20.非凡令嬢、悪い噂を断つ。
-カチュア視点-
「何ですか、この質素な食事は!」
思わず私はヒステリックな声を出してしまいました。
しかし、それは致し方のない事です。
私達に出された食事があろう事か、普段よりも3品も少ないではありませんか。
「も、申し訳ありませんカチュア様」
「このような粗末な物が、まさか私やジュリアン様の食事というわけではありませんよね!?」
「ち、近頃は物資が不足しておりまして」
「ええい。言い訳は聞きたくありません。誰かこの者をひっ捕らえなさい。不敬罪で即刻首を刎ねよ!」
「ヒ、ヒィ!!!!」
涙で顔をグシャグシャにした男に、兵士たちが取り囲みました。
ですが、兵は皆困惑し、ただ取り囲むだけです。
「何をしているのです! 早く捕えなさい!」
「ハッ! 直ちに」
そこでジュリアン様が口を挟みました。
「
ジュリアン様の一言で、兵士たちが動きを止めます。
「確かに、私とカチュアではこの量でも食べきれぬ。そして今は、物資の供給が追いついておらぬ状況。そこのコック長もそれを懸念し少しでも節約するために減らしたのであろう?」
「は、はいっ!」
「その判断は正しくもあり間違いだ。確かに節約は大事だが、それをこの国の王である私の食事にするのは、カチュアの言う通り不敬罪に当たる」
「ははっ! 大変申し訳ございません」
土下座する男を見て、ジュリアン様は満足したのか笑みを浮かべます。
「私は君の料理が気に入っているんだ。今回は不問にするが、次は無いと思うのだな。下がれ」
顔を涙と鼻水でグシャグシャにした男、コック長が何度も頭を下げながら退室していきます。
「カチュア、君は私を立てるために怒ってくれたのだろう? 君は本当に素晴らしい女性だ。王である私ですら勿体なく感じるよ」
「そんな、我が身に余る過分なお言葉……私は当然の事をしたまでです」
ジュリアン様が王位について数週間。
きっかけは前王は商業都市が消失し、何とかその穴埋めをするため、最も近隣に位置するイーリスとテミスに交渉をかけました。
しかし、その交渉が悉く失敗に終わったせいで経済が不安定に陥ったのを期に、ジュリアン様に王位を投げ自らは隠居する形を取りました。
王位を継承し、戴冠式を終えたのですが、問題は山積みです。
むしろ戴冠式に追われたせいで、私もジュリアン様も政治に携われず、国内の治安の悪化を招いてしまいました。
近頃不穏な噂が流されているのを耳にします。
私やジュリアン様が偽の英雄で、本物は妹のパオラやジュリアン様の弟君であるリカルド様であると。
初めはバレたのか不安になりましたが、話の内容を聞いてみるとジュリアン様とセットになっています。
要は王政に不満を持つ人間、大方レジスタンス辺りが適当にでっち上げのデタラメ話を流布してるだけでしょう。
もしここで、うわさを気にしたジュリアン様が「真実のために、今一度我々の力を見せよう」等と言い出せば、私が平凡だとバレてしまいます。
「最近は諸外国からの援助も芳しくない状況です。今一度、国王陛下と王妃殿下の御威光を示すというのは、如何でしょうか?」
などと考えていたら、狙ったかのようなタイミングでザガロ宰相が余計な事を言い出しました。
口は災いの元。その舌を今すぐにでも引っこ抜いてやりたいくらいです。
「御威光を示すというと?」
「はい。御二人が諸外国へ顔を見せて、類稀なる才能による魔術を見せつければ……」
「バカモノッ!!! 国王と王妃が国を出て力自慢など、それこそ笑い者だ!」
「そうですっ! そこまでしないといけないほどに、国が疲弊してると言いふらしているようなものです!」
「ヒ、ヒィ。浅慮な発言、お許しをっ!」
なんとかこの場は切り抜けられましたが、このままでは時間の問題です。
こうなれば、悪いウワサを断ち切るしかありません。
少々強引ですが、ジュリアン様と相談し、「私やジュリアン様への批判ともとれるウワサをした者、聞いた者」に対し不敬罪が適用されるようにしました。
こうして、不敬罪で捕らえた者を次々と処刑していきました、
これで悪い噂も無くなるでしょうね。ふふっ。
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