ミドリのキツネ

アオヤ

シガツバカオ

桜も散ってもう少しでゴールデンウィークというこの時期、かなり暖かくなってきたがまだまだ肌寒い日がある。


俺は教室の窓の外のベランダに腰を下ろしてライトノベルを読むのが好きだ。

春の陽射しを受けてポカポカしてくるし、春の花の香りを風が運んで来て心地良かった。


この高校に入学して2週間になるが、この場所は昼休みの俺のお気に入りで、定位置に成りつつある。


俺はこの定位置でこれからの高校生活の参考書となるであろうライトノベルを読み漁った。


ちょうどこの位置は窓が50センチ位立ち上がっているので教室からは死角となり、俺の存在を消す事が出来て読書するには都合が良かった。


今日も俺はいつもの様にお気に入りのこの場所でライトノベルに集中していた。

教室では女子が一人、窓枠に足を乗せ窓にしがみついて箒を振りまわしている。


「キャー 何で蜂が教室に入ってくるのよ?」


悲鳴の様な声を聞き、俺は顔を上げるとクラスメイトの宇津井翠ウヅイミドリを下から見上げる形になった。


「何でそこにいるの?」


彼女のスカートは春風にひらひらとたなびいていた。


翠は俺を一瞬キリッと睨みつけるがその顔はみるみる紅くなっていく。


俺は首を横に振り

「別に何も・・・」

俺が言葉を言い終える前に彼女は動き出した。


翠は怒って俺の元に来るのかと思ったら・・・

彼女は教室側に降りると

「茜ちゃん、ユウくんにスカートの中見られた。」

って俺の姉の茜に告げ口に走って行った。


なぜ俺の姉が同じクラスに居るのか?

勿論クラスメイトだからだ。

姉とは双子という訳では無い。

姉の誕生日が4月3日で俺の誕生日が4月1日だ。

つまり姉が生まれてからたった363日で俺が生まれたという事だ。

普通の親なら世間体を考えて誕生日を一日遅らせそうだが・・・

俺の両親はクソ真面目にエイプリルフールを俺の誕生日にしてくれた。

そのせいで姉は俺の事を4月1日生まれシガツバカオと呼んでいる。


姉の桜井茜が宇津井翠を連れて俺の所にやって来た。


「優、あなた翠ちゃんのスカートの中を覗いたの?」


「エッ、覗いた訳じゃないよ!上を見上げたら白・・・ いや、何も見てないよ!」


「このシガツバカオ!翠ちゃんに謝りなさい!」


シガツバカオは学校では無しという約束だったのに・・・・

でも、先に謝っておかないと後が怖いよな・・・


「ゴメンね翠ちゃん。出来る限りのお詫びはするから・・・」


「そう? それじゃ〜 GWに翠ちゃん観たい映画があるんだって!バカオの小遣いでチケット買って一緒に観てきなさい!それでイイよね翠ちゃん?」


なんでそんな事を姉が仕切るのか判らなかったが、翠ちゃんの方を見ると小さく頷いていた。

エッ、それでいいの?


「ゴメンね翠ちゃん。チケットは俺が買っておくから・・・」


なぜかお詫びで翠ちゃんとGWに映画を観る事になってしまった。

それでお詫びになるのか疑問に思うところだが翠ちゃんが喜んでくれればまぁいいか?


###

GWも初日を迎え俺の口もとは緩みっぱなしだった。

明日は翠ちゃんと映画デート?だ。

俺のニヤけた顔を見て姉は不機嫌になった。


「誰のおかげで翠ちゃんとデート出来ると思ってるんだ! 感謝の気持ちを少しはしめせ!お昼は母さんが居ないんだから、アンタの金でカップ麺でも買ってこい!」


姉の茜は今日はすっごく不機嫌だった。

姉の機嫌がこれ以上悪くならない様に近くのスーパーへ早速カップ麺を買い出しに行く。

スーパーの入口には赤いきつねと緑のたぬきが並んでいた。

「ウンこれにしよう!」

買い出しをさっさと済ませ姉にわかり易い様にテーブルの上に置いた。


お昼になってテーブルの上を見たら・・・

もう赤いきつねと緑のたぬきにはお湯が注がれて置いてある。

・・・エッ? いつの間に?

姉は一体どっちを食べるんだ?

蓋を見ると・・・

どちらにもマジックで落書きしてあった。

赤いきつねの"赤い"が消され"みどりの"と書き加えられていた。

緑のたぬきは"緑"が消され"アカ"と書き加えられている。

クイズか?

何かの暗号なのか?

"アカ"はたぶん茜の事だよな?

という事は"みどりの"を食べろという事か?

俺は赤いきつねの蓋を開けて一口食べた。

その時、後ろから声をかけられる。


「エッ? 食べちゃたの?ちゃんと名前書いてあっただろう?バカオは食パンでも食べてろ!」


声の方を向くと姉と翠ちゃんが居た。


「ごめんね、翠ちゃん。バカオが一口食べちゃたみたいだけど・・・」


「別に・・・ それ食べるからイイよ。」


翠ちゃんは俺から赤いきつねを受け取り、姉と向かい合って食べ始めた。


「アッごめんね!箸舐めちゃてた。」


俺の言葉に翠ちゃんはむせた。


「プッ ゴホゴホゴホ。」


そしてなぜか赤いきつねの蓋の赤より翠ちゃんの顔は真っ赤になった。


俺はなんでか分からず

「翠ちゃん大丈夫?」

って聞いたら・・・


「この鈍感男!少しは空気読め!」

って姉に怒られた。

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