第八夜 6

 目を覚まし、すぐに三人がいなくなったことに気がついた。薬なら味で気がついてしまう。深く眠ってしまったのは、しまったからか――。


「平太! 起きてくれ!」


 藤助は平太をたたき起こす。もぞもぞしていたが、わけを聞き飛び起きた。


「三人の足音を聞いてくれ」


 平太は頷き、すぐさま虎猫になった。


「――怪言かいごん


 目を閉じ、耳を澄ます――。二手に別れた足音を聞き取ると、平太はカッと目を見開いた。



「おっちゃん、オレ、気になることがあるんだ」


 それは、まだ葉も若い五月。ゴールデンウィークの合宿での事だった。縁側で茶をすすっていた岩崎諭吉に藤助が声をかけた。


「里の、それも長老達が、よくゆきを受け入れたよな。よそもんは嫌いだし、……何より、おばちゃんの子なのにさ」

「ま、ばーさまの決めたことやからなぁ」


 ずずっと一口すすると、諭吉は諦め混じりの息を吐いた。


「あんまり出しゃばることはないけど、ばーさまが『黒』言うたら、白いもんでも黒いねん。昔からそうや」

「若い頃から頑固なんだな」


 藤助が苦笑いを浮かべると、諭吉ははたと思い出したように言った。


「そういや、オレの小さい頃から、ばーさまはしわくちゃやったなぁ」

「……え?」


 初めて聞く事実に、藤助は妙な居心地の悪さを感じた。


「あれ? 知らんかったか?」

「初耳……」


 そうか、と諭吉はまた一口すする。腑に落ちないまま、藤助はもう一つの疑問を口にしてみた。


「どうして、真名井のおばちゃんが裏切ったって分かったのさ」


 諭吉の目がスウッと細くなった。


「後でその場にいた大人に聞いたけど、おばちゃん、『止めて』って言ってたらしいぜ」


 何も答えず、諭吉はただ、池に目をやる。藤助はここぞとばかりにたたみ込んだ。


「言い伝えなら、じんろうは、新月生まれなら不老長寿、新月閏うるうどし生まれなら不老不死を得られるんだろ? なら、里を襲う必要はない。新月生まれをさらっていけばいい。なのに、なんで里を襲って、おばちゃんを死なせるようなことをしかけたんだよ?」


 諭吉は辺りをうかがうと、悔しげに口の端を噛む藤助にいざった。


「真相は他にあると思うてるんか?」


 藤助はうなずいた。



「おっちゃん、大当たりだったみたいだぜ」


 藤助はハンドルを切りながら、そうつぶやいた。

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