5.平凡令嬢、自らの罪に嘆く。

「復讐……。ですか?」


「はい。私の名前を知っているという事は、私の噂についてもご存じかと思います」


「えっと……。その、外国へ留学中のような感じで……」


 噂は知っています。ですが本人を前に「兄を恐れ逃げ出した」等と言えるわけがございません。 

 なので、オブラートに包みました。


「どうやら貴女はお優しい方のようだ。兄を恐れ逃げ出した私の心中を案じていらっしゃるのですね」


 そんな私の気遣いを、無用だと言わんばかりに、リカルド様は優しく笑ってくださいました。

 ですが、その笑みに自暴自棄のようなものが感じられ、笑っているのに泣いているように思えます。


「笑ってくださっても構わないのですよ」


「いえ、笑いません」


 私がリカルド様を笑えるはずがありません。何故なら私も、カチュアお姉さまから逃げ出したのですから。

 逃げ出して、そして感情のままに暴れた私が、どうしてリカルド様を笑うことが出来るのでしょうか? 


「リカルド様。その、迷惑でなければ私の話も聞いていただいて宜しいでしょうか?」


「あぁ。貴女がどうしてあそこに居たのかも気になっていたんだ」


 リカルド様は椅子を持ち出し、私の居るベッドの横に椅子を置き、座りました。

 組んだ両手の腕に顎を乗せ、まっすぐ私を見ています。


「私の名はパオラ。ジュリアン様とは元婚約者の関係です」


 事の顛末を、私は話し始めました。

 と言っても、話す事は多くありません。

 私はジュリアン様と婚約を結びましたが、あまり会う機会は無かったのですから。

 気づけば婚約を一方的に破棄され、カチュアお姉さまに取られた。ただそれだけの話です。


「そして私は、街の人達を……」


 話していく内に、自分がした事の重大さを実感しました。

 体が震え、思うように言葉が出せません。


 こんな私が復讐の手伝いを?

 手を汚し、既に復讐される側に回っているというのに、何とあさましい……。


「リカルド様。申し訳ありません。罪で汚れた今の私には、復讐をお手伝いする権利はありません」


「貴女は、後悔していらっしゃるのですね」


「はい。もしこの命で償えるのなら、喜んで差し出します。ですが私一人の軽い命で償いきれる事ではありません。せめてもの罰を受けるため、出頭しようと思います」


 リカルド様の申し出は嬉しかったですが、今の私にそのお誘いはもう遅いのです。

 せめて、もう少し早くリカルド様と出会えて居れば……。


 そんな私に対し、リカルド様は悪戯っぽい笑みを浮かべ、クスクスと笑っていました。

 真剣に話したつもりなのですが、そんな対応をされるのは、些か不本意ではあります。


「貴女は一つ、勘違いをしていますよ」


 勘違い、ですか?


「どちらでも良いので、手の平を上にして、手を出して頂けますか?」


 言われるがままに、右手を差し出してみます。 


「わっ!?」


 リカルド様がパチンと指を鳴らしました。

 すると、私の手の上に、キャンディが現れたのです。


「貴女が街を破壊する寸前の所で、私が転移魔法で街ごと移動させました。なので貴女はまだ汚れてなどいませんよ」

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