第52話 宴(うたげ)とリバイアサン


 王国崩壊規模のモンスタースタンピードを回避したホロン王国の王宮は、パーティーの用意で大忙しであった。

 メイドさんから執事達は、大広間の掃除から飾り付けまで休む暇がない。

 帰って来た、近衛第2部隊長様や代理隊長様もこれまでの報告書作成で忙しくしていた。

 しかし、一番胃が痛いレベルでの緊張の中、忙しくしていたのは、厨房であった。

 A級S級クエスト素材であり、幻と言われた文献でしか見たことがない食材、ウマイ茸を筆頭とする数種の茸がパーティー用の食材として持ち込まれたのである。


 失敗は許されない。


 焦がすことなく、絶妙な火加減を維持して調理する。


 料理書をもって、指示を出す料理長。


 もう逃げ出したい気持ちを抑えてなんとか調理をしていく。


 そんな苦労を知ってか知らずか、戦勝パーティーが始まる。



ホロン王国パーシャル

「皆のもの。

 今日はよく集まってくれた。

 いつもなら先に褒美を取らすところだが、伝説の食材を辺境伯がもって来てくれた。

 鮮度が大事なのは知られているとおりだ。

 まずは伝説を味わおう。」


 そして、食事会が始まった。


 「すごい!肌の傷が治った。」

  涙する御婦人。


 「高級ポーションでも治らなかった右半身の麻痺が治ったぞ!

 ジャンプも出来る。」


 いろいろな、歓喜の声があがる。


 しかし、辺境伯のテーブルは感謝の陳情が来るが、暗かった。


 不完全スタミナポーションが解毒されたからである。


 ヒーハー!やヒャッハー!とかヒュッハー!な状態から素にもどった者達の表情はどことなく暗い。


 そして、ついに本日のメインイベントである、ヨウ・ヨウガの子爵授賞に続き、ヨウ・ヨウガの第3王女ミルトと辺境伯三女ミリとの婚約発表になる。


 周りの日頃、反対意見を出す貴族達は、満面の笑みで式典の整列に加わる。


 なぜ?貴族達属する派閥ボス達の(不治の病)が目の前で治ったからである。


 文句無しの珍しい式典が始まろうとしていた。

 扉が開き、ヨウ・ヨウガが入場するのを待つと、何やら長方形の大きな箱が入ってきた。


国王パーシャル

「??」


ミリ

「?!!!!あ!(まずい。)」


辺境伯

「!!(忘れておった。)」


 箱の板が取り外される。


 そこには、棒で立たされた状態に縄でくくりつけられた、目が虚ろな黒髪の青年がいた。


第3王女ミルト

「ヘ?」


辺境伯3女ミリ

「は、はは」


国王パーシャル

「これは?」


 国王がどういう対応をしようか困っていた時、兵士が入ってきて宰相に耳打ちする。

 目が飛び出るほどビックリしている宰相。

 国王はチャンスと思い、「どうした?」と声をかける。


 宰相

「伝説のモンスター、リバイアサンが西の海に出現したのが確認されました。」


 「なに!」「復活したのか!」「海路が!」

 「海のスタンピードが来るぞ!」


 いろいろな声が出てくる。


 国王

「コホン!」


 静まりかえった大広間で国王の次の発言が出ようとした時、


 ボン!


 ヨウ・ヨウガから白い煙があがる。


 「フャ~ン」


 そこにあったのは柱にくくりつけられた、ペットとして人気がある、フニャロットと呼ばれるヒョウ科(異世界での分類)の動物であった。


 辺境伯一行は真っ白というしかない状態で、ただ立っていた。

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