30.平凡令嬢、戦後処理の会議に出る。

 私達が王宮を制圧してから数日が経ちました。


 ヴェラ王国は、グローリー王国と国名を変え、リカルド様が王に選ばれました。

 とはいえ、国の名前が変わっても、今のところ法律等は旧政府とあまり変わりません。宗教の自由が追加された程度でしょうか。


 本来ならばレジスタンスや民の意見を聞きいれたい所ですが、その前にしなければいけないことが山ほどあります。

 国内はいまだ混乱の渦にあります。


 各国の軍隊が居る各都市返却の交渉や、村や集落に居る傭兵崩れのゴロツキを排除しなければなりません。 

 疲弊した国力も戻さないといけません。

 なので後処理に今後の対策などの会議をしましょうという話になったのですが……。


「あの、私も会議に出ないといけないのでしょうか?」


 何故か、その会議に私も出席する事になりました。 

 会議に出るメンバーは王のリカルド様は当然ですが、その腹心として大臣に抜擢されたマルク様。

 イーリスからは、商人連合の代表としてローレンス様。

 テミスからは、アルテミス教の代表としてウェンディ様。

 その他各国の主要たるメンバーが居る中、何故か私も参加する事になっています。


「いやぁ、ほんまめでたい日でんな」


 そう言いながら、笑顔で愛想を振りまくローレンス様ですが、皆緊張の面持ちで反応はそっけない物です。

 会議の準備が整うまでの間、ローレンス様は色んな方に話しかけていますが、どれも社交辞令程度の反応しか返ってきません。

 それもそうでしょう。今ここでは色々な思惑が渦巻き、下手をすれば自分に国の将来に関わるかもしれないのですから。

 

 会議室にはリカルド様とマルク様以外が揃いました。

 しばらくして、リカルド様とマルク様が姿を現しました。


 本来なら勝利の美酒に酔いしれたい所でしょうが、その様な暇があるわけもなく、寝る間も惜しんで働いているようです。

 それなのに、2人は疲れた様子も見せず、軽やかな足取りで自らの席へ歩いて行きます。

 本当は、相当疲れがたまっているはずです。ですが諸外国との会議の席、弱みを見せつけまいと必死なのでしょう。


 マルク様が会議のための資料をそれぞれ配り、席に着きました。

 上座に座ったリカルド様がその様子を見て、出席者が揃ったことを確認しました。


「皆様。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。グローリー王国の王として、この場を設けさせて頂いた事、心より感謝を申し上げます」


 そう言って席を立ち、頭を下げようとしたので、私は慌てて止めました。


「リカルド様。今やあなたは一国の王です。感謝の気持ちは痛いほど分かりますが、気軽に頭を下げてはなりません」


 私が止めると、少し困惑の表情を見せるリカルド様。

 確かにこの場に居る方々には、簡単に返しきれないほどの恩はあります。

 ですが、だからと言って一国の王が頭を下げては面目が立たなくなります。


 ……などと考え、思わず動いてしまった事を即座に後悔しました。

 一挙一動で今後が決まりかねない場において、私が出しゃばって良い道理がありません。


 サーッと、自分の中で血の引く音が聞こえた気がしました。

 周りからは完全に注目され、これでは私が各国へ無礼を申し立てたと取られても仕方がありません。

 完全に緊張していたとはいえ、私はなんてことを……。


「そうやそうや、聖女の姉ちゃんの言う通りやで」


 困り果てた私に、ローレンス様が助け舟を出してくれました。


「そうですね。リカルド様、聖女様の言う通りだと私も思います」


 それに呼応するようにウェンディ様が言うと、リカルド様が少しだけ気まずそうな顔をして席に座りました。

 隣ではマルク様が顔を真っ青にしています。本当に申し訳ない気分で一杯です。

 自分の行動を恥じ入り、スカートの裾をぎゅっとつかみ、泣き出しそうなのを堪えました。

 正直、今すぐにでもこの場から消えたいほどです……。


「ほう。彼女が噂の聖女ですか」


「なるほど。祭り上げられるだけあって、教養もしっかりしていて、それでいて肝が据わっている」


「し、失礼しました。パオラと申します。聖女などと分不相応な呼ばれ方をして恐縮ですが、どうぞお見知りおきを」


 話題にされ、チラチラと見られているので、私はその場で立ち上がり、軽くスカートの裾をつまみ挨拶をします。

 そこから各自挨拶が続きました。

 全員の挨拶が終わる頃には、それぞれの顔に笑みが浮かんでいます。

 先ほどの会話で緊張が解けたのでしょう。皆の緊張を取り除けたという喜びよりも、失敗が大事にならなくて良かったという安堵が大きいです。


 会議はその後、何事も無く進んでいきました。

 ヴェラ王国だった頃の各国への被害の賠償、各都市にいる軍の今後の動向、支援物資の要求など。

 どの国も、見返りは当然求められますが、こちらへの援助を惜しまない方針です。

 それぞれの国とは同盟を結ぶという形で、なんとか会議が終わりました。


「そういえば、商業都市があった場所を開発せぇへん? あそこに街があると色々便利なんやけど」


「よし、それじゃあ前に転移させた商業都市を元の場所に戻そう」


 ローレンス様の問いに、商業都市を転移して戻しますねと軽く言うリカルド様。

 それを聞き。誰もが青ざめて、引きつった笑いをしていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る