10.平凡令嬢、商会の屋敷に到着する。

-パオラ視点-



 商業都市が消失したことにより、国は物資の供給が滞らないよう、近隣諸国の中から商業都市に最も近い位置にあるイーリス王国の商会へ支援を要請する。と言うのがマルク様の見立てでした。

 ですので、私とリカルド様とマルク様でイーリスへ向かい、こちら側についてもらえるように交渉する。その手筈でした。


 馬車でイーリスへ向かう道中、私が平民の生活について詳しくない事をいいことに、リカルド様があることない事を教えて、嘘だと知らされるたびにクスクス笑われたりとしました。

 悪戯好きな性格なのか、少々おいたが過ぎます……。でも、私がむくれると「ごめんごめん」と謝りながら、優しく私の頭を撫でてくれるのは、嫌いじゃないかもしれません。

 程々にしてくれるのでしたら、まぁ構わないのですが。


「このような草で、あのような奇麗な音が出るはずがありません。リカルド様はまた嘘をおっしゃったのですね」


「いやいや。これは本当さ。なんならマルクにもやってもらえば良い」


 リカルド様は、手に持った葉っぱをマルク様に手渡します。

 マルク様はそれを受け取り、口に当てると「プー」と高い音が響きました。


「残念ですが、リカルドが言ってることは嘘じゃないですよ」


「マルク様がそういうのでしたら、信じます」


「ははっ、それではまるで私が嘘つきみたいじゃないか」


 笑いながら新しい草を取り出し、得意げに音を出すリカルド様。


「みたいじゃなく、そうなんだろ」


 呆れた様子のマルク様は、一つため息をついてから、リカルド様に合わせて音を出します。

 私も同じようにと意気込んでみたのですが、スースーと風の抜けるような音がするだけで一向になる気配はありません。


「もしかしたら、パオラの葉っぱが悪いのかもしれないね。私のを使って御覧」


 そう言って、リカルド様は自分の草で音が鳴るのを確認してから、私に手渡します。

 私はそれを受け取り、口に当ててみました。


「……プー」


 鳴りました!


「ほら、嘘じゃなかっただろ?」


 リカルド様はニッコリと笑って、私を見ました。彼の顔には「謝罪は?」と書いてあります。


「その、疑ってしまい申し訳ありませんでした」


 自業自得です。と言いたいところですが、今回は疑った私に非があります。

 とはいえ、今は自責の念やリカルド様に対する遺憾に気持ちより、この草笛というものへの興味が勝っていました。

 道中、休憩のたびにリカルド様は草花を持ってきては、色々な音色を聞かせてくれました。



 馬車の揺れが収まり、安定し始めました。どうやらキチンと整備された街道を進んでいるようです。

 そこまで街道が整備されているという事は、そろそろ街につくという事でしょう。


 街についたのは、完全に日が沈み、辺りが暗闇に包まれる時間でした。

 夜で歩く人は少なく、私たちは商業区を抜けて市街地、その奥へと向かっています。

 市街地は奥に向かうにしたがって、建物の数は少なくなっていきます。裕福な層が暮らすエリアなので、一軒当たりが占める面積が多いからです。


 その最奥にあるお屋敷。ここはローレンス商会の会頭ローレンス様の住むお屋敷です。

 他の建物より二回り以上も大きく、例え貴族であっても、これほどの屋敷を所有しているものは少ないでしょう。

 流石大手の商会を抱える大商人なだけはあります。


 本来なら、こんな夜更けに唐突に訪問するのは、あまり褒められたものではないのでしょう。

 ですが、グズグズしていて我が国と協力状態になられてしまっては困ります。

 すぐさま交渉とまではいかなくとも、せめてアポイントメントを取れればと思い、馬車を走らせました。


 何やら嫌な予感がします。

 屋敷の前につくと、これだけの屋敷だというのに警備の者はおらず、静まり返っています。


「急ごう、何かあったに違いない」


 すぐさま馬車を飛び出したリカルド様の後を追って、私たちも飛び出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る