだろう?
(……もしかして)
元々、女神さまは自分も転移に巻き込まれてしまっただけの事故で来ただけだ。
しばらくしたら力も戻ると言っていたはず。
つまり、もうその時なのか?
戻れるようになれば、僕の事など置いて帰ってしまうだろか。
「…………嫌だ」
僕はそう思ってしまった。
フリとは言ってもあんなに姉として接してくれていたのに。
それなのに僕を置いて帰るだなんて……
「……はい、すいません、これは……の勝手な………」
「礼装もお返しします……これで…もう、私は………」
「……分かっています、今まで……になりました……」
そこで話が終わったのか、女神さまは深呼吸をした。
……もし、帰ると言われたら僕は…。
「………レイくん?」
………
「レイくん……泣いてるの?」
………そう言われて、ハッとする。
「あ、僕は……」
気が付いたら僕は泣いていた。
「け、怪我でもしたの!?大丈夫?」
「ち、ちがっ…」
怪我なんてしてない、してないけど…
「……もしかして、話を聞いていたの?」
聞き取れなかったけど、それでも真剣な表情だった。
きっと元の場所に戻ってしまうのだろう。
そして僕以外の人をまた転生させて……。
「あのね、レイくん…」
「お願い、………帰らないで……ください…」
僕は、気が付いたら女神さまに抱き着いて泣いていた。
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