平凡令嬢、最高の幸せを得る。

 鐘の音が鳴り響く。

 教会の中には、白のウェディングドレス姿の女性と白のタキシードの男性。

 そしてその二人を祝うために来た出席者たち。


「病める時も、健やかなる時も。愛すると誓いますか?」


 誓いの言葉を主導する初老の牧師。彼の名はウェンディ。

 テミス国において、5本指に入る程の権力者である。大司教だ。


 それ程の人物が牧師をするだけあって、新郎新婦もそれなりの立場の人間だ。


「はい。誓います」


 誓いの言葉を交わし、ゆっくりと左手を出した女性。

 彼女の名はパオラ。アルテミス教からは聖女と呼ばれる人物で、かつて悪政を敷いたヴェラ王国を倒したメンバーの一人だ。


「はい。誓います」


 そう言って、左手を出した女性の薬指に指輪を付ける男性。

 彼の名はリカルド。彼もまたヴェラ王国を倒したメンバーの一人であり、ヴェラ王国からグローリー王国に名を変えた、国の王だ。


 指輪の交換が終わり、誓いのキスをすると、周り……というか一部が湧き始める。


「イヨッ! お二人さんお似合いでんな!」


 ピーピーと指笛を鳴らし、茶化すような言葉で祝う男性たち。ローレンス、ミシェラン、シーズ。

 彼らはまるでどんちゃん騒ぎのようにしているが、誰もそれを咎めようとはしない。

 これがイーリスの商人たちが祝福する際の礼儀と知っているからだ。


 この場に居るだけあって、彼らもそれなりに名の知れた人物である。

 出席者の殆どが、十分な地位を持った人間だが、誰一人打算や社交辞令で参加している者は居ない。

 全員がこの2人の結婚を、心の底から祝福している者達だ。


「おいマルク。飲み過ぎじゃないか?」


「大丈夫れす。俺はまだ飲めます!」


 いや、若干一名ほど、心の底から祝福するにはまだ時間がかかる者もいたりする。

 だが、それでも祝福をしている事には違いない。

 

 新郎新婦が教会の外に出るのに合わせ、出席者も共に外へ出ていく。

 教会の外に出ると、割れんばかりの拍手が鳴り響く。そこに居たのは彼らの結婚を祝福する国民たちだ。


 教会の中から伸びる、赤い絨毯を敷かれた道を新郎新婦が歩いて行く。

 そして不意に立ち止まり、花嫁はブーケを空高く放り投げた。 


 受け取った者にも、受け取られなかった者にも幸せが来るようにと願いを込めて。

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